カルドラクラウン

「昨日裏ダンの95階でやられた……」

「俺なんてまだストーリークリアしてねえよ、ワンダフルチキン強すぎだろ」

「誰か俺のデータ救助してくれよ、昨日やられてからずっと救助依頼出してんだけど誰も来ない」


 ある金曜日の休憩時間中、クラスの男子達は最近発売された人気ローグライクの話題で盛り上がる。それを黙って聞いていた良太であったが、やがてつまらなそうにその輪から外れると、自分の机でゲームをしている塔子の下へ。


「塔子さん、何やって……買ったんだ」

「買ったわよ。こう見えてダンジョンゲー好きなの。わくぶよダンジョンの新作出ないかしらね……まぁ、会社が倒産してるし難しいわよね……そういえば知ってる? 昔BSで2作だけ出たミズナってシリーズの新作が出るらしいわよ、楽しみね」


 友人との会話に混ざれない分、塔子とお喋りして退屈を紛らわせようとした良太であるが、塔子が遊んでいるゲームもまさに渦中のゲームであったため落ち込む良太。メダルゲームをずっと一人でコツコツ遊んで来たからか一人でコツコツやるローグライクとの相性は良く、今まで遊んだゲームの思い出を語る塔子であったが、その度に良太の表情は曇って行く。


「……ソフト貸してくれない?」

「無理よ。そもそも今はソフトじゃなくてデータのダウンロードだし」

「じゃあ本体をしばらく交換しようよ」

「いくら何でも図々しすぎでしょ。自分で買いなさい」


 話を聞いているうちに遊びたくなった良太は塔子に貸して欲しいと頼み込むが、一昔前ならゲームソフトの貸し借りは日常的に行われていたが、今はゲーム機をインターネットに繋いでデータを直接購入する時代であり、ゲームソフトの実物自体が存在しない。だったらゲーム機自体を自分との交換して欲しいと言う良太であるが、塔子は当然のようにそれを拒否し自分で買えばいいと正論を吐く。


「お金が……無いんだよ……っ! 今の時代はおかしいよ! 昔は中古ゲームが安く買えたのに、今はデータだから中古で並ばないから新品を買うしかないなんて!」

「セールとかを活用しなさい……そもそもお金が無いのはスリジェネに大金つぎ込んだり、私のアドバイスを無視してメダルゲームで散財するからでしょ」

「返す言葉も無い……こないだジャックポット当てたから、メダルは無駄にあるんだけどなぁ」


 ここ最近良太はやたらと散財しており流行りのゲームを購入する資金すら枯渇してしまっていた。アルバイトの給料が入るのもまだ先であり、換金する事の出来ないメダルだけ持っていても虚しいだけだと、メダルも散財するつもりで何度も溜め息をつきながら放課後に塔子とゲームセンターへ向かう。


「……あ、そうだ。メダルゲームでダンジョンゲーあったわよ。定期的にアップデートで中身が変わってるから私もそこまで詳しくは無いんだけどね」


 ローグライク欲に飢えている良太を見かねて、ローグライク要素が売りのメダルゲーム、カルドラクラウンの筐体へと向かう塔子。しばらくはこれで我慢するかと気を持ち直した良太は早速データを作成し、ユーザーのアバターや職業をカスタマイズして行く。


「歩いてもHP回復しないんだね」

「新しい部屋に入ったら少し回復する程度ね。基本的にはピンチになったらアイテムをメダルを消費して使って回復したりするの」


 一般的なローグライクとの違いを把握しながら、最初から用意されている初級者向けのダンジョンを攻略して行く良太。敵にやられる事無くアイテムも使わずにクリアしたものの、入場料メダル10枚に対しクリアの報酬は8枚。


「やられずにクリアしたのに赤字じゃん」

「私がこんな事を言うのはアレだけど、商売なんだから当然でしょう。スリジェネと違って補正なんてかからないけど、その代わりクリアしても赤字になるようなバランスよ。メダルがあるうちは無料で遊べるなんだから贅沢言わない」


 メダルが増えない事に対して不満を抱く良太を塔子が諫めるという昔なら有り得ない状況にお互い違和感を覚えながらも遊び進めて行く二人。最初は自分のプレイスキル虚しくメダルが減って行く事に愚痴を零していた良太ではあったが、カルドラクラウンの別の要素である、ダンジョンを攻略して得た素材で自分の拠点やダンジョンを作るというシステムに夢中になり始める。


