第13話

「何する?」

取り敢えず演習場に来たが、特にやることがない。

「かけっこ!」

「魚釣り!」

元気に意見を言い合う二人。

「何でだよ〜!魚釣りは昨日したじゃんか!」

「だって、数匹しか釣れなかったんだもん」

、、、悲しくなってきた。

(今まで一匹も釣れたことないんだけど、、、)

「楓が川下まで行くって言ったから付いて行ったのに、夜になっても戻らなかったから皐月先生に怒られた!」

「ちょ、、、涼花!そんなこと言っちゃダメだって!謝ろうよ」

「付いて来なけりゃ良かったじゃんか!涼花が悪い!」

「楓だって、涼花の押し花破ったじゃない!」

「その前に涼花がオレの梅干し取った!楽しみにしてたやつなのに!」

さっきまでの仲良しコンビは何処へ行ったのか、喧嘩しだしてしまった。、、、どうしよう。

二人が喧嘩するなんて滅多にないのに、、、。

アワアワと何て仲介に入ったら良いのか分からない。

「もう涼花なんか知らない!」

その言葉を吐き捨てて楓は何処かへ飛んで行ってしまった。

「か、、、楓!待って!」

急いで追いかけるかが、楓の得意な術は、方向狂わせの術。それに加え、下級生と上級生を合わせたみんなの中で一番足が速い。

すぐに見失ってしまった。

「あ、、、」

「、、、」

せっかくの青空。午後は三人で楽しく遊ぶつもりだったのに、、、どうしてこうなったんだろう。

「楓なんか、、、知らないもん」

「、、、」

大粒の涙を流しながら下を向く涼花の頭を軽く撫でる。

「涼花はどうしたい?」

「、、、八千代ちゃんと遊ぶ」

「楓は!?」

「、、、帰って来ないもん」

どうしよう。想像していなかった状況なんだけど、、、。皐月先生に相談するか!


「で、喧嘩したけれど中々仲直り出来そうにない?」

「、、、はい」

納屋の所にいた皐月先生に今までの経緯を話した。顎に手を当て、考えてくれるけど、皐月先生も中々良い案が思いつかないみたいだ。

「楓と涼花が喧嘩することは滅多にないからね、、、。私も正直驚いているよ」

「ごめんなさい、、、」しょんぼりと肩を落とす涼花を見て皐月先生は「謝らなくて良いよ」と優しくなだめる。そういうとこを見るとやっぱり先生なんだな〜と思う。

「涼花は楓と仲直りがしたい?」

「うん、、、。でも楓、怒っちゃったよ」

「そうだね。寝る時間になっても仲直りが出来なくて、一緒に寝るのが気まずかったら私の部屋においで」

下級生もひとり部屋だが、涼花と楓は仲良しだし、部屋を決める時、本人達の希望で一緒の部屋になっている。他にも慎と仁も一緒の部屋だ。


その頃、楓は演習場に戻って来ていた。

「、、、いない」誰もいない演習場を見て呟く。

少し言い過ぎてしまったので謝りたいが、怒って泣かせてしまった以上、自分から謝りに行くのは勇気がいる。きっと、許してくれない、、、。

「あれ、楓?どうした暗い顔して?腹でも減ってるのか?お土産いるか?」

ポツンと立っていた楓に声をかけたのは上級生の誠一せいいち。彼は八千代達より一歳年上で、夏休みということで帰って来ていたのだ。

ゴゾゴゾと風呂敷から瓶に詰められた梅干しを取り出し、楓に渡す。

「梅干し、好きだっただろう?」

「うん。ありがとう、、、」

好きな物をもらって嬉しいが、涼花のことが気がかりで喜べない。

「、、、ひとりか?何時もは涼花も一緒なのに」

「喧嘩した」

「なるほどな〜、、、」

近くの木の上に腰掛けながら喧嘩したことを話す。

「喧嘩して、怒って、泣かせてしまった。そのことについては反省しているんだろ?」

「うん。だから近くに咲いてたアゲラタム渡そうと思って、、、」

楓の右手にはしっかりと握られた数本のアゲラタム。

「、、、大丈夫。お互いの気持ちをしっかり言えば何も問題ない」

「うん。オレ、、、謝ってくる」

楓は決心したように木から飛び降り、長屋目掛けて走り出しす。

「相変わらず速いな〜、、、」

走り去る楓を見送りながら誠一はそんなことを口にした。

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