第40話 レベルアップ

あの日記の読破後、僕は『隠聖の外套』と共に何度も冒険者協会へと足を運んだ。

理由は単純。レベルアップを目指すためだ。

あの新しいアビスからのクエスト。もし、あれがあの不吉な未来を変える唯一の方法ならば、僕はそれを完遂しない理由はない。

だが、僕の目的はそれだけに留まらない。


(いないか......)


外套のフード越しに僕は冒険者協会をくまなく捜索する。

チラチラと色んな冒険者を観察し、その都度該当の人物ではないと目を離す。


時にアークナイツの紋章を掲げた冒険者を何人か見かけはしたが、その中にあの男の姿は見えなかった。

そう、僕はあの男ーー町田行持を探しているのだ。

僕をあんな境遇に送り出し、あまつさえ殺そうとした悲劇の元凶。

僕の元の目標は変わってなどいない。あいつと、その仲間に復讐を果たすことだ。


(ただ、今はそれをメインに活動している訳じゃないけど)


まあ、というわけで今日も冒険者協会に僕はいる。

観察の結果、身バレの可能性はないと見て、僕は受付の方へと向かう。


「こんにちは、三枝さん」


「あ、源氏さん。数日ぶりですね、こんにちは」


歩み寄り、最初にしたのは軽い挨拶。受付嬢の女性に手を振りながら近づき、何気ない一言から会話を始める。

そんな彼女もまた僕へと返事を返し、事務作業の片手間に笑顔を振り撒く。


落ち着いていて、優しそうな黒色の目。

肩ぐらいまで伸びている、短めでサラサラの茶髪。

黒を基調とした事務服の先から見える、白くて美しい手。

その凛とした姿勢はまさに事務員の模範となるべき姿で、天使と見紛うほどに綺麗なものだった。


彼女の名前は、三枝三月さえぐさみつきさん。

ここ最近の来訪の中で、顔を合わせることが一番多かった人だ。


「今日は資料室ですか? それともダンジョンですか?」


「今日はダンジョン攻略に来ました。その、できれば連続で挑めるものがいいんですけど......」


「はい。いつものやつですね」


三枝さんはそう言いながら、手慣れた手付きで依頼書を下の棚から引っ張ってくる。


ここ最近の来訪で、僕は爆速でレベルを上げることに注視するため、見かけ上のランクは上限を引き上げてDランク上位ぐらいにまで再偽造していた。

これならばCランク下位のダンジョンを攻略しながら、町田行持にも怪しまれずに作業を進められる。

まさに、完璧なプランだ。


「源氏さんの力量なら......ここなんてどうでしょう?」


そう言って彼女が取り出したのは、一枚の依頼書だった。

僕は興味深くそれに食い付き、見入った。


「ここは新設のダンジョンで、攻略難度はCランク下位。噂によれば、高速周回ができる珍しいダンジョンで、経験値獲得量も多いとか。源氏さんの目的と一致しますし、打ってつけなのではないでしょうか?」


依頼書の詳細を指差し、好条件な案を提示する。


「本当だ、ピッタリですね」


「新設ですから、攻略の内容などをこちらに提供していただければ、追加で報酬も払えるので、お金の面も申し分ないかと」


まさに今の僕のために生まれてきたようなダンジョン。

それを断る理由なんてどこにもない。

僕はすぐにオッケーサインを出した。


「お願いします」


「だと思いましたよ。では、今すぐ発行しますね」


三枝さんは笑顔で返答して、裏の方へと回っていく。

数分後、新たな書類を持ってきて彼女は帰ってきて、


「これで、準備完了です。では、行ってらっしゃいませ」


と告げながら僕を送り出した。


「はい、行ってきます」


僕は踵を返して長い廊下を戻っていく。

フードを深々と再び被り、足元を見て歩いていると、すれ違い様に聞き覚えのある声が耳に入った。


「いやぁ、にしてもお前さんも鍛えたな!」


「あはは、ほんと町田さんのおかげですよ」


(......!)


その名前を脳が認識した時、僕は足を止めて振り返った。

両目をその一点だけに集中させて、懐かしい後ろ姿をしかと捉える。


「まぁ、俺の教え方が上手いってことだな!」


奴が元気で大きな声で仲間達と団欒する中で、僕は【深淵の宝庫】の中の剣へと手をかけた。

息が荒くなり、怒りと憎しみが身体から溢れ出そうな中、僕はそれを必死に抑えて我慢した。


これまでの経験から、相手の力量を知らずに勝負を挑めば、大惨事になることを僕は知っている。

それにここは公共の場だ。奴を抹殺したとしても、色々と面倒臭い問題が付き纏うだろう。


「ふぅ......ッ【絶鑑定】」


深呼吸を一回。精神を安定させて僕は秘密裏にスキルを発動させた。


(ッ......悔しいけど、今はまだその時じゃないか......)


