第33話 大団円的な何か、もうお腹いっぱいです。
美しい花々が咲き乱れる精霊の庭の花畑。
“モグモグモグモグ、ゴックン”
そこは優しい風が吹き妖精たちが楽しげに飛び交う夢の楽園。
「ガツガツガツガツ、モグモグモグモグ、あ~、それ私が狙ってたから揚げ~、返してよ~!!」
世間の煩わしさから完全に切り離されたそこは、精霊と妖精が住み暮らす理想郷。
「やっぱり偶にはこうして人間の料理を食べたいわよね」
「でもヘタに外をうろつくとまたいつかみたいに人間に捉まっちゃうんじゃないの? こき使うだけこき使っておきながら無給で無休って、親父ギャグにしてもセンスなさすぎじゃない?」
「ポーネリア様ばっかりずるいですよ、私たちももっと人間さんのご飯が食べたいのに」
「しようがないでしょう、下手に大勢で押し掛けたらアレンジール公爵家の人たちにあなたたちの存在がバレちゃうんだから。
アレンジール公爵たちはいい人だけど、この家の全ての使用人がそうとは限らないのよ? 下手に噂が立ったら、またいつかみたいに妖精狩りが始まっちゃうかもしれないでしょう?」
レジャーシートに広げた屋台飯を摘まみながらああでもないこうでもないと語り合うポーネリア様と妖精様方。絵本に出てくるようなファンタジーやメルヘンの世界は一体どこに。
そういえば働いたら負けとか考えてる緑の服を着た住所不定無職のガキにくっ付いてる妖精も、結構大概だったからな。
あのガキ、人攫いな上に大きくなって大人になったら崖から突き落としてワニに食わすサイコパスだったもんな~。
善悪の区別が付かんやりたい放題なガキほど怖い者はいないって話だったんだよな、アレ。はてなマークを手に付けた海賊船の船長の方がよっぽどマシってね、マジで世も末物語でしたわ、本当。
まぁここの妖精様方はそんなアタオカ妖精じゃないみたいでいいんですけどね。
“ツンツンツン”
「あっ、果実水ですね。はい、冷たいから気を付けてくださいね」
俺は脇から袖を引っ張られ、腰のマジックポーチ改からキンキンに冷えた果実水を取り出します。俺が「はい」と言って果実水を手渡すと、それを嬉しそうに口にしながら再び食事に戻る小動物。
うん、ローレシアお嬢様、この状況に全く動じておられません。
まぁ大して精神的負担も抱えておられないようなのでいいんですが、この子めっちゃ大物になりそうなくらい肝が据わってるのね。
ならばまあいいかと、俺は精霊様やポーネリア様に今後の事についてお話をするのでした。
「え~、まず外の世界、アレンジール公爵家では行方不明になっているローレシアお嬢様を探していらっしゃいます。まぁこれは親としても使用人たちとしても当然の事ですので、今更とやかく言う事ではありません。
問題は精霊の庭を出てアレンジール公爵閣下の元に戻った際のローレシアお嬢様の安全です。
エリーゼさんはどうする事が一番だと思いますか?」
俺からの問い掛けに、今まで空気と化していたエリーゼさんがビクッと肩を震わせます。まさか全く話を聞かず屋台飯に夢中になっていたとか、精霊の庭で大勢の妖精に囲まれてご満悦状態だったとかそんな事はないですよね?
