第2話 過去の影、未来への光
朝日が昇り、洞窟の中で目覚めた9人の漂流者たち。健太郎は全員を集め、今日の計画を説明した。
「今日は3つのグループに分かれて行動します。食料と水の確保、島の地図作り、そして船の修理の試み。それぞれの任務を遂行しながら、この島の秘密を探っていきましょう」
グループ分けが終わり、それぞれが行動を開始した。健太郎、美咲、高橋は島の地図作りに向かった。
森の中を進みながら、美咲は不安そうに周りを見回した。「佐藤さん、この島...何か私たちを見ているような気がしませんか?」
健太郎は理解を示すように頷いた。「確かに奇妙な雰囲気がある。でも、恐れていては前に進めない」
高橋は無言で周囲を警戒していたが、突然立ち止まった。「待て。あそこに何か...」
3人が目を凝らすと、木々の間に奇妙な形をした建造物が見えた。それは明らかに人工的なものだったが、地球上のどの文明の建築様式とも異なっていた。
「調べてみましょう」健太郎が提案し、3人は慎重に近づいた。
建造物の壁には、見たこともない文字や図形が刻まれていた。美咲が壁に触れると、突然、彼女の目の前に幻影のような映像が浮かび上がった。
それは、美咲の過去の記憶だった。大きな気象予報の失敗により、多くの人々が被害を受けた日の出来事が、まるで目の前で起こっているかのように再現されていた。
「や、やめて...」美咲は震える声で言った。
健太郎が彼女の肩に手を置くと、幻影は消えた。
「大丈夫か?」
美咲は涙ぐみながら頷いた。「ありがとうございます。でも...なぜ私の記憶が...」
高橋は冷静に状況を分析した。
「この建造物には、人の記憶や感情を引き出す力があるのかもしれない」
健太郎は深刻な表情で言った。「この島は、単なる未知の場所じゃない。我々の心に直接働きかける何かがある」
一方、山田、木村、渡辺のグループは、食料と水の確保に向かっていた。
山田は不満げに言った。「はぁ、こんなことをしている場合じゃないんだがな。俺には重要な取引が...」
木村は優しく諭すように言った。「山田さん、今は生き延びることが最優先です。それに、この経験は新しい視点を与えてくれるかもしれません」
渡辺は周囲を観察しながら言った。「そうですね。僕も、普段のデジタルな世界から離れて、自然と向き合うのは新鮮です」
その時、彼らの目の前に奇妙な果実の木が現れた。果実は虹色に輝いており、見たこともない形をしていた。
「これ...食べられるのかな」渡辺が疑問に思った。
山田は躊躇せずに一つの果実を手に取り、かじった。「うま...」
突然、山田の体が光に包まれ、彼の目は遠くを見つめるような表情になった。
「山田さん!大丈夫ですか?」木村が心配そうに声をかけた。
数分後、光が消え、山田は我に返った。「俺は...見たんだ。自分の会社が危機に陥る未来を。でも、同時に、それを回避する方法も...」
木村と渡辺は驚きの表情を浮かべた。この果実には、未来を垣間見る力があるのかもしれない。
最後のグループ、花子、ソムチャイ、アヌチャーは船の修理を試みていた。
ソムチャイは明るく話しかけた。「花子さん、あなたの過去、教えてくれません?私たち、もっと知り合うべきですね」
花子は困ったような表情を浮かべた。「私は...話したくないことがあるの」
アヌチャーは優しく言った。「大丈夫です。誰にでも秘密はあります。でも、いつかは向き合わなければならない時が来るでしょう」
その時、船のエンジンから奇妙な音が聞こえた。3人が近づくと、エンジンが突然動き出し、そこから強い光が放たれた。
光の中に、花子の過去の映像が浮かび上がる。それは、彼女がヨガのクラスで生徒を深い瞑想状態に導き、その間に貴重品を盗んでいた場面だった。
「やめて!見ないで!」花子は叫んだ。
光が消えると、花子は涙を流しながら謝罪した。「私...本当に申し訳ない。でも、もう二度とあんなことはしない」
ソムチャイとアヌチャーは彼女を優しく抱きしめた。「大丈夫。みんな過ちを犯します。大切なのは、それを乗り越えること」
夕方、全員が洞窟に戻り、それぞれの体験を共有した。
健太郎は真剣な表情で言った。「この島には、私たちの心に直接働きかける力がある。過去、現在、そして未来...私たちは自分自身と向き合うことを強いられているんだ」
美咲は不安そうに言った。「でも、なぜ私たちがこの島に?」
アヌチャーが答えた。「おそらく、私たちにはそれぞれ乗り越えるべき何かがあるのでしょう。この島は、その機会を与えてくれているのかもしれません」
高橋は冷静に分析した。「この島の力を利用して、脱出の手がかりを見つけられるかもしれない。だが、同時に危険も伴う」
健太郎は決意を込めて言った。「みんな、これからは互いの過去や悩みを共有し、支え合っていこう。この島を乗り越えるためには、信頼関係が不可欠だ」
全員が頷き、その夜、彼らは今までよりも深い絆で結ばれたように感じた。
翌朝、健太郎は早起きして海岸に立っていた。そこへ美咲が近づいてきた。
「佐藤さん、私...あなたに話したいことがあります」
健太郎は優しく微笑んだ。「聞かせてくれ」
美咲は深呼吸をして、自分の過去について語り始めた。彼女の心の中で、少しずつ重荷が軽くなっていくのを感じた。
その時、遠くの海上に奇妙な光る物体が現れた。
「あれは...」健太郎は目を凝らした。
「船?」美咲も驚いた様子で言った。
しかし、その物体はすぐに消えてしまった。二人は顔を見合わせ、新たな謎に直面したことを悟った。
この島には、まだ多くの秘密が隠されている。9人の漂流者たちの冒険は、始まったばかりだった。
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