そして身を翻し、再び長い廊下を歩いて行き、その場を後にした。


(覚えてろよ、町田行持。必ずお前の首を取ってやる......ッ)


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個体名:町田 行持

34歳 性別:男

レベル:110525

称号:【歴戦の猛者】・【両舌の詐欺師】

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所有武器防具:白銀の武具ギルドアーマー

推奨装備レベル:70000

概要:ギルド『アークナイツ』から配られる幹部のみが着ることを許された武器防具。

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所有武器防具:鬼人の仮面(赤)

推奨装備レベル:35000

概要:鬼の素材で出来た一級品の仮面。

認識阻害や、多種多様なスキルが搭載されている。

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☆☆☆☆




気を直して、僕はダンジョンへとやってきた。


「ここか......?」


ダンジョンへの入り口は変わらず廃坑へと続くような洞窟であった。

僕は精密機器に冒険者ライセンスを翳し、いつも通りにダンジョンへと入室する準備をする。


『冒険者ライセンスを確認。Dランク冒険者雨宮源氏。規定ランクに達しているため、ゲートを開きます』


無機質な音声が侵入を許可し、僕はダンジョンへと足を踏み入れる。


「ここが『無暇の迷宮』か......さて、始めるか」


一歩踏み入れた先は、無限に広がる迷宮の形をしたダンジョンの姿だった。

磨かれた閃緑岩で出来た壁に天井はなく、ダンジョン内の空に浮かべられた月が煌々と僕を照らす。


何本もの道が複雑に入り組んだこの場所では、万人が彷徨い歩くだろう。


(だけど、それじゃ僕が求める効率は得られないよな)


しかし、それでは僕が求めている最高速で効率重視な攻略は望めない。

例え攻略用の地図が今手元にあったとしても、この広さを渡り歩くのには最低でも数時間はかかるだろう。


「じゃあ、どうするのかって言うと、こうするんだよなっ......!」


僕は入り口地点の地面に向けて、スキルを発動して思いっきり剣を振り下ろす。

すると、あたり一体の地面はウエハースのように崩れ去り、地下階層への道を露わにした。


「よし、これで進められるな」


これが今回のダンジョンの攻略方法。

迷宮を破壊し、強制的に下の階へと降りるゴリ押し戦法だ。


この迷宮、『無暇』という名前が付いている通り、外壁や地面などは通常、壊すことはおろか傷すらもつけることはできない。

しかし、ここーーこのスタート地点の一点のみ、脆く、壊れやすい弱点となっている。

そしてそれは、この下の階層の同じ地点も同様の特徴を持つ。


これは最初にここに突入した攻略組が偶然発見したもので、それのおかげで数日間かかる見込みだった攻略をおよそ三十分に短縮できたらしい。


(まあ、要するにそれを僕も利用させてもらうって訳だ)


地面を破壊しながら、僕は奥へ奥へと進んでいく。

分厚くも脆い地面を何回も何回も繰り返し叩いていくと、僕はやがて最下層へと辿り着いた。


「一時間か......まあ、こんなものか」


破壊したダンジョンの瓦礫が塵となって消えていく中、僕は辺りを見回す。

すると、目の前にはボス部屋へと繋がる巨大な扉が挑戦者を待っていた。


「よし、行くか」


額の汗を拭い、埃を払い、黒剣を力強く握った僕は、扉を開けた。

重い扉の軋むような音が辺りに響く中、部屋の中心ーーそこにボスが現れる。


「グゥオオオオッ!」


耳を劈くような力強い咆哮が部屋中に轟く。

牛の身体だが二足歩行という異質な生態、ゴツい右手には巨大な両手斧が握られており、毛むくじゃらの体に涎を垂らしてこちらを睨みつけている。


いわゆる、ミノタウロスというモンスターだ。


「【絶鑑定】」


手始めにして王道、僕は最初に敵の力量を測る。


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個体名:ミノタウロス

種族名:亜魔人

特徴:亜人であるミノタウロスがモンスター化して変異した凶暴な個体。

圧倒的膂力と移動速度は敵を暴力で蹂躙する。


討伐対象レベル:13000

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(意外と低いな......これならいけそうだな)


