第5話 絶望のレイド戦

 最下層のボス部屋に足を踏み入れた俺たちの目の前には、広大で異様な光景が広がっていた。静寂に包まれていた。


 壁には古代の文字が刻まれ、天井からは不気味な光が漏れている。部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれており、その中心がボスの出現場所だとされていた。


 リーダーは慎重に配置を指示し、全員がボスの出現場所を取り囲むよう、あらかじめ決められた位置を取った。彼の目には決意と緊張が混じり合っていた。


「お前はそこを動くな」


 リーダーが俺に向かって指を差した。そこは部屋のドアが閉じないための唯一のポイントだった。その場所に誰かがいれば扉は閉じないが、一度閉じてしまえばボスを倒すか、生きている者がいなくならない限り開かなくなるという仕組みだ。

 戦力としてはまったく期待されていない俺にとって、動かずにそこにいることが与えられる唯一の役目だった。


 全員が緊張感に包まれる中、空気が重く沈んでいく。部屋の温度が急に下がり、息が白くなる。そして、ついにその時が来た。床から不気味な揺れが伝わり、地面に大きな亀裂が走る。突然、亀裂から巨大な手が這い上がり、次いで異形のボスがその姿を現した。しかも皆が取り囲んでいる中央ではなく、囲いの外だった。


「こ、このボスは・・・!あり得ない」


 リーダーの顔が蒼白になり、絶望的な表情を浮かべた。俺も目を見張った。聞いていたのはオーガの上位種であるはずだった。だが、目の前に現れたのは、一つ目のサイクロプスのような二本角の巨人だった。しかも出現の仕方が違う。

 いや、ようなのじゃなくサイクロプスオーガというサイクロプスとオーガとの間のハーフだ!確かもっとレベルの高いダンジョンに出るAかSランクの化け物だよな?


「ば、馬鹿な!聞いていた話と違うじゃねえか!」


 リーダーの叫びが響く。全員が動揺し、次の瞬間、恐怖が一気に広がった。


 そういえば9階層で、ここで出るはずのオーガモンクが出たが、弱かったと劣化版が出たが、オーブがドロップしたと興奮しながら鷹村さんがスキルオーブを俺のリュックにしまっていたな。


 巨人が雄叫びを上げると、まるで嵐のような衝撃波が周囲に襲いかかる。仲間たちは必死に耐えるが次々とメンバーが吹き飛ばされ、戦線が崩れていく。巨人の一撃で壁が崩れ、瓦礫が飛び散る中、皆混乱の中で必死に戦った。


「撤退だ!」


 レイド戦の隊長ー確か田村といったはずの指示が飛ぶ。すでに数人が戦闘不能になり、怪我人はボス部屋の外に退避して回復を図るが、森雪さんも怪我をして別のメンバーが彼女を引きずり出していた。意識はあり重症ではないようなのが幸いかな。


 俺はその場でただ立ち尽くしていたが、突然、背後に人の気配がし脚に鋭い痛みが走った。振り返ると、そこにはしんじがいた。彼の顔には狂気が浮かび、俺を睨みつけている。


「お、お前が悪いんだ・・・」


 春森新司の呟きが聞こえる。その言葉と同時に、彼は俺の足を折るように強く蹴りつけた。俺は痛みによろめき地面に崩れ落ちた。


「おい、待て!」


 叫んでも、春森は背を向けて逃げ出す。そして、リーダーも俺を一瞥しただけでその場を去っていった。俺は孤立したまま、痛みと絶望に苛まれた。


 まさか、こんなことになるなんて…。全身に広がる痛みをこらえながら、必死に這いずるようにして逃げ出そうとしたが、無情にもボス部屋の扉は閉じた。


「どうして・・・?」


 扉を叩き、叫んでも反応はない。恐怖と絶望が押し寄せる中、俺はボス部屋の中に一人取り残された。視線を上げると、巨人の一つ目が冷酷な光を放ちながらこちらを見下ろしていた。


「そ、そんな・・・俺の人生はこれで終わった・・・くそっ!」


 俺はそう呟き、崩れ落ちるようにその場に伏せた。ボスの影が迫る中、俺の運命はまさにその一瞬にかかっていた。

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