ep3-9

 シリウスは名前を呼びリィルを自分の方に向かせ、さらに腰を抱き寄せた。密着した身体にリィルは顔を真っ赤にする。


「っ!?シリウスさん!」


「私は騎士だ。他のどんな者が相手だろうと君を守ることができるよ。君に対する侮辱、非礼の言葉を絶対に届かせない」



 そんな真剣な目で言うシリウスにリィルはドクンと胸が高鳴った。その心臓の音が彼に聞こえないか心配になる程、心臓が煩いくらいに鳴っている。


「ちょ、ちょっとシリウスさん。いくら騎士でもこんな……優しすぎませんか?」


「私は相手が誰でも守るべき主人ならばこれくらいの敬意を払う。君は男だから戸惑うかもしれないが」


「いや、その、だって……」


 リィルはそう言いつつもシリウスに身を委ねる。シリウスはリィルのことを男だと誤解しているから、ここまでしてくれているんだなと思った。もし自分が女だとわかったら……令嬢でもない自分はこんな機会は一生ないかもしれない。


 ーーああ、私は何を考えてるんだ。馬鹿らしい。


 そう自分を叱責して頭を振るが、それでもシリウスの温もりと匂いに心が揺さぶられてしまう。まずい、これ以上はもたないとリィルが離れようとして、一瞬よろめいた。それを支えようとシリウスは少し離れたリィルの腰を支える。

 

 先ほどよりも近づく2人。目の前にある美丈夫の顔をリィルは見つめて、顔を真っ赤にさせてしまう。


「ぅあ……あの、シリウスさ……」


「リィル……君というやつは」


 リィルの反応にシリウスは切なく困ったような声を漏らした。相手は男だというのに、なぜこうも胸が高鳴るのか……シリウスは己を律してリィルをしっかりと立たせて体を離す。


「体幹も鍛えた方がいいなリィルは。いざというときに、大切な人を守れるように」


 そう穏やかな笑みを浮かべて言うシリウスに、リィルは胸が締め付けられる気がした。

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