第26話 分け雷(わけいかずち)!!

「分け雷(わけいかずち)!!」

 影の術名を叫ぶ声が聞こえ、稲妻が目の前に生えた影に吸い込まれていく。


「避雷針か?!」


 一瞬頭の中に浮かんだ言葉はすぐに忘れ去り、目の前に薙刀の銀一閃が迫る中、アンチグラビティで逆加速の急ブレーキ(いやホント、音速からゼロへの減速に俺の周りを飛んでいた形代が爆散、Gの負荷で普通なら全身骨折、内臓はぐしゃぐしゃで死んでいるところだ)その薙刀の切っ先を躱し、そのブレーキの反動を使って三辰を天后の脳天に向かって降り落とす。


「バカめ! 薙刀の間合いにすら入れず、ヌンチャクなんぞ妾に届こうはず……」


 天后の言葉はここで途切れ、驚愕に目を見開いたまま三節棍の天辰の一撃が天后の額を打ち砕いた。


 いままで、アンチグラビティベクトルシフト(万有引力)で日辰と真ん中の棍の月辰を密着させてヌンチャクのように三節棍を使っていたが、俺が急激に止まった瞬間にこの万有引力を解除した。


 そのことでバッティングで言うところの壁ができ、振り出されたバットが加速されるように、日辰に加速加重が加わり一撃必殺の武具と為す。


 温羅一族はこのように相手の虚を着くことを常日頃から研究していた。刀鍛冶ではなく鍛冶職人と言われる所以だ。


 陣も同様でオリジナル武具を考える上で注目したのが、フレイルという柄の先に打撃部を鎖などで接合した打撃武器だ。世紀末アニメではお馴染みだが、使い勝手の悪さから実践ではほとんど使われ無かったらしいが……。たたら神の加護により重力を支配できる俺にとって変幻自在!威力倍増!


 自分専用の武具は一目見てそのかっこよさから双節棍(ヌンチャク)にしようと考えた。焔羅彩夏は二つの仕込み扇子、氷羅柊は両手に拳鍔(けんつば)と温羅一族にとって二刀流はカッコいいの代名詞。


 陣も両手で使うダブルヌンチャクにしようと考えたが、片手ヌンチャクでは防御が弱く、攻防一体なら旋棍(トンファー)の方が実用的なことに気が付いた。


 結局、ダブルヌンチャクように使うこともできるし、棒術のように間合いが長く、遠心力によりその速さは棍棒を凌駕する。


 そうやって生きている時も三節棍を使っていたが、修羅道に落ちた時、戦闘狂(バサーカー)から三節棍を奪い、それこそ一三〇〇年間、実践で研究を重ねていた。


 それは影も同じようだった。生きている時は一刀流だった。温羅の武具では珍しい中距離攻撃方法である影戯で無敵を誇っていた影だが、本来の剣の間合いでは、たたら神の加護持ちとしては影戯は使い勝手が悪く、宝の持ち腐れだった。


 そして、剣を二つ持ち。一本は剣本来の間合いで、他の一本は影戯を使い二刀流に開眼した。どうやら温羅一族はカッコいい二刀流に憧れる痛い病に掛かりやすいようだ。


 一対多が常套の修羅道の中で、二刀流の近接戦闘と遠距離の発想を得たに違いない。


 直刀の槍投げの遠投、弾かれるのも計算のうち、その刺さった影から影戯が立ち上がった。俺の音の速さより先んじた稲妻の速さは、瞬間移動の影戯に阻まれた。


 術式「分け雷(いかずち)」は俺に向かってきた稲妻の進行方向を無理矢理へし曲げ、地面へと高圧電流を流す避雷針の役目を果たしたのだ。


 頭を割られた天后はゆっくりと仰向けに地面に倒れた。


「あと少しで八咫烏が匿い中国で受けた傷を癒した白面様が現世に蘇り、日本を混沌の混乱に叩き込み八咫烏がすべての頂点に立ったものを……。上加茂神社の主祭神、賀茂分雷大神(かもわけいかずちのおおかみ)の術に敗れるとは皮肉なことじゃ」

「白面? 誰だそれ?」


 しかし、天后は俺の質問に答えず、大量の吐血するとその体は生命エネルギーを霧散して、その場には頭が弾けた人型の呪符だけが残った。八咫烏の本拠地賀茂神社の主祭神は雷を分けるほど強大な力を持った神の名と同じ術名とは本当に皮肉が利いている。

 

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