火星を貰った八雲くん〜異世界を救った報酬は、火星の所有権でした〜
呑兵衛和尚
第一部・火星の生活と、巨大移民船
第1話・報酬が火星ですか、最高です!!
神界ニルヴァ・カナイ。
果てしなく広がる雲海に浮かぶ巨大な浮遊大陸である神界では、4人の地球人が創造主と話をしている真っ最中である。
彼ら四人は、12年前に創造神により地球から召喚された。
その目的は、創造神の管理する世界ルーカススタットを、侵略国家と呼ばれている存在から護るため。
全ての始まりは、幾つもの並行世界を渡り歩く【侵略国家オーバーウォッチ】の侵攻から始まる。
その国家は魔導と科学の複合技術により繁栄していた。
だが、オーバーウオッチの支配者は自分たちの世界だけでは飽き足らず、幾つもの世界を蹂躙すべく【他創造神の管理する世界】への侵攻を開始。
一方的な蹂躙を行った後、最後にはその【管理世界】をエネルギーとして変換し、吸収してきた。
彼らを召喚した神曰く、ルーカススタットを救わなくては、次は貴方たちの住む【地球の存在する世界】が侵略国家により蹂躙され、そして喰われてしまうという。
その最後の防波堤であるルーカススタットを救う事こそ、貴方たちの使命……という説明を受けたものの、勇者の一人として召喚された
基本的に引っ込み思案で社交性が乏しく、集団の中にいるよりも自分の世界に籠っているほうが好きな彼にとっては、勇者などという選ばれた存在として世界を救ってほしいと言われても困惑するだけであった。
それでも、彼のもつ叡智、勇者の持つ武勇、聖女の持つ慈悲、そして大魔導師の持つ奇跡、この4つの力を駆使することで、どうにか八雲たちはオーバーウオッチの迎撃に成功する。
そして最後は世界全体を結界により包み込み、二度とオーバーウオッチの侵攻に晒されないように対策を行うと、いよいよ地球へと帰還するときがやって来たのである。
幸いなことに、オーバーウオッチは侵攻に失敗した【神の管理する世界】には二度と手出しはせず、次の獲物を求めて移動を開始するという。
とにもかくにも、八雲たちは無事に異世界を救い、彼らが召喚された時間の直後まで帰還することとなったのであるが。
………
……
…
「……では、大賢者ユウキ・カザマツリ。そなたの望むものを授けよう」
異世界から地球に帰るとき。
彼らは、神により褒章が授けられることになった。
異世界で手に入れたアイテムや能力は全て持ち帰ってよい、召喚された時とほぼ同じ時間に帰還する、外見についても元の若い姿に戻してやろうという破格の条件が並べられた。
そして報酬はそれだけでなく、それ以外に何か欲しいものがあるかと問いかけられると。
【勇者】は、生涯かけても使い切ることのない莫大な資産を願った。
【聖女】はもっと多くの人に救いの手を与えるべく、世界のどこにでも自由に行くことができる地位を。
【大魔導師】はさらなる知的探求を深めるべく、何者にも束縛されない権力を望んだ。
それらはすべて、神により『
それを持っていることが『当たり前』のように、世界の認識は書き換えられる。
つまり、彼ら勇者は、異世界から帰って来た時点で安定した人生が約束されているのである。
だが、八雲はそのようなものは望まなかった。
「あの……どこか、ひっそりと生きていきたいので……そうですね、地球以外のどこかに住処をください。こんな力を持っていたらそのうちバレるし、それならどっか……ね」
『……あの、それでいいのですか? あなたは大賢者としてのすべての知識・技術を持ったまま、元の世界に戻れるのですよ? やり方次第では、地球で英雄的存在になることも可能なのですよ?』
「あの、目立ちたくはないので……でも、力は欲しいからこのままで……」
『なるほど、相変わらず、実に面倒くさい性格をしていますねぇ』
神様がそう思うのも理解できる。
でも、神により与えられたものが必然であっても、彼らが身に着けている力は必然ではない。
八雲の心配通り、いつかそれに気が付くものに利用されるだろう。
特に、救いの手を求められたら聖女は神の奇跡を使うに決まっている。
