第二章 風邪

第5話 この俺がヘルプ

 昼頃の着信。少し嫌な予感はしていた。


「ヘルプ?」


 相手はマネージャーで、内容は眠り屋の同僚のヘルプ要請だ。なんとめんどくさいことか。聞けばヘルプの相手はウチの成績トップだという。俺の成績はアイツに少し及ばず二位だった。だからアイツの存在は少し煩わしく感じているし、誰にも言ったことはないが、常に闘志を燃やしていたりする。

 そりゃ成績もトップで経歴もある奴なら文句はない。しかしアイツは10歳にも満たないほどの子供なのだ。子供が成績トップなのも、それに自分が負けていることに劣等感かを感じずにはいられないまま、結局成績は伸び悩んでいる。


「そう。戦谷くん風邪ひいちゃったんだって」


「じゃあ俺が代わりに行けばいいってことだ」


「代わりじゃなくて付き添い。2人でお仕事してってこと。君の依頼は別の人を依頼済みだから安心してね」


「はあ?」


 言っている意味がわからない。風邪ならそいつが休んで成績のいい俺1人で行けば足りるはずなのに。


「戦谷くんでってVIPのご指名だったから。しかも彼、家ないし」


「成績トップが家ないのかよ」


 眠り屋という職に就く者で家がない奴はたまにいる。どうせ客の家で夜は過ごすのだから、まあいらないっちゃあいらないのかもしれないが。会社の仮眠ルームを使えば寝場所は確保できるとはいえ、俺には考えられない生活だった。


「依頼人は子供だから薬の量気をつけてね。まあ、使うのは戦谷くんだし一応だけど」


「おー」


 適当な返事で電話を切る。マネージャーはまだほかに言いたげだったが、聞けば面倒なことになりそうなので切り上げさせてもらう。さて、ヘルプなんて久々だ。何より、誰かのもとで仕事をすること自体久しい。行先を変更し、俺は逆方向へ歩き出した。

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