第102話 3度目
毎度遅くなって申し訳ないです。
—————————————————————
「———ケケケッ、精々足掻け」
そう言うと同時———スラングに乗っ取られた俺の身体が今までにない速度で加速する。
もう初速とかいうレベルじゃなく、実際に空間を飛び越えたかのように、俺が動いたと知覚した時には———
「がッ!?!?」
既に教皇の身体が斜めに断ち斬られていた。
恐らく袈裟斬りでもしたのだろうが、俺はもちろん、教皇も愕然とした表情で自らのずり落ちる切断面を眺めている。
「どうしたァ? 早く改変しやがれよ」
「……っ、【
余裕そうに漆黒の剣を肩に乗せたスラングが嗤いながら助言すれば、教皇がギリッと唇を噛んで神の御業を発動。
背後の機械仕掛けの時計が針を動かす。
カチッと音が鳴り、身体が元通りに再生すると。
「ケケケッ、つまらねェ力だなァ」
剣閃が瞬いた。
それも同タイミングで、まるで買ったばかりの毛糸のように、一瞬で消えるはずの剣閃がパッと現れて、一瞬教皇の姿を隠す。
音などない。
静寂が辺りを包み込む。
消えた剣閃の中から、嘗て教皇であった無数の小さな肉片がポトッと無機質な音を奏でて地面に落ちた。
それをスラングが興味なさげに眺めている。
「「「「…………」」」」
この場で声を上げる者は誰もいなかった。
誰もが目の前で起きた戦闘とも呼べない蹂躙に、言葉を失っていた。
『…………』
もちろん、この俺も。
……コイツ、こんなに強かったのかよ……。
てか同じ身体を使ってるはずなのに、何でこんなに差が付いてんだ。
『ケケケッ、そりゃあテメェの身体とは言え、一時的に高次元体であるオレが使ってんだ。今のテメェの身体は、あのカエラムとかいうバケモンに若干劣るレベルまで上がってるに決まってんだろォ? テメェらの魔法で言えば……【
待って、こんなクソ強いのにカーラさんの方が肉体的に上なの?
カーラさんのフィジカル、マジでどうなってんの?
改めてカーラさんがチート騎士だということを再確認させられた俺が、驚愕やら呆れやらで乾いた笑みが漏らしていると。
「……くッ……こんなはずでは……貴様さえ……」
再び何事もなかったかのように少し前の姿で元通りになった教皇が、その見た目とは裏腹に、苛立ちやら困惑やらを綯い交ぜにしたような表情で、スラングを殺気混じりに睨み付けた。
だが、対するスラングは涼しい顔で受け流していた。
「ケケケッ、オレの力を無許可で使いやがった罰だ。知らねェのか、悪魔や神の御業に迂闊に手ェ出したらいけねェってよォ?」
「巫山戯るな……ッ!! 神も悪魔も、所詮この世界に自らの本体で干渉できぬ不完全な生命体に過ぎぬ! そんな輩にビビっている私ではない!!」
そう言うと同時———教皇がパチンッと指を鳴らす。
その音を合図に、天より神の雷が降り注ぐ。
まるで神の怒りを体現しているかのような極大の雷鳴と共に、スラングへと空間を縫うように不規則な動きで駆ける。
———が。
「【
ブワッと俺の全身から深淵の魔力が、主人を守る盾の様に噴き出すと。
———ピシャァンッッ!!
雷と深淵の魔力が正面からぶつかり合ったのも一瞬。
スラングの魔力が容易く雷を食い破り———。
「———扱いが杜撰だなァ!!」
驚愕に目を見開く教皇へと吠えながら大振りに剣を振るう。
流石に大振り過ぎたか、ギリギリで教皇がパッと姿を消したと思えば、少し離れた所に姿を現した。
「はぁはぁ……」
しかし、その表情は血の気が引いたような真っ青と言っても過言ではなく、とても先程まで俺達を手玉に取っていた奴と同一人物とは思えない。
このままでは本格的にスラングが教皇を倒してしまいそうだ。
ただ、この狂人悪魔のことだから、果たしてとどめを刺すのかが分からない。
それに……。
———あのクソアマは、俺がぶっ倒さないと気が済まない。
そのために、まずはこの状況を打開しなければならないのだが……もう四の五の言っていられない。
グダグダしていると、スラングがマジで終わらせてしまう。
だから———。
———見てんだろ、性悪女神。ちょっと俺と話そうぜ?
