第4話 亀裂は目に見えない所から
一方、リーフェの家族は彼女の魔法によって無事に舞踏会の会場に到着すると彼らは一度凛々しい佇まいに扮すが、姉である人間が自分を優位の人物だと示すために堂々と歩いた。
その後に、彼女の両親が着いて行った。
そして会場の門番の騎士が彼らを一度止まらせてから「招待状を」とここに入るためのチケットを求めるとそれを取り出したのは父親だった。
「これを」
それを見た騎士が主が認めた物だと確認し彼ら家族を会場の中に通した。
中に入った瞬間彼らの目に入ったのは煌びやかな豪勢なホールになっていて、中にいる人達も姉以上の綺麗なドレスを身に纏っていた。
だが、姉のドレスの方が派手に飾っている。
会場にいる貴族の方達は自分の身の丈にあったドレスをしていて一様に美しかった。
姉のドレスはフリルとリボンを着けていて、結び目にはダイヤモンドを嵌めていた。
これでいくらかしたのか皆目検討もつかない。
「私と妻は挨拶してくるから」と言って二人は貴族の恒例という挨拶周りをしにいった。
一人残った姉は礼儀を守りながら足音を立てずに料理の並んでる机の方に歩きながら周りの声に聞き耳立てていた。
「あれが噂のレアなスキルを持った令嬢らしいぞ」と若い貴族の男性が言う。
「ああいうのはレア持ちなんて何かの間違いなんじゃない」と派手な扇子を口許に当てながら様々な陰口を囁かれていた。
だがそんなこと気にも止めず、テーブルに着き並べられている飲み物に手を出そうとした。
すると、一人の青年が彼女に声をかけた。
「その飲み物は君にはまだ早いんじゃないかな?」
その言葉に伸ばした手はピクッと止めてから声のした方に振り向くと金髪の貴族の青年が立っていた。
それを見た妹は思わず文句を言おうとしたけど彼の見目美しさに言葉を失くしてしまった。
濃い紫を基調としたジャケットに両肩に纏うようにしてある同じ色のマントを羽織っていた。
その片手に彼女から奪ったであろうお酒の入ったグラスを優雅に持っていた。
その瞬間、周りにいた貴族達が彼に対して小さく囁きながら騒ぎ始めた。
彼女はその美しい男性に見惚れながら周りの声に耳を傾けた。
「あのお方が来るなんて珍しいですね」
「何ヵ月か前に彼に関する騒ぎがあってからすっかり来なかったからなぁ」
「でも、その割に彼の名は名誉を失われてませんな」
どの口々も彼を称えるような畏怖するようなものだった。
これを聞いた彼女はさらに胸が高まり心の中でこう呟いてしまった。
(彼の隣に立てれば私も幸せになれるでは?)と。
すると、彼は女性に手を差し伸べた。
「こうして会ったのも縁ですし、自己紹介がてらダンスを誘ってもいいかな?」
紳士的も申し出に姉はまた震えた。
そして彼の手を取り、居住いを正してから貴族の令嬢としてのお辞儀をしてから自己紹介をした。
「私、ルネオラと申します。今日がデビュタントです。以後お見知りおきになりたいと思っています」
「そうですか?ならばこちらも自己紹介をしないといけませんね」と言ってから彼も貴族のマナーとしての挨拶をしてから自分の事を言った。
「僕はヴェローデ。爵位は公爵。そしてスキル持ちでもあります」
その言葉を聞いた途端、ルネオラと名乗った令嬢は目を輝かせた。
「奇遇ですね。私も何ですよ!」
この言葉を聞いて彼は彼女には見えないように鼻で笑った。
「それでは自己紹介も済んだことですし、踊りましょうか?」
すると、その言葉を合図に照明は少しほの暗くなり、そして何処かに魔術師がいるのか淡い光の蛍が出てきてダンススペースの場所を示してくれた。
それから、何処かにいるであろう演奏者がクラシックを奏で始めた。
音楽に引き寄せられ、パートナーと来た貴族達や夫婦で来た貴族もダンススペースに向かった。
もちろんルネオラ達も。
一方ヴェローデはこの状況に対して嬉々としていた。
(本当に平然と行動に移すのだな)
あの後、彼は慌てて執事を呼び出しこのパーティに参加することを伝えた。
執事は大いに喜んでいたけど実際は違う。
これはここにやってきた彼女とのゲームだ。
リーフェに渡された書類は驚くべきものだった。国として許されないものだった。
違法商売、違法奴隷、賄賂。
違法商売は決められたルート以外から納入しそれを元に商売をする。
これを王家に奉納していれば只じゃすまない。
違法奴隷はその名の通り、罪人以外の人間を勝手に攫い反抗されないように厳しい調教を受ける。
そして、ただ快楽を求めがたいが為にその奴隷商に頼むのだ。
そして一番多いのは賄賂だ。
自分の都合の悪いことはお金を使って揉み消すのだ。
リーフェの結果を外に漏れなかったのはこの“賄賂”のせいなのだ。
彼女の両親が教会に多額の金を寄付し、彼女の持つスキルを無きものとし、妹に宿ったとされたのだ。
ここまで自分の家族が腐ってるとリーフェは出ていきたくもなる。
ダンスホールの中心にヴェローデとルネオラが立ち、互いに見つめあってそしてダンスをする構えをとった。
「踊れるのかな?」と最初の曲が始まる前にそう言うとルネオラは少し頬を赤らめ「ごめんなさい、あまり踊ったことなくて…」と申し訳なさそうな言葉を言っているけれど真意はこうだ。
(~~っ!不味い、リーフェを苛めるのに集中してたから教養受けてなかった!)
