第14話 ミス・ラブ
「これで良かったのかな」
LINEで希美ちゃんから、『竹達くんのことが好きなの』というメッセージが送られてきた。それに、『あっそう。だからなに?』なんて冷たいメッセージを送ってしまった。
理由はたったひとつだけ。
私、秋月菜穂も竹達俊くんのことが好きだったから。
最初、出会った当初は、彼のことなんて眼中になかった。でも接していくうちに、彼が可愛く思えてきた。
でも、結局あのメンヘラに取られた。
優しい人って、どうせ痛々しい人が好きなんだから。彼の妹だってそうじゃない。
私みたいな、自分で何でも解決できるような、強い女はいらないんでしょ。
ああ、苛々する。こんな理不尽、ほんといや。
私も、カッターナイフで腕を切った。血液がしたたり落ちる。涙が零れる。
なんで、私、ばっかり……。好きな人が逃げていくの……。
確かに、彼の背中を押したのは私だけど、そうしなかったら希美ちゃんは死んでいた。
翌日。私は学校の図書室で原稿用紙に向かっていた。カリカリと万年筆で文章を書いていく。
コンコン、ノックが鳴った。
「失礼します。あっ、秋月、昨日は助かった!」
飄々とした能天気な顔で、彼はそう言った。竹達が近づこうとしたとき私は反射的に、「来ないで!」と叫んでしまった。
「どうしたんだよ……」
「厭らしい。所詮はワンコなのね」
彼は眉をひそめる。「どういう意味? それ」
「そうやって、女のケツばっかり追っかければいいのよ。ゲームなんてもうどうでもいいんでしょ。幸せアピールがウザいんだよ」
「おいおい、待てよ。理解が出来ない……」
「理解なんて、しようとなんて思ってないくせに」
「……」
彼は後ずさった。そしてかぶりを振って、図書室を出ていった。
私は机に突っ伏して泣いた。
「なんで、あんな言い方、しちゃったんだろう。彼のことが大切なのに……。すごく大事なのに……」
自分がラノベを書くうえで、さんざん書いてきた負けヒロインたちって、こんな気持ちだったんだ。初めてキャラクターに感情移入が出来そうかも。
「私は……ただ、ゲームを作りたかった。最高のシナリオを作りたかった。それだけのはずだった、なのに……」
もう、帰ろう。そう思い原稿用紙を鞄のなかに直した。
すると、放送が鳴った。『竹達俊くん。すぐに生徒指導室に来なさい』
馬鹿なことでもしでかしたんだろうか。まあ、もう彼のことなんてどうでもいいけど。
図書室を出ると、生徒たちが廊下に集まっていた。みな、窓の外を見ている。
私は興味をそそられて、窓を開けた。
「おーい、頼むから聞いていてくれよお、ご主人様!」
なんと、グラウンドで拡声器を使って図書室の方角へ向けて喋っている竹達。
「俺は、たしかに大竹のことが好きだ。でも、でも、俺の中でご主人様はあんただけだろうがあ、この秋月菜穂。ワンコ君なんて名付けて、ネックチョーカーなんてつけて拘束して。そんなあんたが、悲しんでいるなんて俺は飼い犬として泣いちまうぜ。二つの意味でな」
私は、思わず笑みがこぼれていた。「誰のせいだと思っているのよ」
「俺は、俺はあ、秋月菜穂も、大竹希美も両方大好きだあ」
私は駆けだしていた。そして昇降口で靴を履き替えて、グラウンドで教諭と格闘している竹達の臀部を蹴った。「痛っ」
「この浮気者。馬鹿にしてんじゃないわよ」
すると、私の顔を見た竹達が、笑みを零した。
「その顔が見たかったんだよ。最高のゲームを作ろうぜ」
そうしたら生徒指導の教諭が、竹達を殴った。「馬鹿野郎。ちょっとこっちに来い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます