第40話 殴り込み


 ※取り立て屋視点



 路地裏にある薄暗いビルの三階。

 そこにある事務所で俺たちはテーブルに札束を並べられるだけ並べ、ソファに腰掛けていた。


「まさかこんなに儲かるとはなァwww」


「やっぱり世の中馬鹿な奴ばっかなんだよw金貸すって言ったら簡単に食いついてきて……馬鹿みたいな利息がつけられるとも知らずにさァwww」


「ま、それもこれも全部、元手を出してくれた“あの人”のおかげだけどなw」


 俺たちがこうして金儲けできているのも、すべて“あの人”のおかげだ。

 この調子でどんどん稼いで、いい女も抱いて……クックックッ。最高だ!


「それにしても葉月さん、なかなか折れないよな」


「そろそろ折れて体差し出してほしいぜw母親の方、ありゃ上玉も上玉よwww」


「あぁー興奮してきたw絶対ヤったら気持ちいよなぁアレは」


「いやいや、弥生ちゃんの方がやべぇだろ」


「確かにw現役女子高校生ってのもいいけど、もう見た目が完成してるっつーかなw」


「母娘両方抱きたいもんだぜw」


「ま、すぐに股開くだろwあの額を二人が普通の方法で返せるとは思えないしな」


「だなwww」


 あぁー最高だ。

 これからも楽しみなことがたくさんで、若い頃に夢見た暮らしがすぐそこに……。



 ――キィ。



 突如、事務所の扉が開かれる。


「あァ? 誰だ?」


「金なら一本電話するのが筋ってモンだろ。あァ?」


 仲間の一人が立ち上がる。

 入ってきたのは一人の若い男。

 それも……。


「ん? お前どっかで……」


 重たい前髪で顔がよく見えない。

 けどなんだ?

 この“不気味さ”は。


 男はもう一歩事務所に足を踏み入れると、顔を上げて言い放った。





「話をしようか」





 背筋がぞくりと震える。

 この威圧感。

 まさか……。


「こないだのガキ⁉」





     ♦ ♦ ♦





 薄暗い事務所に足を踏み入れる。

  

 机には数えきれないほどの札束。

 さらにソファにはこないだの男たちが座っていた。 

 やはりここで間違いない。


 一人の男が俺に近づいてくる。


「ねぇ、弥生ちゃんの彼氏だよね?wなんでこんなとこ来ちゃったのw」


「おいおいw乗り込んでくるのはカッコいいけど、ちょっと無謀すぎやしねぇか?w」


 そして俺の肩にポンと手を置く。


「とっとと帰れ。ここはガキのいていい場所じゃねぇんだよw」


「アハハハハハハハッ!!!!」


 男たちがケラケラと声を上げて笑う。

 ――そのとき。



「ッ⁉⁉⁉」



 肩を掴んできた男を投げ飛ばす。

 ドスン、と男が倒れる音が響いてからようやく笑い声が止んだ。


「おいテメェ! 何しやがんだ!!!」


「調子乗ってんじゃねェぞ!!!」


 男二人が怒りを露わにして立ち上がる。


「それはこっちのセリフだ」


「なんだと⁉」


「調べはついてる。お前たちが債務者たちに不当な利息を要求して金を巻き上げてるってことがな。――葉月家のように」


「「ッ!!!!!」」


 こいつらは葉月家だけに法外な利息を要求しているわけじゃなかった。

 他にも多くの人が被害に遭っている。

 もちろん、こいつらに騙された方にも責任はある。

 ――しかし、騙した方がもっと悪いに決まってる。


「だ、だからなんだよ」


「お前一人で来たところで何ができんだよw利息を無しにしてほしいってか?wハッ! 馬鹿言うんじゃねぇよ! ガキ一人に何ができんだ!!!」


 確かに、あっちから見れば俺一人。

 しかも高校生で、あっちは大人。

 そう思われるのも無理はない。

 ――本当に一人なら、だが。






「俺たちもいるんだよなぁ、これが」







「「ッ⁉⁉⁉」」


 荒瀧さんが事務所に入ってくる。

 その後ろからぞろぞろと若くて屈強な男たちが入ってきた。


「な、なんだお前ら⁉」


「あれ、もしかして俺たちのこと知らない? “荒瀧組”って言うんだけど」


「あ、荒瀧組ィッ⁉⁉⁉」


「あ、あの荒瀧組⁉ ここらへんで一番デカい組じゃねぇか!」


「な、なんでそんなとこがウチに……」


 男たちが恐れおののき、後ずさる。

 荒瀧さんはニヤリと笑った。


「好き勝手やられちゃ困るんだよ。裏社会にだって当然秩序はある。それを乱すのは……見過ごせねぇな」


「なっ……!」


「それに、これは良介くんの頼みでもある。――アイツの息子の頼みを断るほど、俺たちは恩知らずじゃあねェ。そうだよな?」



「「「「「はいッ!!!!」」」」」



「「ッ!!!!!!!」」


 あまりの威圧感に、思わず尻餅をつく男たち。

 俺はそんな男たちに近づき、しゃがんで顔をグッと近づけた。


「葉月家は借金をとっくに返済し終えてる。そうだな?」


「そ、それは……」


「利息分が……」



「――そうだな?」



「「ッ!!!」」


 男たちの顔が恐怖で満たされる。

 俺の背後には荒瀧さんたちが控えていて、戦力の差は圧倒的。

 考えるまでもなく、もうすでに――勝負ありだ。


「わ、わかった! 完済でいい! それがいいから!」


「もう二度と葉月家に近づくな」


「もちろんだ! 二度と近づかない! 取り立てもしない!!!」


 態度が急変した男の前に、荒瀧さんも腰を下ろして目線を合わせた。


「それと、この商売をやめろ。こっそりやろうって言っても無駄だからな。俺たち荒瀧組が目ェ凝らしてる。いいな?」


「「ハイィッ!!!」」


 男たちの顔をもう一度睨みつける。

 ……こいつらにもう歯向かえる度胸はなさそうだ。


 ほっと一息つく。

 すると一気に肩の荷が下りた気がした。



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