第27章 辛さと甘さとアルコール

「雪乃・・・」

「雪乃さん・・・」

「二人ともどうしたの?」

「このピザめちゃくちゃ辛いぞ(です)!」

古間と音羽が同時に雪乃に物申す。

「そう?そんなに辛くないと思うけど。」

「そもそも、これ何味だよ。」

古間はスマートフォンでピザ屋のHPにアクセスしメニュー画面を開く。

音羽はそれを覗き込む形で古間とともに確認作業を行う。


『ホットチリペパロニ(大辛)』


二人はメニューを特定したものの写真よりも赤い実物に唖然としていた。

「写真より真っ赤じゃないか・・・って、なんかトッピング違くないか?」

「古間さん!追加トッピングのところ見てください!おそらくハラペーニョですよ!」

「お・・・おお!ほんとだ!おいおい、このピザ化け物だぞ!」


甘いのも辛いのも大好きな室橋。古間も同様であったが、室橋はどちらかというと辛党であったようである。それもかなりの。

「お惣菜に肉じゃがを買っておりて正解でした。あと、マヨコーンも。」

「二人とも大げさよ。チーズにマヨコーン、まろやかなのが多かったからちょっと刺激が欲しくてね。」

結局、激辛ピザは室橋が平らげ、食事は終わった。

室橋が後片付けをしている間、古間と音羽はバイクでコンビニスイーツを買いに行った。

「いいな~、音羽ちゃん。妬いちゃうなー。ほんとに。」

室橋は独り言をこぼしながら片づけを済ませる。リビングに戻り、ゲームの電源を入れる。

音羽が持ってきたレースゲームのカセットをセットし、人数分のコントローラーを接続させる。

まもなくして、二人が戻ってくる。

「シュークリーム買ってきました。でっかいやつです。」

「いやぁ、ミルクティってうめーなー!雪乃はカフェラテでいいかって、怒ってる?」

「何でもない!颯人のバカ。」

どうやらまた、一悶着起こってしまったようである。

そこにケーキ屋の箱を持った音羽がリビングに入る。

「雪乃さん。片づけありがとうございます。あと、ゲームの準備も。これ、面白いんですよ。その前に、シュークリームを食べましょう。」

「え・・・これ、コンビニのじゃないよね?」

「大学横のケーキ屋さんのものです。古間さんが、ここのが美味しいって言ってまして。」

「雪乃、これ好きだろ?なんだ・・・色々心配かけて本当にごめん。お詫びの印というか、そんな感じ。」

古間は室橋の方を向き直し、気持ちを伝える。

「いいわよ、許す!」

室橋の機嫌が直ったことに古間・・・そしてなぜか音羽も胸をなでおろした。

シュークリームを食べてから、レースゲームを始める。

普段からバイクを乗り回す音羽が圧倒的な実力差を見せていた。

最下位は、生粋のペーパードライバーの室橋であった。

「二人とも、手加減してよー。」

「してるけど、あれに負ける方が難しいよ。」

「私も手加減してますけどね。」

「絶対してない!」

今度は室橋と古間が同時に音羽にツッコミを入れる。

最終順位が出て、音羽の完全勝利と室橋の完全敗北が画面にデカデカと表示された。

一息入れるようにしばし、沈黙が流れる。

「20レースはやりすぎでしたね。」

「俺、しばらく運転はいいや。」

「うそでしょ・・・まさか全部最下位になるなんて・・・」

再び、沈黙が流れる。冷静になった三人はあの話題を出さないわけにはいかなかった。

アイコンタクトを取り、極めて自然な流れで情報共有を行う流れになった。

実のところ、三人とも気になって仕方がなかったわけである。

「・・・音羽、雪乃から聞いたんだけど、昏睡状態が心因性だってのは・・・」

「あくまで、数ある説のうちの一つに過ぎないと思います。ただ、詳しくは知らないのですが音楽療法の実践例があるみたいです。」

「実は、関係あるかわからないが中田のことについて少し追ってみたんだ。」

そう言って、古間は田嶋研究室を対象とした調査ノートを取り出す。

そこで二人は、中田が田嶋研究室でかなり不遇な扱いを受けていたことを知ることになった。

「ついでに白神のことも追ってみたんだ」

「白神さん、懐かしいですね。全然連絡とっていませんでしたが。」

「たしかに。颯人、白神君がどうかしたの?」

「連絡が取れないんだ。音信不通ってやつだな。結局、農学部の藤田っていう教員の研究室に在籍していることしかわからなかった。」

古間は、白神のことについて現時点で把握していることについて、何も知らない音羽にもわかるように補足を加えながら共有した。

「なるほど。変だと思ったんです。白神さんは田嶋先生のところに行ったはずなのに、いきなり藤田とかいう新キャラが出てくるんですから。妙につながりがあるのが少し気持ち悪いですね。結局、なんで連絡が取れないんでしょうか?」

古間は、農学部の教員に一斉にメールを送ったことを二人に話す。

「農学部は個人情報保護に関する規定が厳しいらしくて、今話したこと以外は何もわからなかった。」

「古間さん、そのことは誰かが知っていたりしますか?」

「いや、俺が勝手にしてたことだから。雪乃と音羽に話したのが初めてだ。」

「もしかしたら、的場先生にその話が行ってるかもしれない。『お宅の学生がこんな連絡をしてきました』みたいな。」

「ありえますね。的場先生に確認してみた方がよいかもしれません。」

白神の件は的場に話を聞いてみることで結論が出たものの、誰が聞きに行くかに話題が移る。しかし、その答えは単純にして明快であり、当事者の古間と的場とほとんど面識のない音羽は不適であることは自明である。よって、消去法でその役割は室橋が担うことになった。

「話を戻しましょう。白神さんが例の昏睡状態、もしくはそれに準ずる状態であると仮定しましょう。そして、昏睡状態が心因性であるという説を完全に肯定するとします。中田さんとの共通点として『環境に恵まれなかった』ことが挙げられます。」

「ちょっと待って!音羽ちゃん。たしかにそれっぽく聞こえるけど、あの二人は状況が違いすぎない?」

音羽の話に室橋が口をはさむ。音羽もまた、無理やり組んだ論理であるが故に、話を止めるほかない状況となった。

「あのさ、関係あるかわからないんだけど・・・ちょっと気になることがあって、雪乃は知ってると思うんだけど。」

古間は、音羽に中学の頃の初恋相手が夢に出てきたこと、そして、幻のように目の前に現れたことを話した。


「もしかすると、白神さんから考えた方がわかりやすいのかもしれません。」

「どういうこと?」

「・・・その前に、追加で飲み物を買ってきましょう。お酒がなくなってしまいました。」

「音羽ちゃん。結構飲んでるでしょ?コンビニちょっと遠いし、一緒に行くね。お酒飲んでないし。颯人も行く?」

「悪い。ちょっと酔いが回ってきたから留守番しとくわ。」

「そう?なら行ってくるわね。寝ちゃってもいいからね。」

「寝てたら、顔に落書きしますからね。」


室橋と音羽はコンビニへと出発した。

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