9.勝者はどっち?

「お互い、このレベルの魔物相手なら余裕そうだな。」


俺がそう言うと、シアは頷いた。


「どうする? これなら手分けして魔物狩りをした方が良さそうか?」


俺もシアもそこそこ戦える。


わざわざ一緒にいる必要はないだろう。


そう思っての提案すると、シアは絶望した表情を浮かべた。


「ええッ! せっかくエスタと二人きりになれたのに、別行動? やだ。」


「やだって……。このエリアじゃあ、二人は過剰戦力だろ。それに、今一応ナルキ達と勝負しているんだが?」


「それはそうだけど。いいの? 美少女と二人きりになれるチャンスなんだよ?」


「自分で言うなよ自分で…」


いつかの夕飯の奢りがかかっているので、俺的には別行動してできるだけ多くのお金を稼ぎたいのだが、シアがそれを許してくれない。


掃除用具の事もあるのでお金はあるだけあった方がいい。


別々に行動しようと再度説得を試みるがダメだった。


結局俺たちは十分程度口論を交わしてから、一緒に狩りをすることになった。



☆★☆★☆★☆★☆



この世界には魔物という怪物が存在する。


見た目は完全に動物。しかし、動物とは明確に違いが存在する。


奴らは魔力を利用できるのだ。


例えば、魔物は危機に瀕した時魔法を放つ事がある。


普段は魔装を使って肉体を強化している。


俺達魔族も魔力を利用することはできるが、魔物のそれとは少し違い、魔族は後天的に魔力の使い方を学んで習得する一方で、魔物は先天的に本能で魔力の利用方法を知っているのだ。


故に魔物の戦闘力は、他の動物と比べ抜きん出ている。


しかも厄介極まりないことに、魔物は獰猛で攻撃的な個体が多く、世の中的には害獣扱いされている。


奴らは生息地から外へ出ることが無いので、魔物のいない地域で暮らす分には申し分無いが、旅人や商人達からすると嫌な存在だろう。


そして、俺達は今、そんな危険な生物と戦闘をしている。


前より魔物が接近。


合計3体、スライム一体に巨大なカエル2匹。


まず、カエル一匹を縦に切り裂く。


次に攻撃を仕掛けてくるもう一匹のカエルにカウンターを喰らわせる。


終わったら退き、スライムとは距離をとると、シアの強烈な魔法がやつを蒸発させる。


全ての魔物を始末すると、三つの魔石が地面に落ちた。


俺達は、魔石を拾い上げ、持ってきていたバッグの中にしまい込む。


こんな作業を時間が来るまで何度も繰り返す。


一番驚いたのは、シアの動きの良さだ。


欲しいところで適切な魔法を放ち、俺をサポートしてくれる。


オルエイに来るまでに何度も魔物と戦ってきたが、ここまで戦いやすかったことはなかった。


何よりも凄いのは、俺の動きを完全に理解しながら動けていること。


俺は魔法が使えない。


故に、基本物理で攻めなければならない。


それをわかっていてなのか、彼女は俺の動きの邪魔にならない絶妙なバランス感で魔法を放っている。まるで、俺の特徴を初めから知っているかのように。


おそらく一番最初に見せた俺の戦い方から癖などを分析したのだろう。


物凄い才能だ。


戦闘を終え、一旦一息つく。


「なあシア。普段、戦う時って直感にたよってる? それとも考えながら?」


あまりにも動きが良すぎたのでつい聞きたくなって聞いてみた。


彼女はよくわからなさそうな表情で首を傾げる。


「んーと、戦闘中はあんまり考えてないかな?」


という事は、動きの良さは、生まれつきのセンスからきているものというわけだ。


魔力量も多く、戦闘センスも高いときた。


彼女の持っている才能が羨ましく感じる。






その後、俺達は魔物を狩りまくった。


大体この辺に出現する魔物は決まっていて、二種類しかいない。


大きなカエル、もしくは大きなスライム。


俺が主にでかガエルを討伐し、物理攻撃の効かないスライムをシアが魔法で倒す。


二人とも、しっかりと戦えるので、特に苦労はなかった。




☆★☆★☆★☆★☆★




かれこれ魔物狩りをしていると、いつの間にか5時になっていた。


約束の時間だ。


段々と日が沈みだし、空が橙色のグラデーションになりつつある。


「そろそろ時間だし、戻るか?」


俺が腕時計を確認してから言うと、シアは嫌そうな表情を浮かべる。


「え~? もう~?」


「約束は五時までだっただろ?」


シアは不満そうにため息をついた。


しかし、納得したように帰り道に向かって歩き出す。


「まあ、約束なら仕方ないね。帰ろっか。」


俺は、淡々と歩いていく彼女の背中をついて行く。


「シアは魔法が得意なのか?」


不意に俺が質問すると、彼女は微笑みながら答える。


「別にそんなこと無いよ、なんなら苦手な方。魔法より得意な事はいっぱいあるし。」


あのレベルの魔法を撃っときながら、苦手な方って…


魔法を使うことはできない俺だが、他人の魔法のレベルを図る事はできる。


正直、同世代で彼女以上の魔法使いは見たことがない。


まあ、探そうと思えば身内に一人とんでもないのがいるにはいるのだが、それにしても凄いことに代わりはないだろう。


「Fクラスの二位でこれか。上位のクラスはもっと凄いってことか。」


俺がそういうと、彼女は軽く反論した。


「別にそんな事はないと思うよ。私のはズルみたいなものだからね。」


「ズルみたいなもの?」


咄嗟に聞き返したが、彼女は何も答えずに歩き出した。


さっきまでは目を合わせてくれていたのにそれがない。


どうやら、何も言う気はないようだ。


俺は何も聞かずに静かに受付まで歩いて行った。




☆★☆★☆★☆★☆★




受付へ帰ると、ひとまず終了報告をする。


そして、討伐した魔獣の魔石を渡して換金をした。


お金を受け取ると、俺たちはそれを半々に分けて外へ出る。


「マリーちゃん達、まだっぽいね。」


シアが周りをキョロキョロと見渡してからそう言う。


「もしかしたら帰り道に迷っているとか…ん? いや? いるぞ?」


よく見ると、視界の端に、二人の姿を見つけた。


受付所を出たすぐの隅っこの木の下に、二人はお互いを抱き合いながら蹲っている。


俺が指を指すと、シアも気がついてそちらの方へ向いた。


「おーい、何してんだ〜?」


そう呼びかけると、ローズマリーとナルキは二人して肩をビクッと振るわせながらこちらを見る。


「魔物怖い魔物怖い魔物怖い魔物怖い」

「虫虫虫虫」


顔を真っ青にして同じ言葉を連呼していた。


一体二人に何があったのだろうか?


「だ、大丈夫か?」


とりあえず声を掛けると、ナルキは消えてしまいそうなほど細くて弱々しい声で俺に向かって言った。


「エスタ……僕学校やめたい。」


本当に一体何があったんだ?


ひとまず、俺とシアは傷心中の二人を慰めることにした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る