第68話

 





 

 ちくちくと不愉快な感触の藁の上で、ロキは自らの肩を抱いてうずくまっていた。目を開けたのは、何やらころころと音が聞こえたからだ。

 

「イテッ」


 額に何かがあたり、ロキは小さく声を上げて体を起こした。周囲に小石が散らばっている。


「ひゃっ! 起きた!」


 高くて舌足らずな声がする。

 ロキは格子の外に目をむけた。誰もいないかと思ったら、壁の横からこちらを覗き込むように小さな頭がのぞいている。一つではなく二つだ。


「子供?」

「ひゃっ、喋った!」


 怯えているのか面白がっているのか、どちらかわからない口ぶりだ。

 ロキは上着の中で左腕に鱗を纏い、袖口から二枚ほどそれを取り出して、手のひらに乗せ、格子の隙間から差し出してみた。

 すると二つの頭がひょっこりと姿を表した。巨人族の子供だ。顔は幼いのに、体格が人間の子供よりもしっかりとしている。一人は髪が長く、もう一人は耳が出るほどの短髪だ。二人とも可愛い顔をしているが、女の子は生まれないと言っていたので、きっと男の子なのだろう。


「キレー」

「光ってる」


 二人の子供はロキの手のひらにある鱗を興味津々覗き込んでいる。


「あげるよ」


 ロキがそう言うと、二人の子供は目を輝かせ、小さな指を鱗に伸ばした。しかし、それが触れる前にロキはぐっと手のひらを握る。不意に鱗を隠された二人の子供は「あっ」と小さく息を吐いた。


「その代わりに、ここを開けてくれないかな」


 ロキの言葉に、二人の子供は顔を見合わせて瞬いた。


「あなた、オメガでしょ?」


 髪の長い子供が言った。


「大人たちが、オメガは殺すかハラマセルかで、さっき揉めてたよ」


 子供の前でなんて話をしているんだと、ロキは眉を寄せた。


「それは違うよ、俺はオメガじゃない。みんなが勘違いしちゃってるみたいなんだ」


 ロキはできる限り優しい言葉を選び穏やかな調子で言った。


「勘違い?」

「そう、だから助けてくれない? 俺には迎えに行かなきゃ行けない人がいるんだけど、ここに閉じ込められて困ってるんだ」


 二人の子供はまた顔を見合わせた。


「うっそだー」

「うん、うそだねー」


 口を尖らせながら、二人の子供は口々にそう言った。


「嘘ついたら、お掃除穴に落とされちゃうんだよ!」

「ぽいぽいって!」


 簡単には騙せないようだ。

 ロキは唸りながらも拳を開いて、結局子供達に鱗をやった。

 二人は指で鱗を摘みながら、綺麗、薄い、お母さんに見せてあげよう、などと楽しそうに話している。


「なあ、君たちはずっとこの穴の中に住んでるのか? ここがヨトの街なの?」


 ロキはとりあえず何かここから逃げ出すための糸口を探すべく、子供達に問いかけた。


「うん、そうだよ! でも、僕らが生まれる前にはヨトの街は外しかなかったって!」

「冬が厳しくなったから、もうひとつここに街を作ったんだって! ちょっとずつ掘り進めて、いずれは外の街の人もここに移る予定だって!」


 子供達は外にあるヨトの街が崩壊したことを知らないようだ。きっとほとんどをこの穴の中で過ごしているのだろう。





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