酒がない、最悪の街(3)
オキャクサマ。その言葉にロイドは目を丸くした。それってつまり裏社会のやつなんじゃないかと頬を引き攣らせつつ、ゆっくりと立ち上がる。その瞬間に発砲。バンバン! と来たところでキャンベラとロイドは左右に避けた。
見れば四、五、六人もいるじゃないか。豪勢なものだなと驚きつつ、射線が通らない物陰に隠れる。すぐ側にしゃがんでいるキャンベラに視線をくれると、彼女は手にピストルを持っていた。話に聞く限りじゃ彼女はライフルの方が得意らしいが……普段持ち歩いている訳でもないのだろう。
「レディ、あいつらはなんで襲ってくるんだ?」
「……アナタガイルカラデスヨ」
ん? と首を傾げると、彼女はため息を吐きながらそのピストルで迎え撃つ。戦っているのを見る事しかできない自分に苛立ちを覚えつつ、なぜ自分がいる事で襲われるのかを考えた。
見慣れないやつがいるから?
だったとしてキャンベラも狙うのは何なんだ?
考えて、考えて、それから出た答えはロイドの敵だからなのではないかというものだった。
顔だけダーリンをパプタでやって来た身としては、恨み辛みとは縁が尽きない。とはいえ正市民の街に侵入するなんて危険を冒してまで殺したいやつになった覚えは一ミリもないのだが。
そう考えていた次の瞬間──目の前でドン! と爆発が起きた。それも点々と爆発している。
「何事だ!?」
「アラ、クルノガオソイデスネ。シャンクサン」
キャンベラの言葉と視線(というより体の向きか)の方向を見る。そこには爆弾を大量に手にしたシャンクの姿があった。風に
黄色のスナップボタンがついたエプロンはまるで花屋の店員でもある。
「やあやあ
さすが俳優を名乗るだけあるのか、通る声で通告する。そちらに気を取られている間に、キャンベラはロイドの腕を取って逃げ出した。それに気づいた敵が二人、こちらに向かって発砲する。
それを踊るように逃げ惑いながら、ボロボロの教会内に入った。
キャンベラに腕を引かれながら暫く歩いていると、彼女はある地下室を前にして足を止めた。下へと続いていく階段の先からは、にわかに騒ぎ声が聞こえてくる。
「ニュウインカンジャノヒナンジョデス。アナタモコチラニ」
まさか! 自分だけ逃げ隠れろと言うのか。そう眉を下げたロイドはなんとかキャンベラを説得しようとした。だが聞きやしない彼女に思わず舌打ちをする。ゴミを見る目で見られて、余計に腹が立ったロイドは壁を叩こうとした。だが、慌てて動きを止める。
キャンベラは淡々としていた。なんだ、仲間になったんじゃないのか。友人だと思っていたのはロイドだけだったのか。
「イイデスカ、ココデハミナスグニシニマス」
「……」
「ダカラワタシタチハ『ジョウ』ナンテイラナイノデス」
まるで自分の事を言われているようだった。顔だけダーリンは情けを掛けない。そのときだけしか愛さない。過去のハニーが誰かと付き合おうが、死のうが、ロイドには関係なかった。
彼女達もそうなのだろう。仲間だろうと、愛情も友情も必要ない。心のどこかでそれを肯定する自分も、否定する自分もいる。
無性に腹が立ったロイドは「くそったれ」と呟いた。それをキャンベラも聞き取っていたのだろうけど、彼女は彼の言葉を無視して、避難所である地下室へ連れて行こうとした。ロイドは、そんなキャンベラからするりとピストルを奪い取った。
「ア!」
「すまないけど、俺は黙って見ているのは嫌いなんだ……!」
そう言ったロイドは角の先にいた黒服の男をバン! と打つ。頭に一発命中したお陰で、男は背中から倒れる。男の撃った弾は明後日の方向へ飛んで行った。
「ココマデシンニュウサレテルトハ」
「……キャンベラはライフルが得意なんだろう?」
「ソウデスネ」
そう言った彼女は壁を触った。するとガコンと動いて、壁の中から沢山の銃たちが現れる。その中から選んだのはウィンチェスターライフル。その細い指でがっしりと持つと、彼女はボッと頭の火を強く燃やした。
「イキマスヨ」
「ああ。背後は任せろ」
二人は頷き合うと、戦場である中庭に向けて駆け出した。
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