第14話『家畜小屋』

「――儂が知っているのは此処までです。幼いころは愛らしかったこと、噓つきになってしまったこと、森へ逃げてその後は怪物になってしまった……、あの娘を逃がすべきではなかった。だけど哀れだった……! あまりに哀れだったのです!」

 悲劇の元凶はどう考えても、村に有った。だけどそれまでだ、グリンガルドはその足で他の村々を破壊し尽くした。人命を軽んじて遊び感覚で殺し続けた。

 それはグリンガルド個人の罪だ。

「――ありがとう婆さん。お陰である程度の類推をたてられた」

 グリンガルドが人である。これは衝撃の事実だ。「魔族」じゃないんだ、一夜もたたぬうちにそうそう変貌する筈が無い。彼女に特別な才能がない限りは、他者が干渉しているのは間違いない。

「あとは目的だな」

「……? それこそ妖精の森に、まつわる人間の殺戮でしょう?」

「いいや、確かにそれもあるだろうが、どちらかと言えばそれは次いでだろう」

「ついで?」

 あれだけの悲劇が物のついでだというのか⁉

「もしグリンガルドの目的が殺戮ならば、抑々最初の進行の時誰一人逃がさない。村人は既に大多数が逃げている」

「確かに……」

 グリンガルドは異形の怪物を複数対持っている。村人の逃走を阻止するのは容易であった筈だ。今は結界まで張って執拗に繋ぎ止めているというのに、八年前との差は一体――?

「そこ辺りは本人に聞くしかないだろう。其れよりも気にかかるのは、この集落の存在だ。ジジババを集めて何がしたいんだ? 生産性が無いだろう?」

「それはもう少ししたら判りますよ」

 老婆が顔を伏していう。時は夕刻。もうじきあの時間だ。この屈辱をこの方たちに見ていただかなくては。

「来ました」

「これは……! そういうことか⁉」

「何、何なの⁉」

 老婆やそのほかの者たちに――つまり集落、家畜小屋の住民たちの首に独特の痣が現れた。それはまるで首輪のようで。

 そして瞬後――住民たちは異様に苦しみ始めた。

「ああああああああああああああああっ⁉」

 住民たちは僅かに発光していた。これは魔力の露出だ。

「魔力を吸い取っているのか!」

「魔力を何のために⁉」

「この結界を維持するためだ! 疑問だったんだ! 明らかに魔法士としては未熟なのに、どうやってこれほど大規模な魔法を維持しているのか! 答えは

「まさか」

 アンナも遅まきながら答えに気づく。なるほどそのままの意味だ。彼等は魔力を搾取するための〝家畜〟なのだ。

 恐らく此処に似た集落が、点在していてそこからも収穫しているわけだ。

 〝家畜〟を手に入れる為の虐殺! 愉悦のための殺生!

「醜悪すぎるぞグリンガルド‼」

「……!」

 あいつはわたしが殺さないと、わたしが……。殺すんだ。

 決意固めるアンナをロアは静かに見ていた。


「……収穫はあったが、肝心な所がぼやけているな」

「うん」

 集落にグリンガルドが訪れる以上長居は出来なかった。ロアとアンナは早々に集落を後にした。

 夜の森は足取り悪く、ロアはともかくアンナの進行を妨げた。

「……どれだけ持つの?」

「……、ざっと半月だろうな。生き残りが少なすぎる。家畜小屋も二、三個がせいぜいだろうよ」

「……っ」

 これほどの規模の魔法を維持するのは老人たちでは荷が勝ち過ぎている。

 もって半月、早い者なら数日で限界が来るだろう。

「力の使い方を教えて! 早く!」

「そう焦るな」

「あなたは戦い方を教えるって言ったよ⁉ だけど基本的な事しか教えてもらってない!」

 ロアは呼気いきを吐いた。迫ってくる気配を感じたからだ。

「いいぜ。まあ何せ時間が無い、弱音は聞かねぇぞ?」

「……分かってる!」

「じゃあまず、あいつを殺せ」

「――え?」

 ロアがあらぬ方向を指さす。その先を見ると、木々を押し倒して怪物が現れた。アンナを襲った怪物ともまた違う異形の怪物。

 言うなれば〝幻想の怪物モンスター〟だろう――。

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