Okinawa 現場
2日後、マルセルとヨシムラは帰国の前に、3億円事件の現場となった場所を訪れた。マルセルの希望だった。片側一車線の小さな道路。道に沿うように歩道には白い長い壁が続いている。
「この壁の内側は刑務所です」
ヨシムラが説明する。40年以上前、ここでモーリス警視たち実行犯グループは現金を奪い取った。現金輸送車が緩やかな曲線のカーブに差し掛かった時に襲ったと聞く。40年以上経った今、事件の痕跡などを示すものはもちろん残っていない。
モーリスとメグレを含む愚かな若者たちの過ち、それはここから全て始まった。
そして、ヒロシ・キリタニがフランスに来なければー。
ナスリが沖縄へ行っていなければー。
ナスリがキリタニ殺害現場に残っていなければー。
ヨシムラという優秀な捜査官がインターポールに出向していなければー。
ヨシムラとアイコが繋がっていなければー。
そして何よりサクラという存在が事件に関して動いていなければー。
何か一つでも欠けていれば事件の真相に辿り着くことはなかった。同時に何かが欠けていれば、もしかしたらモーリスはまだ生きていたのかもしれない。
2日前にオキナワで起きたこと。奇しくもモーリスの退職日だった。彼の警察官人生とは何だったのだろうか。パリ警視庁に勤め、誇りを持ってパリの治安を守ると同時に自分が犯した罪に怯え続けていたのだろうか。
何が正解だったのかー。
全ては「一本の糸」で繋がっていたのか。絡みあっていた糸は綺麗に解れたのかー。
正解はマルセルにもわからなかった。
パリに戻れば、しばらく関係各所への説明に追われることになるだろう。
振り返るとあっという間だった。今でも思うのは最後のメグレの一言は、彼自身の純粋な思いだったのだろうか。
「マルセル警部」
「どうした?」ヨシムラの呼びかけにマルセルは顔を向けた。
「今回の件は辛く、受け入れがたいことがあまりにも多すぎました。それでも」
「それでも?」
「私はあなたと一緒に仕事が出来て本当に良かったと思います」
ヨシムラの言葉が言いようのない悲しみに包まれていたマルセルを救ってくれた。
「私もだ、ヨシムラ。本当にありがとう」
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