第48話 揺らぐ岩壁の罠
ぼくたちは、まだ崖を登っていた。
「まだ、つかないの?」
「もう少しじゃ」
ぼくの声にヒノキが答えた。
「この道、本当にあっているのかしら」
「何を言っておる!妾は最高神なるぞ。道を間違えるはずもなかろう」
イロハ先生の投げかけに答えながらも、ヒノキはキョロキョロとあたりを見回した。
「たしかに、このあたりの風景もずいぶんと変わってしまっていることは間違いない」
「え!」「え!」
「驚くこともなかろう。今や、森は各地で異変が起こっているのじゃ。その影響がこの地まで及んでいてもおかしくはないであろう。昔は、このあたりも草花が多くてな。ここにしか咲かない植物も多くて、それはそれは風光明媚な場所じゃった」
ぼくは、辺りを見回してみた。
でも、みる限り、岩肌しか見えない。
「ヒノキ様。わざわざ崖を登ってきたからかもしれないけれど、ここはとてもじゃないけど景色を楽しむような場所じゃないよ。とにかく、険しい。試練の道だ」
「ユウの言う通りね。全く。草木の一本どころか。ここには、何か生命の気配すらも感じないわ。こんなところに、本当にいるのかしらね、その闇医者っていうのは」
「もうちょっとじゃ。もうちょっとで、横穴が見えるはずなのじゃ。その横穴の先に、シキミの住処に通じる吊り橋があるはずなのじゃ。とにかく横穴じゃ。横穴を探すのじゃ」
ぼくたちは、また登りながら。
横穴を探し始めた。
?
???????
「あった!ヒノキ様、横穴を見つけました!」「あったわ!これが、あなたが言っていた吊り橋へ通じる穴ね!」
「ん?」「え?」
ぼくとイロハ先生は顔を見合わせた。
ぼくたちが指を差した方向はばらばら。
でも、どちらの指の先にも確かに穴ぼこがあいているんだ。
これは・・・一体。
「イロハ!ユウ!何か変じゃ!」
「変?」
「音、音じゃ!」
ゴゴゴゴ…
最初は小さな振動だった。
まるで地下から何かが湧き上がってくるような、かすかな鼓動。
「お、おかしい…」
振動が次第に激しくなると、音もどんどん大きくなる。
ドっ!プシューーーーー!
何が起こったのかわからない。
岩をつかんでいたはずのぼくの手はいつのまにか空をつかんでいた。
あぁあぁぁぁぁあ、や、やばい!
落ちる・・・このままじゃ・・・
ドッドッドッ
頭の中が真っ白になり、心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。
ガシっ!
がくんっ。
突然の空虚感に押しつぶされそうになったその瞬間、足首にぬくもりを感じた。
「イ、イロハ先生・・・?」
「ユウ!!!」
「い、イロハ、先生?」
イロハ先生が、ぼくの足首をとっさにつかみ、寸でのところで落下を避けることができた。
「ユ、ウ・・・」
とはいえ、イロハ先生も重さに耐えかねている。
「大丈夫か!ユウ!今引き上げてやるぞ」
ヒノキ様がかけ降りてきて、なんとか体勢を立て直すことができた。
「さっきの借りは返したぞ!」
と、ヒノキ様。
が。
ブシュウウウウー!
「上!!」
イロハ先生の声に反応し、見上げると。
「み、みず。水!?」
「避けるのよ!」
「しっかりつかまるんじゃ!かたまれぃ」
ヒノキ様が手でぼくの背中を支え、岩肌へ押し付ける。
イロハ先生も同時に、ユウを引き寄せる。
「落ち着いて、ユウ。呼吸を整えなさい。今は焦っても何も変わらないわ」
ぼくは、イロハ先生の言う通り、深呼吸をしながら気持ちを整えた。
「くるぞ!」
ふと噴き出してきた水は、妙に鈍く濁っているように見えた。
星水と比べると、それはとても疲弊したかのように、重く押し寄せてきた。
「この水、なんだか変じゃないか…?」
ぼくたちは、一同、岩に身体を密着させ、吹き出てきた水をやり過ごした。
「なんなの?一体」
さすがのイロハ先生も自体を飲み込めていないようだった。
「イロハ先生、ヒノキ様。これは・・・」
「うむ・・・」
岩肌を見渡してみると、そこには確かに横穴があった。
ただし、無数の。
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