第37話 おむすび
「これが、私めと料理の出会いです。遠い遠い昔のお話です。聴いてくださってありがとうございました」
「ヨ、ヨ、ヨコグラ殿ぉぉぉぉおお!自分は、猛烈に感動してるっす」
「えぇ、いいお話ね。ヨコグラさんは、それからずっとこの森を守ってきたんですね」
「ぼくも、その”おむすび”をつくってみたい。ヨコグラ師匠、よろしくお願いします」
「はい、お任せくださいませ。では、まず手を清めましょう」
ぼくたちは、この部屋にやってきたときに通ってきた、光の沢の中に手を浸した。
「よく星水で手をお清めください。みなさまの手が清められるほど、ご自身のルミナがよく手のひらから食材に伝わっていきます。さあ、こちらをご覧ください。おむすびは、このように三角形のように握っていくのがコツです。やはり、このような山には、神様が住まうと言われております。どんな山にも、神様はおりますゆえ、おむすびもこうして山型にするのです」
「そういえば、西京の都市の真ん中にも大きな山があるなぁ」
「そうですか。トミタ様は山もお好きでしたから、さぞわくわくなさって西京に移られたのでしょう」
んっ!んっ!んっ!
「もう、エノキさんったら、強く握り過ぎじゃない?」
「そうっすか?でも、きっちりギュッとしとかなくては、崩れてしまうっすよ」
「エノキさん、素晴らしいですね。よいと思います。おむすびは、握るだけですが、握るだけにあらず。一人ひとりの生き方やこれまでの経験が入り込んでくるのです。お米同士のルミナとルミナをくっつければ、形も大丈夫です」
「ルミナとルミナをくっつける・・・ヨコグラ師匠、こうでしょうか」
「はい!いい感じですよ。料理は宇宙です。どんなに、私め共が気にしようとも、宇宙の奥深さに比べれば、大した問題ではございません。宇宙の配剤に任せれば、味は自然と導かれるものですよ」
「配剤?配剤ってなんですか?」
「ふふ。いろんなものがほどよいバランスなんです。星も、私たち精霊も、人間も。そして、このおむすびも。無理に、うまくやろうとか、力を入れる必要はないんです・・・」
ドンドンドンっ
ドンドンドンっ
「な、なんの音?」
「さて、お客様でしょうか」
バタンっ!
「なんだか、すごい音がしたけど」
「ちょっと、見に行ってきます。ユウ様方は、このままおむすびづくりをしていてください」
そう言い残して、ヨコグラ師匠は光の粒とともに消えていった。
「何事かしら・・・」
「心配っすね」
しばらくして。
ヨコグラ師匠がまた光とともに現れた。
「ヨコグラ殿ーー!大丈夫っすか?」
「ユウ様!イロハモミジ様!エノキ様!申し訳ありませんが、すぐに来ていただけませんか!!?」
ひどくあわてた様子だった。
ぼくたちは、料理を中断し、ヨコグラノキとともに宿の玄関へと急いだ。
「一体、何があったんですか!」
「とにかく、一緒にお越しください」
玄関に辿り着くと、そこには・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます