第5話 二大美少女から家に誘われる
「西城くん……ちょっといいですか?」
朝の授業前の時間。
俺が席に座ると、すぐに鏡さん――陽菜さんのほうが声をかけてきた。
「おはよう。どうしたの?」
「昨日のお礼と、あと、西城くんに謝りたくて」
お礼はわかるけど、謝られるようなことされたかな……?
俺の中ではまったく予想ができなかった。
「鏡さん、何か俺にしたっけ……?」
「ほら、昨日の中間テストの順位のことで……」
「えーと……どういうこと?」
たしかに昨日、俺は中間テストのことで鏡さんと話をした。
俺としてごく普通の会話をしたと思う……
ただ、鏡さんの様子が少しおかしかったから気にはなっていたけど。
「あたし、鏡くんに酷いこと言ってしまいましたから」
「酷いこと?」
「ほら、『どうして9位なのか?』って詰問して……」
「ああ。そのことね。俺は全然気にしてないよ」
たしかそんな質問を鏡さんからされたな……
どうして俺は9位なのか――
それは偶然……ではなくて、実は俺が狙って9位を取った。
10位以内なら奨学金がもらえる、そのギリギリの順位を。
「本当にごめんなさい。あたし、一方的に西城くんに自分の気持ちを押し付けてしまいました」
「そんなことないよ」
「うう……優しいですね。西城くん」
鏡さんはかなり真面目な人みたいだ。
律儀というか、他人に対して誠実な感じ。
別にあの程度のことなんて、わざわざ謝らなくてもいいのに……
「ただ……ひとつ聞きたいことがあるのです」
「何かな?」
「……どうして、西城くんは本気を出していないのですか? 西城くんの実力なら、この学園で1位を取ることできると思うのだけれど」
「ありがとう。でも、学年9位が俺の本当の実力だよ」
俺は本気を出していない……わけじゃない。
自分の狙った順位を出す、という意味では「本気」を出していると思う。
ただ……鏡さんの言っている「本気」は、そういう意味じゃない。
(困ったな……)
「ごめん。あたし、言ってしまいますけど、それは違うと思います。西城くんの実力だったら絶対に1位を取れるはず……中学の時は西城くん、すごかったですから」
「……この高校って、結構偏差値高いじゃん? 中学の時と違って優秀なヤツばっかりだから、まあ俺には1位は無理だよ」
俺は目立ちたくない。
それには理由がある。
中学の時に塾で1位になった時、俺は塾の裏掲示板でいろいろ書かれた。
あいつはズルしてるとか、調子に乗ってるとかいろいろ……
そこでは俺は、世間では目立つとめんどうなことになると学んだ。
だから高校では目立たないようにしようと思った。
「そう……わかりました。あの、今日、西城くんは放課後は空いてますか?」
「特に用事はないかな」
「だったらあたしの家に来てくれませんか? 昨日のお礼がしたいんです」
学園の二大美少女の片方、鏡陽菜さんの家に行く……
誰かに知られたらかなり目立つだろう。
今、教室で鏡さんと話しているだけでもクライアントの視線を感じるのに。
「いいよ。お礼なんて。当たり前のことしただけだから」
「そんなことないよ! だってあの時、もしも鏡くんが星奈を助けてくれなかったら、取返しのつかないことになっていたんだよ……っ! こういう時はちゃんとお礼しなさいってママに言われてるから」
「……わかった。じゃあ放課後、家にお邪魔するよ」
高校では女子とあまり関わりたくなかったが、二大美少女からの誘いを断れば、逆にもっと目立ってしまうかもしれない。
俺は平穏に高校生活を送りたい。だから誰かと波風を立てたくない。
それにお礼をしたいという人の気持ちを無下にするのも気が引けた。
「ありがとうございます! 放課後、また声かけますね!」
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