大魔導師だってそう、彼の持つ魔術はそれこそ地球を破壊できるだけの力を持っている。軍事利用でもされたら、世界のバランスは狂ってしまうだろう。
そしてそれらのすべてが使える勇者、彼の存在が一番怖い。
富と権力を手に入れた彼が何をしでかすか、そんなの八雲が考えただけでも身震いしそうになるほどに。
だから、八雲は地球以外に居住する地を望んだ。
そんな権力抗争に、巻き込まれたくないから。
「そうですね。ほら、俺たちが召喚されたタイミングって、月の地下に空洞が発見されたじゃないですか。そこに住居を作っていただければ、あとは何も望みませんよ、勝手にやっていますので」
『あの場所はすでに地球人にも認識されていますから、すぐに調査機器が送り込まれるに決まっています。そうなると、そこにあなたが住んでいるというだけで大騒動になりますが』
「そうか。それじゃあ、月よりもっと遠くて、人の手が届かない場所。それでいて、ちょっと改造するだけで人が住める環境で、でも、僕の魔術で地球と行き来できる場所の惑星をください」
無理は承知で、八雲は神に話してみた。
人類が生存できそうな惑星で、地球から最も近い場所にあるのはどこにあるのか、八雲は興味津々である。
だが、神の言葉は、彼の予測をはるかに上待っていた。
『では、火星を差し上げましょうか。あの星でしたら、人類が移住するためには、まだまだ長い年月が必要です。まあ、火星の所有権は風祭八雲が持つ、これについては地球の一部階級の者たちには神託という形で伝えておきますし、記録も改ざんしておきます』
「ちょ、ちょっと待って、火星って太陽系の? あの星って人が住めないよね? どうするのですか?」
『そうですね……今は、人が住む環境ではありません。ですから、地下にあなた専用の生活空間を構築しましょう。あとはほら、魔術でちょちょいと生活環境を大きく変えるだけですよ。あなたならそれは可能ですよね……地球との行き来は、ちょっと難しいかもゴニョゴニョ』
その説明を受けて、八雲も腕を組んで考えてしまう。
そのためか、最後にゴニョゴニョと話していた部分は聞き逃してしまった。
そして、すでに地球に帰る手筈の整っている仲間たちを、これ以上待たせるのは申し訳ないと八雲は考え、神の申し出を許諾。
無事に、火星は風祭八雲の個人所有物となったのである。
………
……
…
火星。
地球型惑星に分類される地表を酸化鉄の混ざった岩石によって覆われた惑星。
直径は地球の半分程度、自転周期24時間39分、重力は1/3、気圧は地球の1%程度。決して人類が生存するために適した惑星ではない。
――火星・風祭八雲宅
「で、ここが俺の生活空間っていうことか」
八雲は神から火星を授かった居住区を内側から眺めている。
直径300メートル程度のドーム状都市、その中に巨大な倉庫と和風な作りの住居、公園などが綺麗に並べられている。
四方にはドームから外に出るための施設が作られており、緊急時にはその施設に設置されているエアハッチから外に出られるようになっている。
また、公園中央には黒い石板上にカモフラージュされた【エクスマキナ型生命維持機関(通称・モノリス)】が設置されており、ここで発電、水生成、大気生成などが常に行われている。
倉庫についても、神が用意した超空間収納機能が付与されており、大量の食糧が時間停止処置を受けて、腐敗することなく大量に収められている。
そして八雲は、この居住区の中心、モノリスのそびえたつ丘の上から周囲を眺めた。
「ええっと……僕の家は多分あれだよな。うん、大丈夫、ようやく面倒なことに巻き込まれることなく、のんびりと生活することができるよ」
もう、侵略者と戦うこともない。
この力が漏洩して、人々が集まって来ることもない。
ようやく自分だけの、自由な時間が帰って来たと八雲は内心ほくそ笑みつつ、新たな生活の拠点である自宅へと歩いて行った。
これが、彼の『火星でのスローライフ』の第一歩となったのである。
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