第5話 男はみんなむっつりスケベ

「オイラのすね毛は吸水性抜群で特別製だからなぁ、そいつをタオル代わりに持っていくといいぜぇ」

「えぇ……いらねぇ……」

「うっわ、キッモ」


 こうやって会話してる間にも、筋肉ハゲから渡された黒い何か――すね毛は、モゾモゾと動いて俺の手から逃れようとしている。

 きっも。


「なぁ、この世界のすね毛ってこれが普通なんか? キモいんだが」

「んなわけないじゃない、バカなのアンタ?」


 だよね、だよね!

 すね毛が動くとかちょっと世界観がわからなくなりそうだし。


「この変態ハゲの魔法よ、ちょっと考えればわかるでしょ。すね毛が動くわけないじゃない。気持ち悪い」

「魔法? すね毛の魔法? よりによって? え、どゆこと?」

「はぁ? こいつを見たらわかるでしょ? どっからどう見ても魔法使いじゃない! ていうか、なに普通に話しかけてきてんの? やめてよね、耳が腐るかと思ったわ」

「えぇ……」


 理不尽。

 すね毛の魔法とか意味わからないんだけど。

 このハゲが魔法使い?


「……」


 筋肉ハゲをじっと見つめる。

 どっからどう見ても魔法使いにゃ見えないんだけど。

 体毛ズボン……は置いとくとして、トゲトゲ肩パッドにガチムチ筋肉のスキンヘッドやぞ?

 世紀末でヒャッハーしてる人じゃん。

 一子相伝の達人に秘孔突かれてヒデブって言ってそうじゃん。


「ん? なんだ坊主、魔法使いが珍しいのかぁ?」

「ん、いや、珍しいというか魔法自体初めて見たんだけど」

「「はぁっ!?」」


「うわ、なんだ!? え、そんな驚くこと?」


 なんでそんなビックリしてんのよ?

 魔法が初めてってだけで宇宙人でも見たような反応じゃん。

 筋肉ハゲは口をパクパクしてるし、痴女の方は目玉が取れそうなくらい目をガン開きしててウケる。


「はぁ!? 今どき魔法なんて、どこの街、辺境の村でもみんな使ってるわよ! それを知らないって、あんたどこの未開の土地から来たの!?」


 痴女が腰に手を当ててキレ気味にまくし立ててくる。

 あ、モロ見え。

 やめて、思春期の男の子に、それは目に毒すぎる!

 でも助かります!

 てか、うんこまみれの俺に絡む前に、自分の格好どうにかしろよ。


「くはは! 坊主、嬢ちゃんの言う通りだぜ! 魔法なんて、この国じゃ赤ん坊でも使えるぜ! なぁ、坊主、どこの生まれだ? そもそもお前、誰だ?」


 筋肉ハゲが、ニヤニヤしながらスネ毛をモゾモゾ動かしてくる。

 うわ、近くで見ると普通にキモいな。

 でも、なんかこのハゲ、話が通じそうな雰囲気がある。

 痴女の方はギャーギャーうるさいだけだし。

 まぁ、スタイルは抜群だけど。


「えっと……俺は本田遊二。まぁ、なんつーか、遠いとこから来たんだけど……」


 ふむ、召喚された、なんて正直に言っていいものだろうか。

 被召喚者に人権がある世界ならまだしも、現状を見るとなぁ。

 うんこまみれだし。

 ここは適当に誤魔化しとくか。


「で、ほら、なんか……街歩いてたら奴隷狩りっぽい奴らに絡まれて、気づいたら牢屋にいてさ。んで、なんか爆発がドカーンってなって、なぜかうんこまみれでここにいたっていうか……」


 召喚された事以外は正直に話す。

 人を騙すには嘘と真実を混ぜるといいって言うしな。

 嘘言ってないけど。


「なんで街歩いてるだけで奴隷狩りにあうのよ、本当は犯罪者とかじゃないの? 全裸でうんこまみれとかまさにそうじゃない」


 うん、モロ出しのお前に言われたくない。

 でも、ありがとうございます。


「くはは! 坊主、そりゃ面白い話だな! 実はオイラもその牢屋にいたんだぜぇ。ほら、オイラ、この国の騎士でな。違法な奴隷狩りの調査で、王都から足取り追ってあの砦跡地に潜入してたんだわ。そこで奴隷狩りの奴らをボコボコにしてたら、なんかドカーンって爆発に巻き込まれてなぁ!」


 ガチムチな胸をドンドン叩きながらドヤ顔で語るハゲ。


 え、つーか騎士?

