ep4-5

「おまえ本気で言ってんの?国一番の騎士が?平民の、それも男に間違われるような見た目で、おまけにこの目つきの悪さときた、この私のことを守るって?王都限定でもウザいのに、頭おかしいんじゃねぇの?」


 リィルの口の悪さにシリウスは目を丸くする。それを見て、リィルは鼻で笑った。


「だいたい、おまえも騎士ならわかるだろ?平民がどれほど肩身狭く生きてるか」


「ああ……それは知っているよ」


 シリウスは真面目な顔で頷いた。騎士であり貴族でもあるシリウスなら尚更わかる。貴族と平民では身分差がありすぎるのだ。


「知っているなら話が早い。おまえ前に言ったよな?自分の主人に相応しい人物になったならって。そうしたら王都限定じゃなくて、この身全てを捧げるって。なれるわけねぇだろ?平民が逆立ちしたって貴族にはなれないんだから。なれるとしても、それなりの功績をあげるか……いや、それも難しいだろうな。平民が貴族になるのなんて夢物語だ」


「……」


「おまえ、冗談だとしても笑えねぇの。騎士のくせに夢見すぎなんだよ。身分差ってもんをいい加減理解しろよ?このクソ野郎っ」


 リィルの言葉はシリウスを傷つけたはずだ。しかし彼は顔色を変えない。ただ真っ直ぐにリィルを見つめていた。リィルはそれを見て更に続ける。


「おまえはこの国の一番の優秀な騎士だろ?そんなすごい奴に守られるような価値、私にはないんだよっ!」


 汚い言葉で罵って、線を引く。リィルは心の中で諦めたように笑った。これでいい、ここまですればシリウスは自分を見限ってくれる。そう思っていたのに、シリウスという男はどこまでいっても騎士だった。リィルの妄言にも屈せず、寧ろそれは真意ではないと理解しているような雰囲気でいる。


 ーーなんで、なんでそんな顔できるんだよっ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る