第22話 助けてくれますか?

 連休期間の合間の登校日。


 今日の朝、おそらく初めてだと思われるが笹倉姉妹と一緒に登校することに。そのきっかけとなったのは、偶然にも玄関を出るタイミングが同じだっただけである。


「あっ。お、おはよう! 青夏」

「おはよ、幸多くん! 一応言っとくけど、お姉ちゃんもいるよ?」


 玄関ドアを開けて外に出ると、俺の顔と同時に青夏の顔が真横に見えた。お隣とはいえ朝は滅多に出会うことが無いだけにすぐに声が出た。


 交際してるといっても俺も青夏もそこまで親密な感じじゃなく、学校で会うくらいに留まっていたせいか妙な気分だ。


 そして青夏が言うように、少し間を置いて秋稲が外へと身を乗り出してきた。


「……んっ、しょっと」

「おはよう、秋稲さん」

「うん。おはよ。早いね?」

「そういう日もあるっていうか、そんな日だからかな」

「そっか。連休の間の日ってそうなりがちだもんね! うんうん、分かる分かる」


 すぐそばに青夏がいるのもあってか、秋稲の口調は教室にいる時よりも身近な感じになっている。


 教室に行くと丁寧な物言いに戻るにしても、何となく嬉しく思えた。


「お二人とも、いい感じじゃない?」

「……えっ、いや」

「…………う、うん」


 一応彼女のはずの青夏から冷やかしが入ったところで、ピタリと会話が止まってしまった。


「ご、ごめん、青夏」

「ん~? 別に気にしてないよ。幸多くんがお姉ちゃんと仲良くしてるのを見られて嬉しいし。それならそれでって思うし~」

「えぇ?」

「それはともかく、せっかくだから一緒に学校行こうよ?」


 下校が一緒になるのは何度かあったが、朝から、それも三人でというのは初めてのような気がする。


 笹倉妹の青夏は乗り気だけど、姉の秋稲は一緒に行くのは平気なんだろうか?


 ちらりと秋稲を見てみると、


「せいちゃん、幸多くん! 置いてくよ? ほら、歩いて歩いて!」


 どうやら一番乗り気みたいだ。


「良かったね、幸多くん?」

「な、何が?」

「お姉ちゃんと一緒に登校出来て」

「青夏もでしょ?」

「わたしはおまけでいいよ。後ろから二人を見守りながら行くし」


 ううむ、彼女のはずの青夏に気を遣われてるんだよな。それだけお姉ちゃんが好きって意味なんだろうけど。


 青夏が言ったように俺と秋稲は横並びで歩く中、青夏は少し離れた後方からニヤニヤしながら俺たちを見ながら歩いていた。


 そうして秋稲と大した話も出来ないまま昇降口に着くと、それぞれで靴の履き替えをすることに。


 その時点では特に秋稲を気にする必要も無かったが、何となく秋稲がいるところに目をやると、動きを止めたまま動かなくなっていることに気づいてしまう。


 もしかしてまた変な手紙でも入っていたのか?


「え、なにそれ? お姉ちゃん、それって……」


 そう思いながら秋稲に近づくと、少し遅れて到着した青夏が俺よりも先に秋稲に声をかけた。


 秋稲に起きてることは青夏には知られていなかった気がするな。

 

「うっわ……まだこんなのしてくる奴がいたんだ……って――」

「――!」


 どうやら予想通りの妙なラブレターだったようで、青夏が俺に気づいて手招きをしている。


 元々声をかけるつもりだったのですぐに二人のところに近づいた。青夏は特に表情を変えることなく俺の顔を見つめてくるが、言葉を失うレベルのことが書かれていたのか、秋稲は言葉を失って立ち尽くしているようだ。


「お姉ちゃん。幸多くんが……」


 青夏の言葉にハッとした直後、秋稲は目で訴えるかのように俺をじっと見てくる。


「あ、あー……ど、どうした? また何か――」

「あのっ、幸多くんは私を助けてくれますか?」

「……え? 助けるって、どういう?」

「それは……」


 以前よりも深刻ってくらいの表情で俺を見つめているな。まだ手紙の中身を見てないから何とも言えないけど、こういう場合は中身に関係なく返事をするべきか?


 間近に青夏がいるし、青夏に訊いてみてからでもと思っていたのに、すぐ近くにいたはずの青夏はすでにこの場から離れていた。


 そのうえ、


「栗城先輩! こういう時は優しく抱きしめてあげるものですよ?」


 逃げられたか。


 しかも、何で朝の昇降口でクラスメイトを抱きしめられるんだよ。


 流石に言われたことを実行出来ないので青夏に向けて首を左右に振ると、からかい半分なのか、親指を立てて青夏はそのまま一人で歩いて行った。


 そんな笹倉妹すら気にする余裕がないのか、秋稲は俺をずっと見つめながら返事を待っている。


「な、何が起きているのか分からないけど、秋稲さんは俺が助けるよ?」

「うん。幸多くんに助けて欲しい……です」

「わ、分かった」


 相当深刻みたいで、俺たちはしばらくその場から動けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る