ep1-14

 可愛らしくプンプンと怒るエレナにリィルは痛みを堪えつつ苦笑いをする。ふと、自分がどうやってここにきたのか疑問になる。服装も執事服ではなく、寝巻きのようなパンツスタイルの上下でラフになっていた。


「あの、エレナお嬢様。私はどうやって……」


「先程、素敵な騎士様がリィルを連れてきてくださったのよ。銀髪に琥珀色の……リィルも知っているでしょう?この国の一番優秀な騎士の彼を」


 エレナの言葉にリィルは全て思い出して目を見開く。そうだ、シリウスが助けにきてくれたのだ。まだちゃんとお礼も言えていない。


 リィルはベッドから飛び出してエレナの静止も無視して部屋を出ていく。


 廊下を駆ける度に体の痛みは酷かった。しかし、それを気にして立ち止まることはできない。


「シリウスさん!」


 エントランスに続く2階の階段の上から、ようやくリィルはシリウスの姿を見つけた。

 今まさに屋敷の扉を出ようとしていた彼は、リィルの声に振り返る。


「あのっ、私……」


 目つきの悪さは健在だが、頬も腫れて痛々しいリィルの姿。それに加えて、シリウスに対し申し訳ないという感情に押しつぶされそうになった表情。


「すみません……私のせいで……」


 リィルが発した謝罪の言葉に、シリウスは微笑むと来た道を戻り階段をゆっくりと昇り始める。


 そして、リィルの前までくるとその場に跪いた。


「君が無事でよかった」


「……っ!」


 そんな騎士として当たり前の言葉を、リィルは嬉しいと思ってしまった。思わず泣きそうになって慌てて横を向いた。顔を隠すように斜めに俯いていると、シリウスの手がリィルの手に優しく触れる。そして眉を下げて、悲痛な顔をした。


「私は君の騎士になると言いながら、守らなければならない君を危険な目に合わせた。名ばかりの騎士で不甲斐ない。本当にすまなかった」


「そんなことっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る