その瞬間———俺の意識が奪われた。
「———君は、やっぱり馬鹿なのかな?」
意識が戻った俺を1番最初に襲ったのは、そんな罵倒だった。
もちろんカチンと来た俺は反射的に言い返す。
「開口一発目から言うことじゃねーなおい。少しは労えよ、こちとら頑張って生きてんだよ。てか俺の人生ハードモード過ぎんだろ、ふざけてんのか。一体何回死にそうになったら気が済むんだよ。何で俺の周りの人は、皆んなが皆んな物凄いヤバい事情を抱えてんだよ。そりゃ自分が望んで首突っ込んでるからあれだけど、流石に偶然では片付けられないだろ。絶対テメェが仕組みやがっただろ」
出るわ出るわ。
どうやら俺は自分が思っていた以上に不平不満を感じていたらしく、1度話し始めたら止まらなかった。
そんな俺の愚痴のはけ口となっているのは———
「———まだ、続くのかな?」
何もない真っ白な空間で唯一俺の対面にある質素な椅子に座った、見た感じ10歳前後の光に照らされると七色に輝く髪を持った少女だが———名を性悪女神と言う。
「いや、私の名前はちゃんとあるからね? 決して性悪女神とかいう不名誉な名前じゃないからね? そもそも私の何処が性悪なの教えてほしいよ」
そう言って呆れた様子でため息を吐き、ヤレヤレと言わんばかりに首を横に振るその姿こそ、性悪の片鱗が見え隠れしていると俺が言っている分からないのだろうか。
いや、分からないから聞くのだ、可哀想だし気付かせてあげよう。
「え、お前の全て。お前が吐く言葉とか、醸し出す雰囲気とか、浮かべる笑顔……全部が性悪なのを物語ってるじゃん。何が女神だ、悪魔に改名しろってんだ」
「それ、神である私にとって何よりも言ってはいけない禁句だからね? 君は知らないかもしれないけど、神と悪魔は物凄く仲が悪いんだよ?」
知ってるよ。
狂気の塊と言えるウチの
何て俺が半目で性悪女神を睨み付けていると。
「それにしても……君はどうして私が見ているって分かったのかな?」
真面目な顔して何かを探るように俺をジッと見つめてくる。
その姿に不思議に思いつつも、特に嘘を吐く意味もないので、少し肩を竦めて口を開いた。
「いや、1度お前に助けてもらったじゃん? 普通見てないと、そんなベストタイミングで助けれんて」
「そこは神の不思議パワーが働いているかもしれないよ?」
「…………確かに」
彼女の言う通り、神なら不思議パワーで俺をベストタイミングで助けることだってできるかもしれない。
その考えは一切なかった。
何て俺がポンと手を打っていると、性悪女神が唖然とした様子で額に手を当てた。
「……君が馬鹿なのかそうじゃないのか、私にも本当に分からないよ……」
「自分で言うのも何だけど、俺の頭が良かったら、間違いなくもっとスマートに解決してると思うぞ、色々と。こうして一か八かでお前に頼ってる時点で頭は良くないだろ」
「…………確かに」
そう、ボソッと納得げに零す性悪女神。
簡単に信じられたら、それはそれでウザいことに気付いた。
———何てのはさておき、良い加減本題に入ろう。
「お前も見てたなら、状況は分かってるよな?」
「うん、もちろん。今、君の身体は悪魔に乗っ取られている状態だね。……それで、君は私に何を頼るつもりかな?」
姿勢を正した俺が真面目な顔で問い掛ければ、性悪女神は肘掛けに頬杖を付きつつ頷く。
その生意気な態度にはイラッと来るが、今は俺の感情で動いている場合じゃないとグッと抑え、真っ直ぐ彼女を見て言った。
「頼む、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます