第8話 結婚準備
白いか白くないかは別にして、イジュと私の結婚が決まりました。
決まったもんは進めるが勝ちですから、どんどん準備を進めてまいります。
「そうか、アマリリスがイジュと……」
「まぁ、急なお話ね」
父と母も戸惑うスピードで結婚が決まっていきましたが、そこは立ち止まったら負けとばかりに押し進めます。
エリックさまから爵位のことなどの説明があり、父と母は目を白黒させて驚いていました。
ええ、私も驚きです。
私はアマリリス・ウィルナー男爵となります。
とってつけたような爵位ですが、くれるというならもらっておきましょう。
将来の備えです。
差しあたっては、暮らしは今までとさして変わらない状態でいきます。
お屋敷とか一応用意してあるらしいですけど、王都にあるので今の私には関係ないです。
男爵位なので小さなお屋敷らしいですけど、王子さまであるエリックさまの言うことなのであてにはなりません。
王都へ行ったときに、どこが小さなお屋敷なんですか、と突っ込みながら驚いてみたいと思います。
「お前が使わないなら、オレがつかってやろうか?」
王都で働いている兄、メラスが言いました。
久しぶりに生まれ故郷へと戻ってきたというのに、いきなり図々しくて呆れます。
兄はお調子者で口がうまいことを活用して、商会で働いています。
「でも、お前が嫁へ行くのなら、この家は誰が継ぐんだ?」
茶色い髪に赤い瞳、そばかすの浮いた顔に憎めない笑顔を浮かべる兄は、自宅に戻る気はないようです。
「なにを言ってるの、メラス。アマリリスは嫁に行くのではなくて、婿をもらうのよ」
隣村に嫁へ行った姉、ロベリアが突っ込みます。
一番上の兄弟である姉は、赤毛に茶色の瞳をした美人です。
村長の息子にどうしても、と乞われて嫁に行ったので割と自由に生きています。
久しぶりに家族みんな揃った我が家の狭い居間はパンパンです。
それでも、久しぶりの賑やかさに両親も嬉しそうですし、私の頬も緩みます。
「父さんたちのことは私が面倒を見てもいいし。この家や土地なんかは村の人たちに譲ってもいいでしょ?」
「んー、それはちょっと……」
姉の言葉に、父が渋い顔をしています。
「私たちが大事に手入れしてきた土地だから、家族の誰かに譲りたいけれどもね」
母も寂しそうに言います。
兄はもちろん、姉もクヌギ村に戻ってくる気はないようです。
「当面はイジュと私は村にいるから大丈夫よ。もともと私は、村を離れるつもりがないし」
「そうかい? アマリリス。そうしてくれれば嬉しいけれど」
父は笑顔になりました。
私が結婚して、聖力がどの程度失われていくのかは分かりません。
ですが、もしかしたら田舎の小さな村ひとつくらい、守る程度の力なら残るかもしれません。
聖女としての力が残っているうちは、村の平和に貢献したいという気持ちがあります。
「アマリリスは性格が良いから、見返りがなくても頑張ってしまうものね」
母が苦笑しながら言いました。
私自身はそう思いませんが、親の欲目というものがありますので否定はしません。
まぁ色々と思うところはありますが、与えられた力ですから使えるうちは活用しないと
家庭と両立できたら両立できたで、陰口を言う村人はいるでしょうけれど。
その時にはありがたく王都のお屋敷に行って自分のことだけ考えて暮らしたいと思います。
「でも、男爵さまになるんでしょ? そっちの仕事があるんじゃない?」
「大丈夫よ、姉さん。そっちはエリックさまがうまくやってくれるらしいから」
どううまくやるのかは知りませんが、別に興味はないです。
領地経営なんて引き受けたところで、私の手に負えるとも思えません。
「お金だけ受け取れるなら、それはそれでアリだな」
兄は自分の言葉にウンウンとうなずいています。
私も同感ですが、気持ちの上で抵抗があるので同意はしません。
お金はありがたいですし、くれるというのならもらっておきます。
「いずれにせよ、めでたい」
「おめでとう、アマリリス」
兄と姉にも祝われて、私は結婚するのだと改めて自覚しました。
「でもさー、結婚についてイジュはどう言ってるの?」
兄が聞いてきます。
それはむしろ私が聞きたいことです。
「白い結婚って聞いたけど、本気?」
姉が聞いてきます。
それも、むしろ私が聞きたいことです。
エリックさまの圧で結婚は簡単に決まりましたが、このままでいいのでしょうか?
準備は進んでいるのに、イジュの本心が聞けない。
そんな日々が流れていきます。
イジュはどんなつもりでいるのでしょうか?
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