第41話 魔神との戦い

人型の影は先日と同様に腕の先が幾つも枝分かれして触手の様になっている。しかし触手を鞭のように振るうその攻撃は先日の影よりも速く重い。加えて今回の影は、翼にある羽の一枚一枚が鋭い刃の様にジーク達を襲い、また同時に魔術をも扱った。


シンシアは聖者の力で祈る。魔神はその聖なる祈りが気に入らない様で、シンシアには近付かず、羽の刃や魔術による遠距離攻撃をしきりに仕掛けるが、カインが土壁や炎でその攻撃を防ぐ。カインは同時に魔神へ向かって魔術で攻撃するが、しかし神格を持つ魔人を傷つける頃ができず、牽制や目眩し程度の効果しかなかった。それでもカインは魔術による攻撃を続けた。


イェルガはいつもの大剣を大盾に持ち替え、ジークに迫る触手などの攻撃を防ぎ続けた。先日の影よりも強力な攻撃を受けてイェルガは何度も弾き飛ばされるが、その度に起き上がり、また攻撃を防ぎ続けた。既に着ていた鎧は一部が破損し、持っていた大楯も折れ曲がっている。それでもイェルガは諦めなかった。


ジークは魔神を攻撃し続けた。イェルガが防ぎ切れなかった魔神の攻撃を光の盾で防ぎつつ剣撃を放っていたが、途中その剣が折れてしまうと、今度は素手で魔神を殴り始めた。するとジークの両手に光が集まり、光の剣となった。ジークの勇者の力が更に成長した瞬間だった。光の鎧を着け、光の盾に守られ、光の剣を両手に持つその様はまるで神話で語られる闘神の姿だった。ジークは攻撃を続け、その攻撃が徐々に魔神に届き始めた。


魔神はジークを危険と認識し、攻撃の全てをジークに集中し始めた。イェルガとカインは必死にジークを守る。ジークも魔神の攻撃を受けつつも光の剣で魔神に斬りかかる。魔人と3人の応酬が激しさを増していった。その時、後方にいた筈のシンシアが魔神に向かって走り出していた。


「下がるんだシンシア!」


ジークは咄嗟に叫んだが、シンシアは構わず魔神に向かう。しかし、シンシアが魔神の側に辿り着く前に魔神はシンシアへ向けて触手を鋭く突き出し、その触手をシンシアの腹部に突き刺さしてしまった。シンシアは吐血し、その場に崩れ落ちそうになるのを堪えて、魔神の触手を掴んでどうにか立っていた。


「この時を...ぅぅ...待っていました。」


シンシアはそう言うと最後の力を振り絞り聖者の力を解放した。触手を掴んだシンシアの手が光り始める。シンシアが発したその光は急速に周囲へと広がり、ジーク達や魔神までも飲み込んでいく。聖なる光に包まれて魔神は硬直し、魔神の攻撃が止んだ。


「ジーク...お願い。」


シンシアがその言葉を言い終わる前にジークは反射的に動いていた。魔神に向けて飛び上がり、光の剣を振り下ろす。その光の剣は魔神の影を真っ二つに切り裂いた。

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