こだまこまちと杜人ユウ

こだまこまちproject

プロローグ

「料理ほど退屈な仕事はない」


これが、ぼくの口癖だ。


この世界の食材は、たった一種類しかない。


その名も「ザックス」。


完全栄養食品ってやつだ。


「栄養マックス!元気マックス!どんな疲れも吹っ飛ばす!あなたの健康は毎日の『ザックス』!」


このCMを聞いたことがない人は、この街にはいないだろう。


むしろ、耳にタコができるほど聞かされている。


寝言で「ザックス~」って言う人もいるらしい。


ちなみに、ぼくは、言ったことはない。断じて。


「ザックス」は、一見するとただの粉だけど、使い方は無限大だ。


水に溶かせばジュース、温めればスープになる。


一晩寝かせれば、ある程度まとまる。


こねて焼けば、ザックスパン。手で持って食べられるってのが便利。



なんだけどさ。



昔、片手にザックスパンを持ちながら、もう片方の手でゲームしてたら

めちゃめちゃ怒られたことがあって。


それからというもの、ぼくは、行儀にはちょっとうるさくなった。



そうそう、ザックスの話だった。


ザックスの生地は、細く切れば、麺状にもなる。


茹でて食べると...まあまあいける。


これは、うちの看板メニューになってる。


ザックスパスタって言うんだ。


「ザックス」には、人が生きていくのに必要な栄養が全部入っていて、腹持ちも悪くはない。


でも、正直「おいしい」か?と言われたら、

ぼくは微妙だと思う。


というか、「おいしい」「おいしくない」は、

比べてはじめて感じるものだと思う。


生まれてこのかた「ザックス」しか食べたことのないぼくが、

なんで「おいしい」を知っているんだ?


おいしい...


おいしい...記憶...



そうだ!


4歳の頃、おじいちゃんがくれた真っ赤な「もりのおやつ」。



・・・・・・


「ユウ、これが森のおやつじゃ。食べてごらん。おいしいぞ」


「お・・・い・し・・い?」


「そうじゃ。りんごという果物じゃ。甘いぞ。きっと気に入る」


シャリシャリ。


「うわっ!なにこれっ!初めての感じ!」


「はっはっは!気に入ったか。それが『おいしい』ってことじゃな」


「お、お・・い・・・しい?おいしいよ!おじいちゃん」


・・・・・・


あれが、「おいしい」を知った、最初の瞬間だった。


そうだ!


ぼくは、ザックス以外のものを食べたこと、あったんだ!!


この世界のどこかに「森」という場所があって、「ザックス」以外の食べ物がたくさんあるんだって、おじいちゃんが言ってたな。


すっかり忘れてたや。


「そうか、森か・・・いつか行ってみたいなぁ」


そんなことを考えながら、今日もぼくは厨房に立つ。


たった一種類の食材を、スープにするか、ジュースにするか、焼くか、麺にするか。


これがぼくの仕事。


だから、「料理ほど退屈な仕事はない」。


そう、あの日までは–––。

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