Okinawa 続行
閉店後、店内には愛子と佐倉だけが残っていた。他の従業員は愛子が金を持たせてタクシーで帰宅させた。
「これからどうするつもり?」
「決まっている。納得するまで手は引かない」
「そう言うと思ったわ」
愛子は呆れきった口調で自分が飲む酒を作り始めた。
「これで太客の一人を失うわね」
「え?」
「河村さんね、色々と経済界では黒い噂が絶えない方なのよ。特にこれ絡み」
愛子は左手の人差し指を自らの頬に当て、斜めにゆっくりと滑らせた。
「ヤクザ?」
「そう。政治家だけでなく、その筋の人間とも繋がっているって噂よ」
「そんな人間と知っていて接客していたのか」
「あら、どんな人間であれお金を落としてくれればお客よ。関係ないわ。良い人も悪い人も持っている福沢諭吉の価値と魅力は一緒なの」
「なるほどね」
「納得するまで動きなさい。必要なお金は私が出すわ」
「ほう。気前がいいね」
「弟思いと言ってほしいわ。でも3日で依頼を打ち切られるなんて出来の悪い弟ね」
笑いながらいう愛子に佐倉は一言だけ「感謝するよ」と伝えた。
翌日、佐倉はいつものように楠国際大学の駐車場で河村杏奈が現れるのを待った。具志堅功の名を口にしたときの河村修一の表情が未だに忘れられない。娘の杏奈は父の知らないところで何かしら企みがあり動いている。そんな予感がずっと頭の中を巡っていた。
だがこの日はいつまで経っても杏奈は駐車場に現れなかった。昨日の尾行振りきりから行動パターンを変えたのだろうか。彼女の愛車のMINIも見当たらない。
諦めかけたその時、助手席のドアがコン、コンと叩かれた。
太田だ。
「何の用だ」
助手席の窓を下げ、佐倉は太田を睨みつけた。
「もう関わるなと言ったはずだぞ」
「今日、河村杏奈は授業には出ていませんよ」佐倉の言葉を無視し、太田は告げた。
「やっぱりそうか」佐倉はエンジンをかけ、ハンドルを握った。
「でも学校には来ていましたよ」
「なに?」
「お願いですよ、佐倉さん。俺にも手伝わせて下さいよ」
「勿体ぶらずに河村杏奈の事を教えろ」
「嫌です。手伝わせてくれるまで何も教えません」
「この頑固者が。乗れ」
「ありがとうございます」
太田が乗り込み、佐倉は車を発進させた。
「どちらへ向かうんですか?」
「とりあえず具志堅功の家へ向かう。いつもなら家庭教師として彼女が現れるはずだからな」
「なるほど」
「それより河村杏奈は授業も受けないのに、何をしに大学へ来ていたんだ」
「ええ。彼女は今日、大学の総務課に顔を出していました。休学届けの提出です」
「休学届け?」
「はい。共通の女友達に聞きました。大学3年のこの時期に休学って珍しいですからね。就活も本格的になってきますから」
「理由はわかるか?」
「ええ。何やら海外留学らしいです」
「海外?場所は?」
「フランスみたいですよ」
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