ぷらまい30

紀伊かえで

第1話 プロローグ

 堺市でいちばんかわいい子とおおとり中学で同級生になると噂を聞いたのは、あたしがまだ鳳南小に通っていた小6の冬だった。名前は山田ひなたちゃん。身長も小さくて顔もものすごくかわいいらしい。それに対してあたしは鹿渡かど弘子。身長も小6にして170近くあり、昔からあだ名は「でか」。名前も身長も顔もかわいらしいところは全くないし、昔からあたしを女の子として扱ってくれる同級生はいない。あたしは自分にもひなたちゃんみたいにかわいいところがあればいいのになって噂を聞きながらひなたちゃんのことをちょっとうらやましく思った。そしてあたしは決めた。中学に入ったら絶対にひなたちゃんと友達になってやるって。


 あたしが住んでいるのは大阪府の南部の堺市西区鳳って街。大阪市に隣接する大阪でも屈指のベットタウンで、JR阪和線の鳳駅に急行が止まることから、最近一層ベットタウン化がより進んで、鳳だけで十分生活できるほどの規模の街になっている。あたしの通っている鳳南小が鳳南町と鳳西町、鳳東町の一部が校区になっていて、南町の一部が再開発されてアリオ鳳とか大規模マンションなどが出来たせいで南小の人口密度はかなり上がった。そして鳳小の校区は鳳中町と鳳北町、鳳東町の一部。こちらも開発はあるけど、南小地区ほどではない。それでもあたしが4月から通うことになる鳳中は堺市でも有数の生徒数を抱える公立中学でもある。


 入学式の日にあたしは噂の山田ひなたちゃんを早速探したけど、クラスが違いひなたちゃんは見つからなかった。早くどんな子なのか見たかったなと少し落胆した。だけど体育館で行われてた入学式に一人だけ制服でなく体操服を着ている子がいて、あたしは一目でその子が山田ひなたちゃんだと分かった。小さな身体にすごく整ったかわいい顔に細い髪の毛が首筋でカットされたふんわりショートヘアー。見ほれる程透明感のある白い肌。ただかわいいだけでなくひなたちゃんから湧き出る人を惹きつける柔らかな雰囲気が堪らなく美少女感を出していて、噂でしか知らない南小の人たちがひなたちゃんを見てざわついているのがすぐに分かった。あたしもたぶんにもれずひなたちゃんに見ほれていた。そんなとき前に並んでいた鳳小のまだ名前もわからない同じクラスの女の子が振り返り私にこう言った。

「ひなちゃんやろ~。まあ、初めて見た人はみんな驚くよな。めっちゃかわいいもんなぁ。でもひなちゃん、男の子なんだよ」

 あたしは初めからかわれているとしか思えなかったけど、そんな事お構いなしにその女の子が何故か自慢げにひなちゃんの話をさらに続ける。

「制服着てないやろ。あれな、実はひなちゃんのお母さん、女の子が欲しかったんやけど、生まれてきたのが男の子で、だから女の子のように育てているからなんやで。予想はしていたけど、やっぱり男物の制服は着せなかったか。さすがにひなちゃんも女物の制服は拒否したやろうし。言っておくけど、ひなちゃんと話したら普通に男の子やから」

「でもひなちゃんって言わなかった?」

「あー、それなぁ。小学校の頃、山田ひなたと山田姫って二人おってん。初めはひなたと姫って言っていたけど、なんせひなちゃんあの見た目やろ。山田姫のほうがいつの間にか山田になって、山田ひなたがひなちゃんになったんや。先生も普通にそう使い分けていたくらいやから」

 あたしはその時とても信じられないって間抜けな表情をしていたのかもしれない。あんなかわいい子が男の子だなんて。すると前の女の子はこう続けた。

「そうそう、ひなちゃんのお母さんめっちゃ厳しいから、ひなちゃんに女の子を近づけないよ。だからひなちゃんと仲良く出来るのはおばちゃんの目が届いてない学校内だけやから気を付けや」

 そんなやり取りをしている間に入学式は終わり、それから1年間あたしは堪らなくかわいいひなちゃんと話をする機会をうかがいつつも、いつも自然に目で追うようになっていた。

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