第10話 現実見ろよ

 朝。俺はメールボックスを覗いた。すると無いはず、ありえないはずのものがあって、俺は腰を抜かしてしまった。


「Nextからメールが届いている……件名『ヒロインの開拓者へ』どれどれ……、音楽やシナリオライター、プログラミングに興味があるのなら、明日Key へお越し下さい。大田准が待っております。す、すっげー」


 俺はスマホにデータを送る。学校で橘に見せびらかすためだ。明日は土曜日。見せて自慢するなら今日のタイミングしかない。

 妹にも、一応メールのデータをLINEで送った。『一緒に付いてくるか?』と。

 それから上機嫌で制服に袖を通し、鞄を背負って玄関を飛び出した。

 走ってコンビニの中に入る。それで野菜ジュースと焼きそばパンを購入した。

 それを闊歩しながら食べつつ、駅のホームで電車を待つ。

 そしてアナウンスで来た電車の車両に乗り込んで、ぼおっと突っ立った。



「ふーん、すげえじゃん」


 クラスの中で橘に早速自慢するも、反応は芳しくなかった。それは、クラスの中で浮足立っちゃうと悪目立ちするから嫌なのかと思ったが、そもそも興味自体薄そうだった。

 その理由が分かるのが、彼の次の言葉だった。


「だって、それだとお前、Nextの賞に応募するとか言っていたけど、そのメールでってしまうんだったら、そんなの辞めてしまって、Nextの制作部門に頭下げてゲーム制作のイロハを教えてもらう、それで妹さんにゲームやってもらうってイメージだろ。だったら最初からシナリオライターとかアマチュア絵師とか集める必要なかったじゃん」

「は? いや違うって」

「違わないだろ。妹さんのこと抜きにしろ、SPinsの賞へ挑んでくる奴は全員、“本当なら“アマチュア対決なんだよ。それをプロのシナリオライターに協力を頼んだり、自分で絵を描かなかったりすること自体、言わなかったけど筋違いじゃないのか?」


 俺は彼のその言葉で、自分の驕りというものを実感した。

 そうか。そうなんだ……そうだよな。普通の常識で俺の作ったゲームを語るなら、プロに作ってもらった創作物。完璧で当り前。そんな作品だ。それは、ほかの創作者への愚弄じゃないのか。


「悪い。言い過ぎた。お前が眞衣ちゃんのために一生懸命なものを作ろうって思いなら人一倍知っているから。だから、その……言いたかったんだ」


 彼は俺の肩を叩き、そして廊下へと消えていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る