 このトゲ肩パッドのスネ毛ハゲが?

 どっからどう見ても世紀末のヒャッハー野郎なのに、騎士!?


「そういえば……あんたの声どっかで聞いたと思ったら……! あの牢屋でドンドンうるさくしてた頭イカれた奴!」


 痴女が、指をビシッとこっちに向けて叫ぶ。

 うわ、めっちゃキレてる!

 意外と胸ある!

 ありがとうございます!

 肌真っ白!

 ありがとうございます!


「ドンドン? はて? そんな音してたかな? 俺は達人になるために修行してただけだし……」

「やっぱり、その声! あんた、牢屋で何やってんのよ! 頭おかしいんじゃない!? 私の魔法が炸裂する前に、ドンドンカッカッてうるさくて集中できなかったのよ!」


 痴女がギャーギャー騒ぎながらマントをバサバサ振る。

 うわ、マントめくれてやべぇ!

 ほんと、ありがとうございます!


「てか、お前のその爆発魔法のせいで俺、うんこまみれになったのでは?」

「はぁ!? 私の高貴な魔法が、うんこまみれの原因!? ふざけんじゃないわよ! あんたのケツが緩いのが悪いんでしょ! 人のせいにしないでくれる!?」


 ケツが緩いとか言うなよ。

 こいつとバチバチやってても埒が明かない。

 ハゲの方がまだ会話できそうだから、ちょっと情報集めるか。

 ゲームでも情報集めるのは基本だからな。

 ただし、視線は痴女に固定だ。

 いや、またいきなり魔法撃たれたら怖いし。

 警戒のために、仕方なくだ。

 他意はない、ないったらない。


「なぁ、ハゲ……じゃなくて、おっさん。この辺、どこなんだ?」

「くはは! ここはな、グラムール王国の辺境の森だ。だが、王都で隠れて奴隷狩りやるような馬鹿はいないと思うがなぁ……やるなら、それこそこんな辺境でやるとか、もしくはお隣さんでやる、か? あの国は今荒れてるからなぁ」


 え、普通に狩られたんだけど?

 それにグラムール……?

 俺が召喚された国ってそんな名前だったっけ?

 なんか違うような……まさか、知らん間に国境越えてたとか?

 そうだとしたら、寝てる間にどんだけ運ばれてんだ、俺。


「ま、まぁ、それはそれとして! なんでお前ら戦ってたんだ? なんかバチバチやってたけど」

「くはは! それよ、坊主! この嬢ちゃんはな、王都で食い逃げの常習犯なんだよ! オイラ、奴隷狩りの調査ついでに、コイツを捕まえようと思ってな! たまたまこの森で会ったから、ついでにボコってやろうかと!」


 ハゲが、ニヤニヤしながらスネ毛をウネウネ動かす。

 え、食い逃げ!?

 大魔導士なのに!?

 なんか、めっちゃショボい犯罪で笑える


「はぁ!? 食い逃げだなんて失礼ね! 私、ただ…ちょっと金欠だっただけよ! お金が手に入ったらあとで払うって言ったのに! 勘違いしてイヤになっちゃうわ」


 痴女が顔真っ赤にしてマントをバサバサ。

 いや、お前、食い逃げは事実なんだな。

 てか、大魔導士なのに金欠って。



「くはは! 嬢ちゃん、言い訳しても無駄無駄無駄ぁ! 話は詰所で聞くからよぉ、大人しく捕まったらどうだぁ?」

「嫌よ! なんであんな男臭い汚いところに行かなきゃいけないわけ? あんなとこ、二度とごめんだわ!」


 ハゲが謎のポージングしながらスネ毛をウニョウニョさせる。

 うわ、キモい。

 二度とって、前にも連行されたことあるんかい?


 でも、なんかこの二人、喧嘩してるけど妙に息合ってるな。

 漫才コンビみたいだ。


 ぎゃーぎゃー楽しそうに言い合ってる二人を放っといて、「ゲームアーカイブ」と状況整理のために呟く。

 ぶん、と半透明のパネルが現れる。

 お、データ移行終わってる。

 さてさて、どうなってるかな?


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