第14話 休憩

「ところで、ハニュがずいぶん小さくなっちゃったわね。膨大なスライムの魔力でも大変な治療だったのね。休憩してご飯でも食べなさい」

 シーアはギルド長に言われてハニュを見る。確かに小さくなっている、どうして今まで気が付かなかったというくらいには小さい。

「ハニュ!?大丈夫!?すぐご飯にしようね!お肉いっぱい食べようね!リマもお腹空いたでしょう?ごめんね、お昼ご飯すっかり忘れてたね」

 大慌てでハニュとリマに謝るシーアに、ギルド長は微笑まし気に笑った。

「こっちで炊き出しをやっている。狩った魔物の肉を集めている場所もあるから従魔達の食事も大丈夫だろう。案内するよ」

 ゴードンさんがそう言うので、お言葉に甘えることにしたシーアはロキシーさんに休憩に入ることを告げる。他の聖女のみんなは魔力不足になるたびに休憩をとっていたらしく、しばらく戻って来なくても大丈夫だからゆっくり休んでいいと言われた。

 

「おーい、聖女様の席を空けろ。一番いい肉を焼いてやってくれ!」

 炊き出しの場所に着くとゴードンが叫ぶ。シーアはそんな偉そうなとゴードンさんを止めた。

「これが聖女様の普通の扱いだ。冒険者で聖女様の重要性がわからない馬鹿は居ないよ」

 ゴードンさんが真面目な顔で言うのでそんなものなのかと思う。普通の聖女の扱いを受けたことのないシーアにはそれで正しいのかわからなかった。

「ぷぴぃ!」

 ハニュが鉄板で焼かれる肉を見て目を輝かせている。ハニュが嬉しいならまあいいかと、シーアは気にしないことにした。正直に言って疲れていたのだ。早く食事にしたかった。

 冒険者の人達が作ってくれた席に座ると、ゴードンさんも隣に座った。そこにオレンジの髪の女性が駆けてくる。

「ゴードン!リンデルは!?」

「もう大丈夫だ、エステラ。治してくださった聖女様に料理と、従魔達に肉を持ってきてくれるか?」

 女性はシーアに向き直るとその手を取ってお礼を言った。

「あなたが治してくれたのね!本当にありがとう!私は『スカーレット』のエステラよ。すぐに料理とお肉を持ってくるわね」

「どういたしまして、私はシーアです。こっちはハニュとリマ。……あの、ハニュは調理された物しか食べないので普通の料理にしてもらえますか?」

 そう言うとエステラは不思議そうな顔をした後、わかったわと言って走っていった。

 

 エステラさんが戻って来た時、数名の冒険者を引き連れていた。みんな手に料理を持っている。

「聖女様に料理をって言ったらみんなあれもこれも持っていけって言うの。多すぎたから協力してもらったわ」

 その冒険者は以前からシーアによく話しかけてくれた冒険者だった。みんな口々にシーアを褒めてくれる。

 テーブルの上にたくさんの料理が並べられて、ハニュが興奮している。リマも大きなお肉をもらって嬉しそうだ。

「食べていいよ」

 そう言うと勢いよく食べ始める。よほどお腹が空いていたのだろう。シーアも朝ぶりの食事が胃に染み渡って、思いのほか空腹だったことを知る。夢中で食べてしまった。

 美味しそうに食べるシーア達を周りの冒険者たちは微笑まし気に見ていた。治療風景を見た時は感じなかったが、よくシーアを見るとまだ子供だ。冒険者たちは何があってあんな治療技術を身に着けたのか興味津々だった。


 食事が一段落した時、ゴードンがシーアに聞いた。

「なんで教会では治療をさせてもらえなかったんだ?」

 シーアは疲れていたので、愚痴交じりに侯爵家のお嬢様に目の敵にされていた話をしてしまう。それがどんな広まり方をするのか、その時は全く考えが及ばなかった。

「じゃあ治療の練習はどうしていたんだ?」

「あー、独学で……実践はリマの治療とか、最近亡くなった孤児院の院長先生の治療しかしたことが無くて……」

 それが本当ならすさまじい才能だとゴードンは思った。周りで聞いていた冒険者達も目を剥く。

「そうか、独学か。普通聖女は患者に触れない。シーアが当たり前のように患者に触れるのはそのせいか」

 ゴードンが言うと、シーアは目を輝かせて語り始めた。

「それはリマを治したときに、魔力を流して状態を確かめてから治療した方が早く治せると気づいたからです。魔力の消費も少なくて済みますし、後遺症も残りづらいんですよ!」

 シーアはハニュの事を話せないのがもどかしかった。ハニュは凄いと自慢したかったが、話そうとすると自分の手柄の様になってしまうのが悲しい。

「でも一番は従魔になってくれたハニュのおかげです。私自身にはほとんど魔力が無いので……」

 シーアはハニュを撫でる。ハニュは美味しそうに骨付き肉を頬張っていた。スライムなのに骨ごと食べるのは嫌らしく、ちゃんと骨を残すあたりがハニュらしい。

 周りで聞いていた冒険者達は各々がシーアの話を聞いてそれを周囲に広めた。結果大変な広がりをみせるのだが、その時のシーアはそんなこと少しも考えてはいなかった。

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