37.ゴルドの考え

「俺達、剣術研究部はまずどの型を使いこなせるようにするかチェックをするんだ」

「はい!」

「なにが自分に合っているかを確認するのはいいことだからな」


 部活の先輩が鼓舞し、剣術授業のライナーがその辺の椅子に座って笑いながら言う。

 実際、使える剣技は向き不向きがあるため未来で剣を使う仕事に就くなら知っておくべきなのだ。


「ライナー先生が居るから教えてもらいやすい。君たちはいい部活を選んだな」

「……」


 部長がそう言ってそれぞれ練習をするように指示を出す。

 ここでは木剣を振っても鎧を着ての実戦も、型をひたすらやるのも自由だ。

 剣の腕を上げたい……そう考える者は多いので、入部希望もたくさんあった。

 全ては難しかったので抽選で入部を決定したのだが、それでも全クラス合わせて五十名は居るため、部長以外にも班分けをして班長なども作っていた。

 ゴルドもその中で型の練習をしているが、表情は険しい。


「ふん……! 違うな、あいつはもっと鋭かった」

「よう、ゴルド。熱心だな」

「ライナー先生。いえ、これくらいは……」

「お前の取りまき二人もちゃんとやっているぞ」


 そこでライナーがゴルドのところへ来て話しかけてきた。

 お供のサダとウガも抽選で入部することも出来、少し遠くの班で訓練をしていた。


「先生は……」

「ん?」

「練習と実戦、どっちが実になると思いますか?」

「どうした急に? ……そうだなあ、生きていくための戦いをしなければならない状況に追い込まれた場合とかそういうのに左右されるからなんともいえねえよ。死にたく無けりゃ普段のこういう訓練が必要だしな」

「なるほど」

「まあ、実戦で魔物と戦うのも糧にはなるがな。生物なのでなにをしてくるかわからんし。悩んでいるか知らないが、縁ってやつもある。まずは訓練をしておくべきだ」

「はい」


 とはいえ、微妙に納得していない顔だなとライナーは苦笑する。


「(型も大事だが、ロイの奴とはそういうものではないレベルで腕の差がある。小さいころから戦っていたようだが、やはりそういうものなのか……?)」


◆ ◇ ◆


「こんちわーっす」

「お、ロイか。もう学院が終わる時間か……」

「そんな遠い目をしなくても……」


 ロイがギルドへ入り受付へ行くとビョウボが作業をしているところだった。

 時間を忘れて仕事をしていたためか、ロイが来る時間であることに驚愕していた。


「ギルドマスターはもう少し私達に仕事を任せてくれればいいんですよ」

「ふんぞり返って指示だけ出すのは性に合わん。さて、とりあえず当初の予定通りギルドカードを更新するぞ」


 受付に立っていた女性が笑いながらビョウボに提案すると、彼は口を尖らせてから反論した。怒っているというわけではなく、現場が好きなのに管理職にされている不満といったところだ。


「ありがとう。とは言ってもこの時間じゃ目ぼしい依頼が残ってないから魔物討伐は休みの日くらいかなあ」


 ロイは学生なので依頼の一番多い朝に受けることが出来ない。もちろん学生の本分は勉強なのでこれで合っている。

 父親が働いていることもありお金は困っていないため、休みの日にでも出来ればいいとロイは考えていた。

 ビョウボにカードを渡していると、彼は少し視線を周囲に巡らせる。


 「……今日もリアムって子は来ていないんだな」

「あいつは歴史研究の部活に入ったって言っていたよ。俺も居るし、ギルドには近寄らないんじゃないかな?」

「仲が悪いというのは聞いているが、そこまでか」

「ああ。テリア先生に言って、俺が居ない時に連れて来てもらうのはアリかも?」

「ふむ」


 お互い近くにいると面倒なことになるのは間違いないので教室で顔を合わせる程度にとどめている。


「それは考えておくか。さて、この前のホブゴブリン討伐でランク付けを決めた。一旦これでいってくれ」


 ビョウボはリアムのことはまた考えると口にしてからギルドカードを特殊な金属の土台に載せた。

 そのまま魔力を放出しギルドカードの表面に書かれている情報の更新をしていく。

 これはギルド職員だけができることで、特殊な土台が無いと行えないのがその理由だ。


「ほら、出来たぞ」

「ありがと……って、Sランク!? これはちょっとまずいんじゃない?」


 ギルドカードには最高ランクの一つ下であるSの文字が書かれていた。

 だいたいAランク止まりの人間が多いのは勇者の記憶で知っている。なので自分のような若造にSランクを与えていたら周囲がギルドに文句を言うのではないかと考えている。


「言われるのは俺だから構わないさ。それに、そのランクに見合った強さがあるだろ?」

「まあ……」


 それは否定しないとロイは頬を掻いて困惑する。それを見ていた受付の女性が微笑んでいた。


「ホブゴブリン討伐の話で皆さん驚いていましたよ。Sはもしかしたら首を捻るかもしれないかもだけど、今後の依頼で認めてもらえればいいんじゃない?」

「分かりました。ありがたく受け取ります」

「今日はどうする?」

「そうだなあ――」


 と、ロイは適当な採取を選んで魔力回復ポーションに使う材料を手に入れていた。

 学院生活は長いし、ホブゴブリンが出たら倒せばいい……

 そう考えていたロイだったが、翌日とんでもないことになった。


「ちょっと来てもらえる?」

「え? どうしたんだよファーシア? 部活は?」

「まだ決まっていないわ」

「どこへ行くんだよ……」

「私のお父様のところよ!」

「「ぶっ!?」」


 そこでロイと、近くに居たリアムが噴き出した。

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