第25話 三者面談

 八月二十七日。俺は母さんと一緒に学校へと訪れていた。

 担任教諭との三者面談だ。主に進路について話し合う。

 教室に入ると、担任が母親に丁寧にあいさつした。


「それでは進路のことなんですが、彼はゲーム会社に入社するために、プログラミングの専門学校に通いたいと考えているそうです」

「ゲーム会社はブラックってよく聞くんですけど」

「そうですね。一か月近く泊まり込みで制作にあたることもあるそうです」

「……そうなんですね。息子が目指している企業は一体どのくらいの規模なんですか」

「一応、会社は一部上場しているそうですが、それでも斜陽企業なのには間違いはありません」


 俺からしてみれば斜陽企業だろうが一部上場してようが関係ない。

「出来れば、別の夢を彼には目指してほしいのですがね」

 俺は少々腹が立った。自分の夢くらい、好きにさせてほしいものだ。

「でも私は応援したいと思っています。彼が自分から作った夢ですから」

 毅然とした母親の言い草に、たじろぐ担任。

「まあ、それだったら……それで」


 駅の構内で俺と母親はバームクーヘンを購入していた。

 それから出来上がった箱を俺にもたせた母親は、切符を買って、それを渡してくる。


「そろそろ花火大会ね。俊は例の恋人さんと一緒に行くの?」

「そ、そうだね」


 勉強会の後、大竹が母親に挨拶し、すっかり恋人だと認知された。


「楽しみ?」

「うん。俺、恋人なんかできるの初めてだからさ」

「私も、お父さんと一緒に行こうかなって思ってる」

「え? 母さんが?」


 涼しい顔で母親は述べた。そのことに驚愕してしまう俺。


「なんでそんなに驚いているの?」

「だって浮気のこととか、いろいろ」


 あっただろ、そう言おうとしたが母親が俺の頭を撫でてきたことで言えなかった。


「そんなこと、あんたが心配しなくてもいいのよ」

「……ふぅん」


 母親は笑って見せて、「十年以上前ね、お父さんと一緒に毒入りスープで一緒に死のうかとも思ったこともあったんだけど、なんか可哀想だなって」

 母は格好いいと思った。どこからそんな強さが出てくるのだろう。旦那の浮気を許すような強さは。

 まあ、親子の仲がいいのはいいことだ。俺はそう思い笑った。



「ただいま~」


 俺は母親の荷物を持ち、リビングへと向かう。


「お父さんは私のことなんて考えてないんでしょ」


 妹の叫び声が聞こえた。その声はとても甲高く、金切り声とはこのことを言うのだと思った。相当に激昂している。俺はこの原因は、すぐに父親のせいだと悟った。

 またなにかやらかしたのか。


「父さん。なに言ってるの?」

「お前には関係ない」

 リビングのダイニングテーブルの椅子に座り、煙草を吸っていた父親がそんなことを言う。

 俺はその言葉を聞いて、思わずため息を吐いてしまった。これだからぶっきらぼうな頑固おやじは嫌いなんだ。


「眞衣、もう部屋にもどりな」


 俺はそう妹に諭す。すると涙をぬぐった眞衣は部屋にもどっていった。

 父親を睨みつけた俺は、少し怒気交じりに言う。

「どうして眞衣のことを考えられない? あいつは独りなんだよ。可哀想だとは思わないのか?」

「どうして引きこもりのことを可哀想だと感じなくてはいけないんだ。好き勝手に生きているだけじゃないか。親のスネをかじりながらな」

 なんだよ、この昭和のような考え方。たしかに、父親は昭和生まれだけど、いまは令和だぞ。それに、妹はお前の隠し子だろうが。だったら最後のケツ拭きはてめえでやれよ。そんな苛立ちが冬の轍のように募る。


「だったら、俺が眞衣のことを養う。もう父さんには迷惑はかけないよ」

 すると三白眼を俺のほうに向けてくる。


「やれるもんなら、やってみろ」


 俺はやってやる、という意気込みを抱いて、リビングから飛び出した。そして眞衣の部屋をノックする。

 恐る恐るといったように扉が開かれる。

「荷物まとめろ。眞衣」

「どこに行くの?」

 俺は精一杯の笑顔を見せた。

「俺の恋人の家だよ」

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