「自分で作ったダンジョンを公開も出来るんだね。初手モンハウ作りたいね」

「男子はいつもそういう発想しか出来ないのね。私ならモンスターの一切いない99Fダンジョンを作って時間を浪費させるわ」


 それぞれのセンスで拠点やダンジョンを作り、お互いのダンジョンに挑戦してはレビューをし合う等して盛り上がる事しばらく、良太の目には協力プレイのモードが留まる。


「ダンジョンゲーで協力プレイ?」

「複数人でダンジョンに潜るのよ。ツレン3とか、フリードアイランドにもそういうモードあったわ。まぁ、テンポが悪いから不評だったけどね。良太のキャラはバーサーカーで私は魔法使いだから、持ち込むなら回復系を多めにしないとね」


 二人で1ターンずつ行動するためテンポは悪いが難易度は低く、その割に報酬も高いという協力モード。折角なので最後に二人でこれをやろうという話になり、それぞれお互いの短所を埋め合うように装備やアイテムを用意してダンジョンに突入する。


「塔子さん、回復して」

「えー、自分で回復しなさいよ」

「俺が前衛職でダメージ受けやすいんだからそのくらい負担してよ。俺が先に回復使い切ったら、罠とかで分断された時に困るよ。塔子さんはワープ魔法使えるけど俺は使えないんだから」


 前衛職として塔子の前に立ちながら戦う関係上、塔子よりもHPが減りやすく、頻繁に回復が必要になる良太。塔子がたっぷり持ち込んだ回復アイテムを使うように頼むも、自分でメダルを使いたくない塔子はそれを拒否して良太自身に使わせようとする。そんな塔子に天罰が下ったのか、モンスターと戦っている良太の後ろで高みの見物を決めている塔子の後ろから強力なモンスターが。


「良太、そいつ倒したら、いや、今すぐ場所代わって」

「自分で魔法使って倒しなよ」

「良太をサポートするために回復アイテム多めに持って来たから攻撃魔法ほとんど無いのよ」

「サポートしてない癖に……自分で頑張って回復しながら殴るんだね」


 焦る塔子に先ほどの仕返しからかニヤニヤしながら見捨てようとする良太。そうして二人はお互いを見捨て合いながらダンジョンを進んでいくが、やがて二人は自然と協力し合うようになり、


「横の敵HP50」

「んじゃフレイム2で一撃ね」


 ダンジョンの終盤になる頃にはすっかり二人の息は合うように。無事にダンジョンをクリアした二人は、得たメダルや素材よりも大事な物を得たと言わんばかりの笑顔でゲームセンターを後にする。別れ際、塔子はカバンからゲーム機を取り出すと良太のカバンに入れようとする。


「土日、遊んでいいわよ。私はもう十分やり込んだし。今日もたくさんダンジョンゲーで遊んだし」

「塔子さん……ありがとう」


 自分が買ったゲームソフトをゲーム機本体を貸してまで他人に遊ばせる程に変わった塔子。そんな塔子の心意気に遠慮する必要は無いと、ゲーム機を受け取りペコリと頭を下げて良太は去って行くのであった。そして休日を挟んだ月曜日の朝、良太はありがとうと塔子にゲーム機を返却する。


「どうだった?」

「感動したよ」

「……? そんなにストーリーあったかしら?」


 良太からゲーム機を受け取りながら感想を聞く塔子。しかしストーリーはおまけ程度のローグライクでストーリーが良かったと言い出す良太に違和感を覚えていると、


「レオン文官、最初はムカつくし王子との恋を邪魔する悪役だと思ってたんだけど、ルートに入ったらもう泣いちゃってさ」

「な……な……」


 良太は本来やりたかったゲームの他に塔子のゲーム機の中に入っていた乙女ゲームをプレイしており、そのストーリーに感動したと言い始める。自分の恥ずかしい趣味を他人に知られた挙句に語られるという状況に耐えられず、朝の教室に塔子の怒号が響き渡るのであった。






※ あとがき


元ネタ……コナミ『エルドラクラウン』


モンスターゲート→エターナルナイツ→エルドラクラウンと名前を変えて続く、

メダルゲームをしながらダンジョンゲームで遊べるコスパの良いシリーズ。

ただし今となってはコンシューマのローグライクの進化のスピードについていけないのか、

ゲーム部分は古臭いイメージは拭えず、王国を作って全国対戦と言った感じのPVP要素を売りにしている。



メダルゲームとは一切関係の無い作中に出て来たゲームの元ネタ


わくぶよダンジョン……『わくぷよダンジョン』。コンパイルの遺作。それなりにプレミアがついている。

ミズナ……DS『降魔霊符伝イヅナ』。何故か新作が出るらしい。

フリードアイランド……PS『ハンターハンター幻のグリードアイランド』。作者は原作を知らない。

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