俺がジト目を向けていると、慌てたようにエリーゼさんが口を開きます。
「そうね、今回の騒ぎの元凶である符術使いはノッペリーノが倒して縛り上げてるみたいだし、猿轡を噛ませて身動きの取れない状態にしているからまず問題はないんじゃないかしら。幸い行方不明になっていた暗殺者も発見できた訳だし、他に仲間が潜んでいたらどうか分からないけど、流石にそれ以上は私達ではどうにもならないと思うわよ?」
エリーゼさんの回答は至極もっとも、要人警護素人の俺たちにどうしろってのが正直な話ですからね。
「そうですね、この先俺たちに何かできる事があるのかと聞かれても何もないといったのが正直な話です。仮に俺たちが帰った後事を起こされちゃえばそれまでですし、肝心のローレシアお嬢様をずっと精霊の庭で匿ってもらう訳にも行きませんしね。
なので多少危険かもしれませんが敵方に動いてもらう事にしましょう。
今回の主役はマルベール様とエリーゼさんになります。マルベール様には他の人間に姿が見えるようになっていただき、エリーゼさんと一緒に堂々とアレンジール公爵閣下と面会してください。
ローレシアお嬢様はエリーゼさんが連れて行きアレンジール公爵閣下にお引き渡し下さい。
ポーネリア様と精霊様は姿を隠してローレシアお嬢様についていてもらえますか? 恐らくですがすぐにでも敵はローレシアお嬢様に襲い掛かってきますので、結界か何かで敵の突進を防いでください。
まぁこういった場合のお約束といいますか、死んだフリをした奴が突然襲い掛かってくるって事はよくあるんですよ」
俺の話に目を丸くするエリーゼさん。えっ、もしかしてもう事件は解決したとか思っちゃった? 甘い甘い、エリーゼさん、俺の考察を聞いていたでしょうに。
「エリーゼさんはアレンジール公爵閣下の前で俺が話した考察を聞いていましたよね?」
「ノッペリーノの話って言うと、三千年以上前の魔王と今回の件が関係しているかもしれないっていうアレ?」
「そうですね、実はあの魔王と勇者の戦い、本当にこの世界の創造神が仕組んでいた娯楽だったって知ってます?
異世界から若者を攫って、自作自演の魔王と戦わせて悦に浸っていたって話」
「はぁ!? えっ、それって本当の事だったの? 神代から人代に代わった事で魔王の出現が無くなった事から、もしかしたらって陰謀説は噂されてはいたけど」
そうですよね~、やっぱりそう思いますよね~。アレンジール公爵閣下も俺の話を抵抗なく受け入れた節があるし、この事は割と広く知られた話だったのかな?
「まぁ俺が直接何かを知ってるって訳じゃないんですけど、精霊様は勇者の一人と旅をされた関係者ですし、創造神の悪行をその目で見て耳で聞いた生き証人ですから。
召喚勇者と魔王が手を組んで創造神をぶっ殺したのは当然と仰っておられましたしね」
そう言い俺が視線を向けた先、そこにはロングフランクもどきと格闘する精霊様の御姿が。その大きさでロングフランク横一気食いに挑戦するのは流石の一言です。
ポーネリア様は負けじと恵方巻食いにチャレンジしない、いくらなんでも喉詰まっちゃうから、見ている方が怖いから。
「で、今回はそんな時代の方々が絡んでる可能性が高いんです、理由は西パンゲアのパンテーン王国で勇者召喚が成功したって事なんですが。
ですので用心するに越したことはないんですよ。エリーゼさんには少し危険な役目を押し付けるようで申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いします。
それと妖精様方の中で今回のゴタゴタに参加したい方がいらっしゃったらこっちに集まってください、ちょっとご協力いただきたい事がありますんで~」
俺の呼び掛けにどうしようかと相談を始める妖精様方。俺は皆さんの意見が纏まるまで、屋台飯を突きながらのんびり待つことにするのでした。
「お父様、お母様、ご心配をお掛けしました。ローレシアは無事です、ちょっと匿ってもらってました」
アレンジール公爵家屋敷では、昨夜から行方が分からなくなっていた娘ローレシアの帰宅に、アレンジール公爵夫妻ならびに使用人一同が安堵と共に喜びに包まれていた。
「あぁ、私の可愛いローレシア、一体どこへ行っていたの? お母さんは本当に心配して」
「そうだぞローレシア、私達だけじゃない、家の者全員がローレシアの事が心配で夜通し探し回っていたんだぞ?」
