第16話 陽光に消えゆく"ヤツら"
春の花々が咲き乱れ、
夏の濃緑が輝き、
秋の紅葉が鮮やかに彩り、
冬の静寂が一面を覆い尽くす。
歩みを進めれば進めるほどに、季節の移り変わりがまるで一瞬で過ぎ去っていった。
もう何度目の春が訪れただろうか。
ゆうに50回は巡ったころ・・・
「季節の巡りにもずいぶんと慣れてきたな。それにしても、西京には、四季というものがない。これまで考えたこともなかった。季節は変わっているはずなのに、寒いとか暑いとかを極端に感じることはない・・・森が特殊なのか。それとも、西京が特殊なのか。四季があるのは、特別なことのように思えるし、当然のことのようにも思ってしまう」
ザワ
ぼくは、歩みを止めた。
突然、空気がざわつき始めたのだ。
春の穏やかな風が急に止まり、代わりに不気味な寒気が忍び寄ってくる。
幾度となく訪れた夏は来ない。
「なんだ」
森の中の温度が急激に変わり、草木が不安そうに揺れ始めた。
緊張が走る。
「これは、一体・・・」
ここまで案内をしてくれた光の道が途切れてしまっている。
一寸先は・・・闇。
危うく、道を踏み外してしまいそうだ。
そういえば、さっき、イロハ先生がぼくに教えてくれたこと。
[もし、順序を誤った場合・・・季節の谷に落ちてしまうかもしれません。落ちたら最後。時空の歪みに挟まれて、二度と戻って来られなくなるかもしれないのです]
「季節の谷・・・なのか。光の道が、寸断されて、季節がこの先へつながっていない」
谷底からは、冷たい風が噴き上げてくる。
落ちたら最後。二度と戻ってこられない。
「時空の歪み。これが、イロハ先生の言っていた季節の谷間なのか。一体、どうすればいい・・・」
ぼくは、目を凝らし、光の道の先端をじっと見つめた。
光の道は、刃物のようなものでスパっと切れたわけではなく、
何者かに引きちぎられたような、ほつれ方をしている。
ワシャ
ワシャワシャ
「うわ!な、なんだよ!これ!!気持ちわるい」
薄暗い影のような、目の前を蠢く小さな存在が、光の道を・・・
「喰らってる・・・?」
足元に群がってきた。
「おい!やめろよ、くるな!あっちへ行け!」
その数、数十。いや、数百。
「おいおいおい、ちょっと待てよ」
闇に見えていたのは、
黒い小さなワシャワシャと動く物体の群れだった。
その数、数百じゃきかない。
1000か、2000か、あるいはそれ以上か。
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
「なんてこった!こいつら、どんどん増えて・・・」
“ヤツら”はまるで意志あるもののように群れで蠢き、触れた光の道を次々と噛みちぎっていく。
ユウの周りにある春の景色は、
一気にどよんとした雰囲気を持ち始めた。
木は枝垂れ、
草はしなびて、
これまで幾度となく味わってきた春の心地よさが、ない。
直感的に理解した。
もしこのまま放置すれば、四季の回廊は完全に崩壊してしまう。
何としても、この場で食い止めなければならない。
「ふざけちらせよ。ここで終わらせてやる!」
でも一体どうやって。
こうしている間にも、”ヤツら”は光の道を喰らっていく。
ひかり。
光か!
そうだ、”ヤツら”はどうやら光に集まっていく習性があるっていうことか!
ユウはあたりを見回した。
「そこだっ!」
光。陽の光が木の枝葉で遮られている。
クっ!またかよ。
またもやぼくは、大罪を犯さなきゃなんねぇっていうのかよ。
「あぁ、もう、どうにでもなれだ」
ユウは、その枝葉に手をかけた。
「ふざけちらせぇぇぇぇぇぇえええ!」
そして、渾身の力をこめて手折った。
ふんぬぬぬぬぬぬぬぬ
ボキっ!
瞬間、陽の光が差し込んできた。
パアアァァァァァァ
黒いヤツらは、より強い陽の光に群がっていった。
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ
陽の光を喰らう。
喰らっていく。
しかし、あまりにも陽の光は強い。
陽の光を喰らいきれなかった”ヤツら”は、黒い煙を上げて消滅していった。
シュウウウゥゥゥゥ
「はは、ザックスパスタ100辛って感じだな。陽の光が強すぎて、ヤツらも食べられなかったってわけだ」
昔、アミが、
「わたし、今日はイケそうな気がする!ザックスパスタ20辛で!」
って、注文してきたパスタをいつもより辛めに味付けをしたことがあったけな。
「ユウ、な・・・ん・・と・・・か、食べたよ。バタっ」
はは、そのあとアミ倒れちゃって大変だったんだよなぁ。
っていうか、今日はもう2度目か。
ピンチのときに、アミの顔が浮かぶ。
あっ。
ヤツらに喰われて、ほつれた光の道が陽の光を受けて再生していく。
季節の源は、陽の光ってわけか。
春の柔らかな風が再び吹き、夏の濃緑が鮮やかに輝き、秋の紅葉が色を取り戻し、冬の静寂が優しく包み込む。
季節は再びその正しい巡りを取り戻し、森は安堵の息をついた。
「やった・・・季節が戻った」
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