第31話 出直しな、坊や?


 ガタイのいい男が二人、俺と瞳さんの前に立ちはだかる。


「何のつもりだ?」


「欲しいと思ったものは必ず手に入れたくなるタチでねぇ。このまま帰すわけにはいかないなぁwww」


 須藤が俺たちの退路を塞ぎながら、嘲笑交じりに言う。

 

「彼女を置いていけば僕たちからは何もしません。……でも、断るって言うなら痛い目に遭ってもらいますよ?w」


「痛い目、ね」


 男二人が余裕のある笑みを浮かべながら指を鳴らす。

 体つきを見るに、相当実戦経験を積んでいそうだ。

 それにそもそも数的不利。

 須藤が得意げになるのも頷ける。

 ――しかし。



「瞳さんは渡さない」



 力強く言い放つ。


「さすがりょうちゃん! 頼りがいあるぅー!」


「瞳さんはもう少し危機感を持ってくれ」


「危機感? なんで私が持たないといけないの? だってりょうちゃんが味方してくれるんでしょ? なら怖いものなんてないよ」


「そ、そっか」


 どうやら俺は瞳さんに相当信頼されているらしい。 

 傍から見れば圧倒的に劣勢なこの状況でも。


「いいんですね?wあとから後悔しても知りませんよ?www」


「後悔するのはどっちかな」


「ッ!!! このヤロォ……!!!!!」


 須藤が顔を歪ませる。

 そして自信に満ち溢れた様子の男二人に声をかけた。


「ケビン、ブラッディ!!! そいつをボコボコにしろッ!!!!」


「「イェッサー」」


 野太い声で応答すると、少しずつ近づいてくる。


「逃げるなら今の内だぜボーイ?www」


「二度と歯向かえないようにしてやるぜwww」


 ニヤリと笑みを浮かべると、二人が同時に俺に襲い掛かってくる。

 顔面狙いの素早いパンチ。

 ――しかし。


「ッ⁉⁉⁉」


 二撃ともさらりと避けてみせる。


「ハッ! 少しはやるみたいだな……」


「次は必ずぐっちゃぐちゃにしてやるぜ!」


 軽いフットワークで再び距離を詰めてくる。

 今度は懐に入り込み、顎狙いの攻撃。

 しかしそれも避け、待ち構えていたもう一人の蹴りもしゃがんでかわす。


「ッ⁉ な、なにやってんだお前ら! 早くやれッ!!!」


「わ、わかってる!」


「畳みかけるぞブローッ!」


 立て続けに攻撃を繰り出してくる。

 しかし、そのすべてを俺は避けた。

 確かにこいつらは強い。間違いなく実力者だ。

 でも俺には通用しない。

 なぜなら俺の方が――強いからだ。


「ッ⁉」


 攻撃を避けるとすぐさま懐に入り込み、みぞおちに一発叩き込む。


「ぶはッ!!!!」


「ブローッ!!!!!」


 倒れこむ男。


「ウオォオオオオオオオオオ!!!!」


 もう一人の男は怒りに任せ、猛スピードで俺に突っ込んできた。

 しかし、寸前でかわし男の背後に回る。

 そしてガラ空きになった後頭部に手刀を入れた。


「ッ!!!!」


 なすすべなく地面に倒れこむ男。

 どうやら狙い通り気絶したようだ。


「なにィッ⁉ け、ケビンとブラッディがこんなにもあっさり……!!!」


「次はお前か?」


「ひぃっ!!!!!!」


 須藤が後ずさりする。

 俺はさらに須藤との距離を縮めた。


「瞳さんを置いていかなきゃ痛い目に遭う、だっけ?」


「ッ!!!!!」


 あの二人より須藤が弱いことは明らか。

 須藤もそれを自覚しているからこそ、真っ先に出てこなかったのだろう。

 つまり、これで勝負あり。

 俺たちのか――



「――フッ。やれェッ!!!」



 須藤がニヤリと笑うと、背後から殺気を感じる。

 振り返ると先ほどみぞおちに一発入れた男が立ち上がり、俺に襲い掛かってきていた。


 そして間もなく俺の顔に拳が到達するだろう――そのとき。





「――りょうちゃんに触るな」





「ッ⁉⁉⁉」


 瞳さんが男の腕を掴み、勢いを利用して投げ飛ばす。

 男はそのまま地面に叩きつけられ、白目を剥いて倒れた。


「えぇッ⁉ け、ケビンが投げられたァッ⁉⁉⁉」


 須藤が瞳さんを見て、驚いたように尻餅をつく。


「さすが瞳さん。やっぱりまだまだ鈍ってないね」


「当たり前でしょー? 伊達に治安の悪い路地裏で暮らしてきてないからねぇ」


 瞳さんは高校卒業後、一人で家を出て暮らしてきた。

 瞳さんのような美人がこういうところを一人で歩いていたら、そりゃガラの悪い男に絡まれるわけで。

 そこで身を守るために護身術を身に着けたらしく、こうして実はめちゃくちゃ強い。

 場数も幸か不幸か踏んでおり、実力者とは言え手負いの男には絶対に負けない。


「で、私に一目惚れしちゃったんだっけ?」


「へ⁉ え、えっと……」


 瞳さんが須藤に近づく。

 そして須藤を見下ろすと、いつものゆるゆるとした表情のまま言い放った。







「りょうちゃんより強くなってから出直しな、坊や?」







「ッ⁉」


 瞳さんは普段ゆるいが故に、こういう時の怖さはレベルが違う。

 その凄まじさを須藤は痛感したようで、自信に満ち溢れていた顔が今は恐怖に染まっていた。


「く、クソォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 須藤が走り去っていく。

 その背中を眺めていると、瞳さんが俺の腕にくっついてきた。


「あぁー怖かったー。守ってくれてありがとね、りょうちゃんっ♡」


「あはは……」


 守ったというか、守られたというか……。

 とにかく、何事もなく解決できてよかった。





     ♦ ♦ ♦





 ※須藤北斗視点



 なんなんだよ! なんなんだよォッ!!!!

 あの美女強すぎんだろ!!

 あの男強すぎんだろォッ!!!!!


 俺の中で最強の手駒だったのにィッ!!!!

 しかもあんなのが九条の家にいるなんて……!!!!

 

 だが、須藤北斗という人間がこのまま終わってはいけない!

 俺は常に勝ち組でなきゃいけないんだァッ!!!!


 俺は急いである場所に向かった。

 場所は――高層ビルの最上階。

 重々しい扉を勢いよく開く。




「聞いてくれよ、父さんッ!!!!」




 声をかけると、窓の方を向いていた椅子がくるりと回転した。









「どうした、“息子”よ」









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