嬉しさのあまり涙ながらに我が子に抱き付くアレンジール公爵夫人、アレンジール公爵閣下は娘ローレシアに諭すように語り掛ける。
「心配をかけてしまった事は謝る、でも誰かに話す事は出来なかった。この家の者は皆おでこに紙を貼られていて、その数はどんどん増えていた。お父様とお母様のおでこにも紙が貼られているのを見た時逃げるしかないと思った。
私を助けてくれたのは精霊ポーネリア様、屋敷内をふらふらされてたのでお声掛けして助けを求めた」
ローレシアの話に目を見開いて驚きを露にするアレンジール公爵夫妻、その視線はローレシアの背後に立つエリーゼさんに向けられる。
「はい。私はローレシアお嬢様をお探しするにあたり、お聞きした情報からアレンジール公爵家に伝わる精霊ポーネリア様が関係しているのではないかと考えておりました。
ですが先程ローレシアお嬢様も仰られた通り、こちらにお伺いした際の皆様方の様子はまともではなかった。幸いその元凶である符術使いは倒す事が出来た為、私の契約精霊に頼み精霊ポーネリア様に謁見を申し込みお話をお伺いする事に致しました。
ポーネリア様のお話ではローレシアお嬢様はご自身の精霊の庭に匿っているとの事でしたので、事の顛末をお話しし、ローレシアお嬢様をお連れ頂いた次第です」
「おぉ、本当に我がアレンジール公爵家に精霊ポーネリア様が。しかもローレシアはポーネリア様と接触し、その身を匿っていただいていたとは。これは何と有り難いことであるのか、エリーゼ殿、再びポーネリア様と連絡を取る事は可能であろうか、是非直接お礼を申し上げたいのだが」
「大変申し訳ありませんが、それは少し難しいかと。精霊様は何かを求める対象にあらず、ただそこに居られる事を感謝申し上げるべき高位存在。
こちら側が宴を開き精霊様を崇め奉ることはお許し下さいますが、直接にやり取りを行う事を精霊様は好まれません。
精霊ポーネリア様の事はこれまで通り良き隣人として感謝申し上げる事がよろしいかと存じます」
エリーゼさんの言葉に残念そうにしながらも納得を示されるアレンジール公爵閣下。
「ところでアレンジール公爵閣下、例の符術使いと暗殺者はいかがなさいましたでしょうか? 姿が見えないようですが」
「あぁ、あの者たちであれば別室に監禁しておいた。見張りの者も立てているから安心して欲しい」
そう言いローレシアの背中に手を回すアレンジール公爵閣下、その姿は親子三人の仲睦まじいとても微笑ましいもの。・・・でもね。
「いくよ、桃ちゃん」
“ブンッ、ドカッ、フンッ、ズボッ”
“ドサドサッ”
部屋に響く何かが倒れる音。
“バタバタバタバタバタバタ”
それと同時に床に倒れ込むアレンジール公爵家の人々。
「お父様、お母様!! エリーゼさん、二人を、お父様とお母様を」
「うわ~、本当にノッペリーノの言う通りになっちゃったわね。まずはアレンジール公爵閣下からだったわね、<リフレッシュ>」
エリーゼさんがアレンジール公爵閣下の頭に添えた手が淡く光り、小さな唸り声と共に目を覚まされるアレンジール公爵閣下。
「私は一体・・・、ローレシア、あぁローレシア、よかった、無事に見つかって本当に良かった」
そう言い娘ローレシアに抱き付こうとするアレンジール公爵閣下。
「はい、ごめんなさい。ちょっと離れてくださいね~、少し危ないんで」
突然割って入った俺に、驚きの隠せないアレンジール公爵閣下。
だが俺はそんなアレンジール公爵閣下に構わずある一点を指差します。そこには床に横たわる男女から立ち昇る白い煙のようなもの。
「妖精様方、お願いします!!」
「「「「「任せろ、<フェアリーフラーッシュ>!!」」」」」
それは俺の周りに引っ付いて待機なさっていた妖精様方による光の照射、その光を受け、白い煙は人型の何かを形作る。
『クッ、たかが妖精ごときに我の姿を曝されるとはなんという屈辱。もはや我慢ならん、我が主人の申しつけは果たせぬがこの屋敷もろとも「あ、そう言うのはいいんで」』
“パシャッ”
瞬間その場から姿を消す何か、俺は手元のスマホを操作し撮影した画像を表示。
「おお、きれいに写ってるな~。それじゃ早速除霊っと」
俺はそう言うと、画面下のゴミ箱ボタンをタップ、“本当に削除しますか?”の質問に、無言で“ゴミ箱に移動する”をタップするのでした。
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