第21話 トラウマ
俺が死にかけたあの事件から一週間ちょいが経過したが、この間、レイド隊のリーダー田村と第2隊のリーダーてある鷹村が指名手配され、逃亡中だということが明らかになった。
そして新司は・・・遠く離れた岡山県で保護された。何とか無事だったようだが、事件の影響は大きかった。
そんなある日、ギルドから呼び出しを受けた。
会議室に通されるとギルドの重役たちがおり、指名手配された二人以外のメンバーについて、どう処分するかを俺に尋ねてきた。
市のハンターギルドではなく、県のハンターギルドの幹部が来ていて、他の市のギルドマスターもいた。
「市河君、彼らについてはどうするかきまったかい?」
俺の所属するギルドのギルドマスターである天藤さんが真剣な表情で問いかけてくる。俺は少し考えを整理し、答えを出した。
「正直なところ、春森新司をはじめ、他のメンバーたちは、あの二人――隊長の田村氏と第2部隊のリーダー鷹村氏の意図に巻き込まれた形だと思っています。彼らが俺を見捨てたのは突然のイレギュラーのことで、咄嗟に判断を誤った結果だったんじゃないかと感じます。全てが混乱していて、分かって俺を生贄にとしたのはあの二人と春森だけだと思いますが、春森は咄嗟のことにパニックになったからああしてしまったと思います。ですがあの二人は元々万が一の時は俺を生贄にすることを決めていたのだと思います」
俺は冷静に答え、周りを見渡すも誰も何も言ってこないので続けた。
「本当に俺を殺そうとしていたのは、あのリーダーと第2部隊のリーダーだけです。他のメンバーに関してですが、春森新司も含めて、彼らはお咎めなしでいいと思っています」
そう続けると、ギルドの重役たちは少し驚いたような表情を浮かべた。
「それと、ボスドロップと魔石以外は俺のものにさせて欲しいです。あの状況で俺は命を賭けて戦ったんだからそれくらいの権利はありますよね?。それ以外の戦利品は、人数割りで公平に分けて欲しいんです。彼らにも生活があります。レイド戦に参加し、何も得ないのは流石に可哀想です。最低限の報酬以外支給されない・・・これが俺一人を生贄にした皆さんの罰とし、文句を言わない・・・では駄目ですか?」
俺はしっかりと要求を伝えた。
ギルドマスターは少し黙って俺の言葉を噛み締めるように考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。
「君の決断、尊重しよう。他の者たちにはお咎めなしとし、君の提案どおりボスドロップと魔石は君に、他のものは公平に分けることとする。ありがとう、しっかり考えてくれたんだね」
天藤さんはほっとしたように言った。
俺はその言葉に軽く頷きながらも、まだ心のどこかで引っかかるものがあった。しかし、これが最善の結果だと信じて、ギルドを出てダンジョンへ向かうことにした。今後のことを考えながら、俺は新たな一歩を踏み出す覚悟を固めていた。
結局、装備や持ち物は手元に残った。俺のリュックはレイド隊のリーダーが持ち去ったと思っていたが、誰かが回収してくれていたらしい。ボス部屋に辿り着く前にリュックに入れておいた物は無事で換金できていた。指名手配中の二人が行方をくらませたこともあって、残りのメンバーに分けた額は、一人あたり三万円にしかならなかった。
あの二人が俺のリュックを無視したのは恐らく自分たちの荷物の回収を優先したからだろう。一度投げ捨てたり、落とした荷物を拾いに戻る余裕があったのに、俺のリュックには目もくれなかった。それが結果的に俺にとっては幸運だった。
とはいえお金はすぐに無くなる。
まだ今は余裕はあるが、今日もダンジョンに向かうことにした。生活費を稼ぐためには、少しでも早く収入を得る必要がある。
ダンジョンへ向かおうとした途端、森雪さんが俺がダンジョンに向かおうとしていることに気づいたようだ。
森雪さんは学校から当たり前のようにギルドについてきたが、ロビーで待っていた。呼び出された話をし、また明日ね!とここでお別れとしたが、悟られたようだ。
「私も一緒に行く」
迷うことなくそう言った彼女は、かなり前から俺のことを色々と気にかけてくれているし、俺も拒む理由はなかった。
今日は軽く1階層の魔物を狩るつもりでサブウェポンのコンバットナイフで戦うつもりだった。だからギルドで軽装の服に着替えてからダンジョンに向かう。
そうしてバスに乗りダンジョンに向かう。
ダンジョンに一歩踏み入れると、森雪さんは突然腰を抜かしてしまった。足が震えて先に進めず、その場に座り込んでしまった。涙を浮かべながら震える彼女を見て俺は驚いた。
「も、森雪さん、大丈夫?」
慌てて声をかけ、落ち着かせようとそっと抱きしめた。抱きしめちゃった。
嫌がられなかったし、これが最善だと思ったんだ。
しばらくして彼女は少し落ち着いたようだが、どうやらレイド戦にてボス部屋で起こった一件がトラウマになっているらしかった。あの恐怖がまだ彼女の中に深く刻まれていて、ダンジョンに入ること自体が辛くなってしまったのだろう。これは、珍しくない話だ。戦いの恐怖が心に深く残り、二度と戦えなくなる人は少なくない。
彼女を無理に連れて行くわけにはいかないので、結局、今日は彼女を家に送ることにした。
ダンジョンをすぐに出たが、森雪さんは一歩も歩けなかった。
その後俺たちは無言でバスに乗り、駅に着いてからタクシーで森雪さんの家に向かう。
彼女の家に着くと改めて思ったのは、彼女は良いところのお嬢様で、俺とは住む世界が違うんだなと思い知らされた。
あるところにはあるんだなぁといった家というか豪邸に送り届けた時、その現実がはっきりと俺の胸に刺さった。俺はただの低ランクハンターで、毎日必死にダンジョンで稼がなければ生活すらできない。彼女とは違う世界に生きている。
森雪さんは俺に深々とお辞儀をすると家の中に入る。
言葉を発すると泣いてしまうからと、黙っていたんだと思う。ドアが閉まると俺は森雪さんの家を出たが、玄関に家政婦さんがいたからもう心配はないだろう。
だが、それでも彼女は俺を気にかけてくれる数少ない存在だ。そんな彼女に感謝しつつ、俺は一人でまたダンジョンへと向かった。
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