Paris 相棒

 マルセルがメグレ警視から呼び出されたのは、翌日の午後2時のことだった。午前中は自宅で休養していたが、メグレからの連絡で何か事件に進展があったのかと思い、急いで身支度をして警視庁へ向かったがどうやら的外れだったようだ。

 警視庁に着くや、マルセルを待っていたのはメグレと美しい東洋系の女性だった。

「マルセル、紹介しよう。ヨシムラ女史だ」

「はじめまして。ムッシュマルセル」

「はじめまして。マダムヨシムラ」

「はは、マルセル。彼女はまだ独身だよ」

メグレの言う通り、確かに結婚指輪らしきものはしていない。

「失礼しました」

「いいんです。気になさらないでください」

 品格のあるアジアン・ビューティー。そんな言葉がマルセルの頭の中に浮かんだ。

「ところで彼女は?」

「あぁ。リヨンから来てもらった」

「リヨン?というとインターポールですか」

「察しがいいな。だが彼女は日本の警視庁からインターポールに研修に来ているエリート刑事だ。ちょうど捜査には日本人が必要でもあるし、インターポールも今度の事件は国際的な犯罪が絡んでいると見ている。彼女にはインターポールと我々パリ警視庁のパイプ役になってもらい事件解決に向けて協力してもらう」

「なるほど」

「モーリス警視の件についても彼女とは共有している。今後は彼女と連携を取りながら捜査を進めてほしい」

「よろしくお願いします。ムッシュマルセル」

「こちらこそ」

「マルセル。さっそく彼女と一緒にここへ向かってくれ」

 メグレはポケットから一枚のメモ用紙を取り出すとマルセルに手渡した。そこには住所とアパート名が記されている。

「これは?」

「例の自殺した目撃者が住んでいたアパートだ。奴の名前はナスリ。どうやら大学生だったっていうのは本当らしいな。学校に問い合わせて学生名簿と照らし合わせて割れた住所だ。何か殺しの手がかりが掴めるかもしれない」

「モーリス警視の捜索のほうは?」

「今は正直、手詰まりだ。家も24時間体制で監視しているが奥さんへの連絡も無い。一度違う角度から当たってみるのもいいだろう。少なくとも学生のほうはモーリス警視のことを知っていた可能性がある。何かわかるかもしれない」

「わかりました」

「わかりました」

 マルセルに続きヨシムラが応える。正直、モーリスの犯罪を立証出来るような状況は避けたい。しかしそれでは冷静な捜査判断も出来ない。確かにモーリスと何の関係もない彼女のような存在が客観的な判断をするのには必要なのかもしれない。

「お役に立てるよう頑張ります」

 ヨシムラが日本人らしく頭を下げる。

「あぁ。では行きましょう」

 マルセルはヨシムラを連れ建物を出ると、駐車場から車を発進させた。

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