第82話 港町での防衛戦

ケララケの後ろに控えていたハルザンド兵が鳥頭に向けて矢を放った。しかし鳥頭に普通の矢は通じない。鳥頭は避ける事もせず空中に留まっていた。多くの矢が射掛けられたが、鳥頭は笑って弾いていた。それでもハルザンド側は矢を射掛け続けた。


その多くの矢の中を一際鋭く飛ぶ矢があり、鳥頭も危険を察知したのかその矢を躱した。鳥頭は矢が飛んでいった方を見たが、見失った様で、周囲をキョロキョロと見渡していたが、その間に矢は大きく旋回して鳥頭の後方に回り込み、鳥頭の羽根の付け根を背後から射抜いた。驚いて振り向いた鳥頭に地上から二の矢が向かい、鳥頭のもう一方の羽根を射抜いた。両方の羽根を射抜かれた鳥頭は上手く飛べず、地面に落下した。


「すまねえ、しくじった。変な矢を放つ奴がいるから気をつけろ。」


鳥頭のその言葉を聞いて馬女は矢を放った兵、不思議な光を纏った兵に向かって走り出した。その光を纏った兵は神装具を携えたマリリアだった。多くの兵が馬女の進む先から逃げると、マリリアの前に1人の兵が待ち構えていた。馬女は構わず2人まとめて踏みつけようと馬の前脚を上げて棹立ちする。その瞬間、露わになった馬女の腹が深く切り裂かれた。倒れ込む馬女の前には光の盾と鎧を纏い光の剣を持ったジュードが立っていた。ジュードは倒れ込んで手の届く位置にきた馬女の首を躊躇なく刎ねた。


馬女の首が刎ねられたのを見た獅子頭は一瞬手を止めた。その獅子頭の体をケララケは尻尾で打ったが、その頃にはケララケは傷だらけで、動きも鈍く、獅子頭にダメージを与えられなかった。ジュードは獅子頭に向かっていった。


「ケララケ、退がれ。後は俺がやる。」


「すっ、すまない。頼んだよ。」


ケララケの尻尾に打たれて我に返った獅子頭は向かってくるジュードに構えたが、その眼はまだ驚きの色を残していた。ジュードが上段から光の剣を振り下ろす。獅子頭はそれをどうにか手で払ったが、違和感を感じて手を見ると、その手にある薬指と小指は切り取られていた。怯んだ獅子頭は大きく後ろに飛び退いた。そこにマリリアの矢が放たれ、獅子頭の右肩に突き刺さった。


「なんなんだ、コイツらは。聞いてないぞ。俺達は無敵の力を与えられたんじゃなかったのか。」


「ちっとは考えなよ。ゾルダンは力はあるけどオツムは弱いねぇ。無敵ならハグバは死なないし、あたいも片腕を失っちゃいないよ。」


「こんな...こんな事があってたまるかぁぁぁ。」


そう叫ぶと獅子頭はジュードに再び襲い掛かった。追い詰められた獅子頭の攻撃は激しく、力任せに振るう爪によりジュードの光の盾や鎧が削れていく。ジュードも獅子頭に何度も斬り付け、相手に多くの傷を与えていった。そうして暫くは戦い続けたが、ついに獅子頭は力尽きてその場に崩れ落ちた。獅子頭の両手の爪は既になく、牙も折れ、身体中に無数の切り傷を受けていた。ジュードは獅子頭の喉元に光の剣を当て、トドメを刺した。


鳥頭と敵兵は獅子頭が倒れた事で抵抗を諦めた様だった。地面に座り込み、武器を持っている者はそれを放り投げた。ジュードがその様子を見ているとマリリアがジュードの近くまで来たが、彼女はかなり疲弊していた。ふらつくマリリアの体をジュードは優しく支えた。

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