この様子に彼は心の中で鼻で笑った。
(自業自得だな…まぁ、それだけじゃすまないけどね)
それ以降の予感を感じながら、彼女の最後の遊戯に付き合うことにした。
ほどなくして指揮者が“始めるよ”と譜面台に指揮棒で数回叩いて合図を送ると楽器奏者達はそれぞれ身構えた。
そしてゆっくりとヴァイオリンなどの音が流れ始め、最初に王家、次に国に貢献している位の高い爵位公爵あたりのヴァローデの二人が踊り始める。
それから位の低い爵位の人達が一斉に踊り出す。
ヴェローデはルネオラをある程度リードしながら踊ってみせるけど、そもそも彼女は今流れている曲のリズムさえ捉えていなかった。
その姿はあまりに滑稽だった。
(こうも露骨にミスるとは…)
どんな貴族でも平等に教育は行き届かせるもの。
姉の方が早くも教育をしていたのにも関わらずこちらのルネオラは面倒ぐさがって何一つ身に付けていない。
もちろん爵位を持っている人間がどういう人なのかも。
そんな風に考えているとダンスの一曲目が終わるとヴェローデはそそくさとその手を離した。
その時、ルネオラはそれに気づいて慌てて彼の手を掴んだ。
「待って!このまま」と“最後まで付き合って”と声をかけようとしたとき彼の表情を見て一瞬固まった。
「基本すら出来てないとは…」と冷たく彼は言葉を溢した。
「そ……それは…」と否定しようとしたけど周りにいる貴族達が彼女の姿を見てクスクスと笑い声がした。
男は口許を隠しながら、女性は扇子で口許を隠して。
そして彼女の家族はそんな様子を赤っ恥かかせられ、悔しそうな表情を浮かべていた。
それで父親はここにいられなくなったのかドスドスと荒い足音を鳴らしながら近づいて娘の反対の二の腕辺りを掴んだ。
「帰るぞ」と言うがヴェローデはその瞬間を逃さず彼女の手を軽く払ってから、父親に近づいて耳元に囁いた。
「この程度じゃすまないから」
それは何かを知っているような物言いだった。
その瞬間は彼はすぐに青冷めた。
それから何も反抗できず彼ら家族は逃げるように慌てて去っていた。
だが彼らはまだ知らない。
帰りを送ってくれる人間がすでにいないということを……。
そしてあの家族の騒ぎで周りの貴族はざわざわと騒いでいたが不意に一人の手拍子で一気に静まり返った。
「ひとときの余興を楽しみましたか?パーティーはまだまだ終わりません。最後までお楽しみください」
そう言うと貴族達はわらわらと自分達の興味の方へと散っていった。
すると、声をかけた人がヴェローデに近づいた。
「珍しいね。君がいるなんて…」
「ちょっと用事がありまして」と素っ気なく返す彼にその人は怒りを表せずただ笑みを浮かべていた。
「“人間嫌い”である君が……ね」
“人間嫌い”
その異名は彼のスキルによって基づいている。
彼のスキル“心読み”は幼少の頃、これのせいで自分の家族、親戚筋まで気味悪がれていた。
でも、このスキルのお陰で救われているのもある。
自分の肩書きにしか目がない人間を徹底的に排除することが出来たのだ。
これにより親戚は近づいてこなかったが、家族はこの力を認め次第に愛してくれるようになった。
その上で誰にも負けないよう勉学や戦闘技術を学んだが魔力だけは宿らなかった。
だがそれでも構わない、何にも奪われない存在になった。
そんな完璧な存在になったせいで“人間嫌い”という異名をつけられてしまった。
さらに、彼の隣で声をかけてきてるのはこの国の第一皇子にあたる青年だ。
「面白い令嬢と出会いましてね。顔は見ていませんが」
「それでスキルの方は?」と聞かれて彼は可笑しそうな笑みを浮かべてこう言った。
「使ったけど全くもって僕に興味を示してくれなかったよ。それどころか嫌われている節がある」
そう言われて皇子は高く笑った。
「それでどうした?」
「鬼ごっこに付き合わされることになった」
「鬼ごっこ?」
「理由は君の机の上にある。それを見て判断してくれ」と言ってから彼は目の前にある給仕を呼び止め一つワインを貰おうとした。
それを見た給仕がそれを差し出し、また何処かへと歩いて行ってしまい。そしてヴェローデも貴族の者達の方へ去って行った。
彼の背中を見送った皇子は彼が送ってきたであろう物をどんなものか期待して楽しむことにした。
続く
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