#38
「ノラ、着いたよ」
「ノラ王子!それにヤヌカ王国のマルクス王子まで…」
城の前に転移されると、門扉で兵士達が泣きそうな顔でノラ達の元に駆け寄ってきた。
「やはり開かないのか」
「はい。アンジュ様の悲鳴が聞こえて、中に入ろうとしたのですが…」
魔導を使えないのなら、とノラは魔導具から大剣を取り出した。
「ふんっ!」
「ノ、ノラ王子!何を!?」
「こうすれば、いずれ、門が壊れないか、と、はぁっ!」
しかし門扉は、俺の大剣を前にしてもぴくともしない。
「くそ、くそっ!」
「ノラ、そんな事してたら君の体力が無駄に消費されてしまうだろう。ミシェル様が言っていた通り、術士を探して、そいつに術を解かせない限り、ここは開かないだろうね」
「どうやって索敵するんだ」
「ここは俺の腕の見せ所だよ。おいで、花の
瞬間、沢山の花と共に、真っ白な髪の長い女性が一人、現れた。
『こんにちは、我が主』
「こんにちは、エリザベス。今日も美しいね」
『あら、嬉しいわ。今日はどうなさったの?』
「この国で今、魔導でも魔法でもないものを使っている術士がいないかどうかを探して欲しいんだ」
『分かったわ。それ!』
彼女の一声で、国中に沢山の色とりどりの花が舞った。
「何だ、これは…」
「これが僕の力、召喚の力さ」
「召喚…?」
『うふふ、綺麗なお花さんたち、悪い子を見つけてね。あら、あそこ…』
彼女が指を指した場所の花が、真っ黒に染まっていた。
「あれは…」
「あそこだね」
『ええ、あとこのお城の中にも一つ』
「あそこは…、俺の別邸……」
あそこにアンジュが…。
「いいか落ち着けよ。まずは術士に…」
「分かっている。アンジュ、もう少し頑張ってくれ」
俺はマルクスと共に黒い花の方へと向かった。
***
「あ、あ…。リマさん……」
胸とお腹から、血が流れて、リマさんが、動かなくなって。
やだ、死なないで。
俺、もっとリマさんと色んな事をしたかったのに。
「ふん、この程度か」
「……う」
やめろ、そんな汚い手で、リマさんの髪に触るな。
「邪魔だ」
「がっ…」
「次はお前だ!!」
やめろ、やめろやめろっ!
『力を、貸してあげる。大切な人を、守る力を』
***
俺達は黒い花の場所、城外のとある場所にいた。
そこには、黒いフードを被った男が一人。
「―――早く術を解け。次は首を切る」
「ひっ!」
「ノラ」
「それとも指を全部切ってからにしてやろうか?そうすればこんな術、使えないしな」
「や、やめ…」
「ならとっとと術を解け!!!」
「わ、分かりました!分かりましたから!!」
術士が俺の切り落とした指を一つ拾って、術を解こうとしていた。
年齢は40位だろうか。
家族もいるだろうに、こんな事に加担して情けない。
「あ、あれ、何で…」
「おい、早くしろ」
「で、出来ません…」
「何がだ」
「じ、術が、解けないんです…」
「――本当に首を切られたいようだな」
「本当なんです!信じてください!!」
剣を首に当てても、術士は否定の言葉しか吐かない。
「術が解けないの、本当なんじゃない?」
「はぁ?」
「俺もわかんないけどさ、黒魔術、ってのが一回発動したら解除するのに別の方法がいるとか?」
黒魔術――。
俺たちが術士を見つけた時に術士が放った、魔導でも魔法でもない力。
俺はそれで右腕を負傷した。
エリザベス殿が傷を治してくれようとしたが、全く効き目はないらしく、今も尚、じわじわとした痛みを伴っている。
「お、教えて貰った方法でやっても…」
「じゃあ君はただ騙されただけか」
『実験体、ってところかしら?可哀想に』
「くそ、どうしたら…」
『こういうのって大体、術士が死ねば解除されるのだけど、殺しはしないのよね?』
「あぁ」
本当は殺してやりたい。
だが、オッズ兄様と殺さないと約束してしまったから。
「しかしどうしようね」
「本当に知らないんだな?」
「知ってたら、や、やってますって!!」
「そもそもなぜこんな事に加担した?誰にこんなものを教えてもらった?」
「そ、それは……」
「「………っ!!!」」
術士が言葉を発した瞬間。
術士の体が光を纏い、突然俺達の目の前で消えた。
まるで初めから何も無かったかのように。
「な、何だったんだ…」
「分からない…一体何が…」
「ノラ王子!マルクス王子!!門扉が開きました!!」
兵士達が、俺達の元に駆け寄ってきた。
「分かった。マルクス、ここは任せてもいいか?」
「勿論」
「エリザベス殿もありがとうございます。それでは」
『行ってらっしゃい』
アンジュ、今向かう。
どうか、どうか無事でいてくれ。
***
『見て、あちらの花の色が変わったわ』
「本当だ」
『少しはどうにかなりそうね』
「だといいな」
黒かった花の色が、淡いピンク色に変わった。
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