第8話 しっかり者は英気を養う

 ――その翌日。

 晴河は振替休日で、月曜日でも休みであった。


 天気雨が降ったとしても、別に二人は来ないし、外を見ることもなく家でゴロゴロとしていた。


 何をしていたかと言えば、家にいる犬猫との触れ合いである。

 ゴールデンレトリバーのトキとアメリカンショートヘアのシイ。金色のトキと銀色のシイは中々に対照的なのに、非常に仲が良かった。

 どれくらいかと言われれば、シイはしょっちゅうトキの上に乗って移動していた。


 敢えて晴河が上に乗せることもある。

 要するに、可愛いと可愛いを掛け合わせれば超可愛いになるのだ。


 ある意味必然だと晴河は思いながら、二匹を両サイドに置きながらソファに座る。

 呆然とテレビを観るだけで、晴河は別に何もしない。

 元より、晴河は無趣味であった。

 本はそれなり、アニメもそれなり、運動はそこそこ。この間の体育祭も、百メートル走で六人中三位といった程度だ。


 だから、休日は本当に何もせずに、過ごすことが多い。

 家のペットを存分にモフる。ただモフる。ひたすらにモフる。


 そのうち、音鈴を犬猫と勘違いして撫でてしまいそうだと、晴河はトキとシイの頭を撫でながら思った。何となく笑みが溢れるのは御愛嬌なのだ。


 そんな風にしていても、やはり暇なものは暇で、晴河は窓の外を眺めた。


「天気雨……降らないかな」


 そう呟くが、青空から水の粒が落ちて来ることは無かった。

 ふと晴河は律貴が死にかけていないか、心配になった。とはいえ、天気雨が降って、公園に行ったとしても仕事に追われて会えない可能性も高い。


 う〜んと唸りながらも、一度起こした身体をソファに沈めた。


(頑張って死なないようにね、律貴……)


 晴河はまだ会えない友に向けてそう祈った。忙しくなるのは前提条件なのだった。


「ねぇ、シイ? 忙しいのはやだね〜?」

「ニャァ?」


 晴河がシイを抱き上げながらそう言うと、シイは不思議そうに小首を傾げていた。その仕草もやはり、悪魔的可愛さで、晴河は微笑むのだった。


 そのまま晴河はソファの上で横になる。

 シイは胸元に置いた。トキもいつの間にか横に入ってきている。


「ふふっ……狭いよ……」


 寄り添ってくる二匹に、晴河は文句を垂れていても嬉しそうだった。


 ぬくぬくと温かい二匹に包まれていると、晴河の目が段々とぼやけていく。それに抗えず、晴河は眠りに落ちていくのだった。


 一人と二匹は惰眠を貪る。


 一人は英気を養う為に。

 二匹は飼い主を癒やす為に。


 陽光に包まれたその顔は、どこまでも果てしなく、だらけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る