出てきたステータスの低さに一気に警戒網を緩める。

一連の作業が終わりを迎えた頃、ミノタウロスが好機と見て、一気に攻めてきた。


地面をドタドタと砂塵を巻きながら攻めてくる巨体を【金剛力】での跳躍で避けると、ミノタウロスは勢いを抑えられず壁に激突した。

鋭い角がダンジョンの壁を抉った最中、僕の姿を見失ったミノタウロスは混乱した様子で辺りを見回した。


その後ろで僕は華麗に着地し、ミノタウロスがこちらに気づく前に止めを刺しに行く。


「【縮地】」


着地と同時に僕はスキルを発動し、


「グゥオオォ!!」


こちらに気づいたミノタウロスの両手斧の強烈な薙ぎを避け、


「終わりだ」


「グゥ......オォ......」


一刀両断で奴の首を落とし、戦いを終わらせた。


『冒険者雨宮渉のボス討伐を感知しました』

『報酬として、レベル100を贈呈します』

『レベルアップしました!』


ものの数秒で戦闘を終わらせた僕は、ありがたく報酬を受け取り、ダンジョンの入り口へと戻った。


「一回の戦闘で1050ぐらいのレベルアップか。中々だな」


非常に旨味のある攻略と言っていいだろう。

上記の報告には含まれなかったが、ミノタウロスを倒して得た経験値で50ほどのレベルアップを果たせた。これで計1050。

これを今日一日中続けていけば、相当のレベルアップが見込めるだろう。


「よし、二周目と行きますか!」


僕は再度足を踏み入れて、体力と魔力の続く限り攻略を繰り返していった。




☆☆☆☆




夕日。それを見上げ、僕はダンジョンを後にする。


「ーー疲っれた」


丸一日、このダンジョンに篭っていた僕は、精神的にボロボロ。疲労困憊していた。


「帰ってお風呂に入ろう......」


帰路に着いた僕は家の風呂場を目指して、重い足を上げた。


しかし、体は疲れていても、僕の心は喜びに満ちている。

なんせ、今日はレベルアップ以外に、二つも収穫があったからだ。


一個目はスキル【吠える者ハウンド】を試せたことだ。

すっかり忘れていたが、ユリウス(亡)との戦闘の後、僕は彼の代名詞とも言えるこのスキルを獲得していた。

それを途中で思い出し、地面やミノタウロスに使用した所ーーなんとも容易く全てを暴力で捩じ通せた。


攻略時間は一気に短縮。

時間は一時間ちょっとから、四十五分にまで抑えられた。

破壊力は言うまでもない。あのスキルは救世主だ。


(本当に最高だったな、【吠える者】。ユリウスが好んで使うのも納得できる。でも、あれも興味深かったな)


そう思い、僕はスキルの詳細を見つめる。


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スキル名:近衛騎士流剣術

熟練度:初伝

詳細:エルファス王国の栄誉ある近衞騎士団が生み出した、固有の剣術の型。

所有者の経験と力が昇ると同時にこれもまた成長を遂げるだろう。

・使用可能な技:【流し】

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スキル欄に映し出される一つのスキルを見て、僕は今さっきの戦闘を思い出す。


このスキル【流し】は簡単に言えば、敵の攻撃の威力を最大限他へと流す技だ。

これをミノタウロスに使った際は、ミノタウロスの絶大な一撃を華麗に受け流すことに成功した。


(これも、汎用性が高そうなんだよな。防御系のスキルはあんまりなかったから、正直助かる)


初伝でこのレベルの技を使えるのなら、上限まで上げ切った時の技の威力は期待以上になるだろう。


「後は帰ったらシステムと相談でスキルを取得して、寝るとするか......新しいスキル習得かぁ。楽しみだな」


僕は帰った後の計画を立てて、胸を躍らせる。

思い腰を上げて、僕は疲れた体をも忘れて、鼻歌混じりに元気に帰った。


「さぁて、明日も頑張るとするか!」



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雨宮 渉 

18歳 性別:男 

レベル:37008

称号:深淵に認められしもの・逃げ足の王・救国の英雄・静寂の宿敵・アビスを超えし者I

SP:22600

HP:122543/125600

MP:15/5346 

STR:6250(+500)(ATK+40%)

VIT:5000(DEF+10%)

AGI:5500(+200) 

INT:2000

LUCK:1

スキル

固有スキル:深淵の宝庫LV2・深淵付与LV1・深淵解放LV?

パッシブスキル:上級剣術LV8・魔力回路LVMAX・リジェネートLV4・魔力回復LVMAX・恐怖耐性LVMAX・感覚強化LV7・鷹の目LV3

アクティブスキル:絶風LV8・金剛力LV8・絶鑑定LV4・起死回生LV8・縮地LV3・近衛騎士流剣術初伝・吠える者LV2

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所有武器:深淵の長剣

推奨装備レベル:??

ATK+40% STR+500

概要:深淵の最も深く、黒い部分で生成された長剣。その漆黒に果てはなく、どこまでも黒く、深淵の最奥に近づける。深淵の黒は全てを見透かし、時には所有者をも見通す。

特性1:所有者に合わせて、成長する。成長限界はなく、どこまでも強くなる。

特性2:倒した敵の能力値の一部をこの武器の糧とする。

(まだ解放していない特性があります)

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