第7話 レアの兆し

 ボスが霧散した後、俺の目の前には光るオーブが二つ鎮座していた。いや、ボス部屋の光を反射して、光っているように見えるだけだ。


 ボス部屋は人が入ると段々明るくなるが、なぜ明るくなるのかは未だに謎だったりする。

 気にしたら負けだと言われており、どうせならダンジョン全体を明るくしてよ!とぼやくくらいは良いよね!


 普通、レイド戦で挑むレベルのボスドロップについてだけど、スキルオーブが出たとしても一つだと聞いていたが、まさか二つも出るとは思わなかった。


 過去にイレギュラーボスがスキルオーブを2つ、それもレアなのを落とした事例があるそうだ。倒した人はSランクハンターとなり、伝説として語り継がれるような功績をあげたという有名な話がある。


 今回、二つのうち片方は9階層で倒された階層ボス?のよりも大きいスキルオーブだ。最も活躍した者が権利を持つと聞いていたが、俺はその資格がないと自覚していた。誰が権利を得るのか心の中で予想していたが、まさかこんな結果になるとは。


「稀に二つ落とすことがある・・・」


 唖然となり呟いたが、2つ落とす事例について以前誰かが言っていたが、それはかなりのレアケースで、まさか自分がそれに遭遇するとは思わなかった。

 ダメージ反射のスキルも相当なレアなはずなのに、立て続けにレアが出たとなると、なにかがおかしい。いや、今更そんなことを考えても仕方がない。


 色々おかしかった。道中の魔物がスキルオーブをドロップするなんて少なくとも日本では聞いたことがない。イレギュラーでボス部屋を追い出され、弱体化したボスから出たと海外ではあるらしいけど、まさか・・・


 周囲を見渡すと仲間というか、レイド隊のメンバーたちはすでに逃げ出した後で誰もいない。


 正確には、俺を囮にして逃げたのだ。新司は分かっていてまるで俺の身を犠牲にして、自分だけ生き延びようとしているように感じた。

 いや、その為にわざと俺の足を蹴ったんだと思う。


「だから、ドロップは全部俺のものにしても文句を言われる筋合いは無いよね!?」


 贄にされた怒りよりワクワクから心の中で呟く。スキルオーブは使ってしまえば返すことはできないし、後の祭りだ。

 多分、レベルも上がったはずだ。


「アイテムは他にもあるはず…」


 まずはスキルオーブを割っておこう。その後で部屋の中を探すことにした。割らずに戻ったら面倒なことになりかねないからね。


 地上に戻って鑑定士に見てもらわないと、どういった効果があるのか分からない。だから、今はガチャ状態でやってみるしかない。


 まずは大きい方のオーブを手に取った。


「行くぞ・・・!」


 床に叩きつけて割った瞬間、光が弾け、光が俺の周りを包み込む。視界が一瞬白くなり、スキルの名が耳に響いた。


 スキル解説: 肉体再生

 スキルランク: レア

 効果: 受けたダメージを迅速に回復し、切断された部位の欠損すら再生する能力。

 詳細: このスキルは、戦闘中に受けたダメージを短時間で回復させる。切断された部位も再生が可能。発動すると最大HPの50%までのダメージは瞬時に回復することができる。ただし、再生に必要な時間は部位によって異なり、完全に元通りになるまでには数分から数時間以上を要する。


「おっ!切断面に膨らみが・・・きも!」思わず視線を向けるが、あまりにもキモいので見るのをやめた。そんなことより、次のオーブだ。


 もう一つあるんだ。

 ドロップした小さい方のオーブを手に取る。期待が高まる中、割ってみると、再び光が溢れ出す。


 スキル解説: ハーメット

 スキルランク: 中

 効果: 一度発動すると攻撃を食らうか、攻撃を行うと解除される。

 詳細: このスキルは、発動中に完全に気配を殺し、姿を見えなくする能力を持つ。ただし、魔力は1分につき1消費する。発動後、攻撃を受けるか自分が攻撃するまで解除されないため、戦闘の状況を一変させることができる。隠密行動や奇襲を行う際に非常に有効で、敵を混乱させることが可能だ。


「これはすごい・・・」


 心の中で歓喜の声が響く。まさかこんなに強力なスキルが手に入るとは。これで戦闘が少しは楽になるだろう。


 そのとき、ふと視界の隅に光るものを見つけた。ボスが霧散した場所のすぐ近くに誰かのカードホルダーが落ちていた。近づいてみると、ホルダーには3枚のカードが入っていた。2枚は登録済みで、確かその2体はカバンの持ち主が申告済みだ。しかし、この一枚は違った。色からしてレアだ。


「これは・・・!」


 期待が膨らむ。しかし、基本的に今回のようなレイド戦でのドロップ品は換金して市場で売買するのが普通だ。事前の配分比率によって総額から配分し、今回はドロップは全て荷物持ちの俺に集めるはずだった。特に未使用のカードは、ちょろまかすやつがいる可能性があるので、持ち込まないのが基本だ。


 登録済みのカードは・・・確か二番隊のパーティーリーダーのものだ。鷹村・・・だったっけ?2枚持っていて驚いたが、3枚のカードを持っている者はいなかったはずだ。


 つまり・・・ちょろまかしたのだ。おそらくボスを見て慌ててカードを取り出そうとして取り落としたのだろう。気絶して担がれたのかもしれない。


「どちらにしろ、ちょろまかしていたのだから問題ないよね!」


 つい口に出したが、カードホルダーの持ち主しか知らないだろうし。このカードはボス戦で出たといえば良いよね!何せレアアイテムなどをゲットした時って、まずはリーダーに報告し、その情報は各パーティーのリーダーに共有されることになっていた。そして俺が預かるのだが、そんな報告はない!


 ありがたくいただくことにする・・・ゴチです!


 おそらく10階層のボスと戦う前、9階層を抜ける時に倒した魔物からスキルオーブがドロップしたようだから、その時にドカードもロップしていたのだろう。


「早速召喚するか!」


 ふふふ!悪く思うなよ。何せこのまま戻ったら没収される恐れがある。ならばボスが2体いて、一体目がドロップしたカードを使ってなんとか勝ったことにすれば誰も、何も言うまい。


 幸い、そいつのカバンも落ちていて、中には小さなスキルオーブが入っている。これをボスドロップとして扱おう。あいつには恨まれるだろうが、ちょろまかしたやつが悪いのだ。

 少し変な思案になっていた。

 そのオーブを含めて全てゴチになれば良いんだよ!


「さて、どんなカードなのかな・・・」


 俺はカードを慎重に取り出し、リュックに入れていたヘッドライトを取り出すと、その光を当てる。未使用のカードは一枚のみ。その色合いや模様からして特別な力を秘めているようだ。登録済みのカードは基本的に主の変更ができないため、どれだけレアなカードであってもこのカードは俺のモノにはならない。しかし、未使用のカードを召喚すれば、俺が主人となりその力を借りることができる。


「早速、召喚するぞ!」


 俺は誰に言うでもなく声を出したが、この明らかにレアなカードを見つめながら、これからのハンター活動に期待ができると、底辺から脱却できると心を躍らせた!

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