第48話
一夜明け、王都に帰って来た翌日。
とりあえず、国王陛下にご挨拶をと思ってナナセに頼んで王宮に確認を取りに行ってもらった。
学園都市にサロメの替わりとして連れて行くからと用意して、結局ベッドの上でしか使わなかったメイド服を着せて。
国王ともなると、スケジュールは分刻みで管理されている。
「行ってもいいかな!?」「いいとも~!」なんて気軽には、会うことなどできない。
「はずだったんだけどなぁ……。」
「それだけおぬしの事を重大な問題と捉えておるんじゃろ。」
帰って来たナナセが持たされた手紙には、要約すると「今日の昼飯一緒に食おうぜ」と書かれていた。
もちろん、正式な王家の刻印付きで。
姫様も確認したから間違いない。
「一応礼服の準備はしてあるけど、心の準備は全くできてない。助けて。」
「頑張ってくださいね。私たち妊婦組は、貴方の無事をお祈りしております。」
一晩難しい話の代わりに愛を囁いて機嫌が直ったイレーヌだけど、明らかに面倒な事になりそうな食事会から俺を守ってはくれない。
愛の鞭だな。好き
一緒に愛を囁いたサロメは、朝から顔を真っ赤にして一言もしゃべらず俺にくっついている。
好き。
「となると、城に出向くのは、俺と姫様と護衛としてナナセかなぁ。3号は武装って判断されたら持ち込めないかもだし……。」
「私も行きたいですわ!」
「城を壊したがるドラゴン娘は連れていけねーよ!」
出来れば、クソ王子がいる城にいくなら、こちらの戦力オールスターで乗り込みたいところだけど、家族を守る備えも必要だしなぁ。
「……主様、ちょっといい?」
「ん?どうしたガラテア?」
最近ずっと引きこもってプラモ作りをしていたらしいガラテアが、珍しく自分から話しかけてくる。
こっちから話しかけても、うんかはいか血をくださいしか言わないから、話し方忘れたのかと思ってたわ。
「……ここしばらく、変な気配を王都の中に感じる。主様は、アフロディーテ様の使徒だし、大して問題は無いと思うけれど、もし何か違和感があったら気を付けて。精神攻撃とか、そういうのだと自分が気がつかないうちに操られてるかもだから。私も結界で防いではいるけど、神の使徒とか、それに準ずる力を持った奴の能力だと、それに引っ掛からずに効果がでるのもあるかもしれない。」
「よくわからんけど、ガラテアが言うならそれに従うよ。俺よりよっぽど術関連は詳しいだろうし。というか俺は、まったくの素人だし……。」
神人形師のスキル以外使えないもんね。
「……あと、アフロディーテ様が最近拗ねてる気がする。今度、時間がある時にでも私と2人きりになってくれれば、顕現なさりたいみたい。」
「女神って拗ねるのか。」
「……拗ねる。すごく長生きしてるけど、基本は女の子だから。」
「子……。」
ダロスは、女子会を応援しております。
そしてお昼、我々は王宮の奥地で骨付き肉にかぶり着く国王陛下を見た!
(なぁ姫様、王族はこういう食べ方がマナーなの?俺、この世界の食事マナーは、平民より貧しい食生活知識ばっかりでよくわからんのだけど。)
(妾は、おぬしの家で食事を出されるまで手で食べるという事をしたことなど無かったのう……。)
イメージしてた王様とは、大分違った人物のようだ。
「おう!よく来たなダロス!娘が世話になっているようだな!」
「は!陛下に置かれましては本日もご健」
「よいよい!普通に話せ!堅苦しいのを抜きにして話すために態々食事の場に呼んだのだ!」
「……はぁ。」
まずいな。
完全に飲まれてる気がする。
初動のインパクトは、相手の圧勝といった所か。
ここからマウント勝負で巻き返すには、自分の首でも飛ばすしかないか?
「まず、メーティスよりイリア姫殿下を護衛し、帰還したことのご報告を。」
「報告は聞いておる。イリアよ、何故、この時期に学園を卒業したのだ?」
国王が、真面目な顔で姫様に語り掛ける。
でもさ、立派なおひげがお肉の油でデロデロよ?
「権力争いから辞退するためです父上。」
「ふむ、本腰を入れて王位を狙いに来たというのではなく、辞退とな?」
「はい。私は、王位になど興味がございません。その上で、そのような面倒事を解決する方法をこのダロスと考えました。」
「ほう?」
姫様って、国王陛下相手だと普通の喋り方なんだ?
普段の喋り方ってキャラ付けなの?
「ここからは、私が。」
「良い、述べてみよ。」
「お義父さん、娘さんを俺に下さい!」
「良いぞ!」
……え?
「いいんですか?」
「うむ!いつも詰まんなそうな顔をしていたイリアが、これほど喜怒哀楽を表すようになったのもダロスのおかげだと聞いておる!今もこれ程女の顔になっているのだ!これを辞めさせればワシがイリアから恨まれてしまうではないか!息子たちに嫌われるのは構わんが、イリアに嫌われるのだけはワシ我慢できん!」
「姫様って、いつも詰まんなそうな顔してたんだ?」
「いや、妾友達おらんしな……。」
ついにボッチだったって認めちゃったよ……。
まあこれからは、ボッチにしないけどさ。
「ただし条件がある!」
「はい、何でしょうか?」
まあ、国家に絶対服従とか、戦力の提供とか、そんな感じだろう。
どういう方向に交渉した物か……。
「披露宴は、王都で盛大にやるのだ!」
「え?はい。」
「ワシ、あの空を飛ぶという乗り物で登場するのが良いと思うのだが?」
「あれって結構風起きるから、会場がめちゃくちゃになるかもなんですよねぇ……。」
「むぅ……難しいのう。」
なんか、大丈夫だった。
結局、昼間から宴会みたいな感じで国王陛下とくっちゃべって、2時間ほどで退席。
「久しぶりに旨い飯と酒だったわ!」とワイン瓶片手に大喜びだったけど、ストレス溜まってるってやつなのかな?
子供の名前案をいっぱい出されたり、メーティスで姫様がどう過ごしていたかの話なんかを聞かれた。
一番食いつかれたのは、俺と姫様が既にヤったのかという事だったけど、それだけは俺の嫁たちに誓ってまだだと言っておいた。
「全く想像と違うお義父さんだったな。」
「妾からしてもそうじゃったなぁ。多分じゃが、よっぽど他に嫌な事が山積みだったんじゃろ。普段は、普通に上品に食事をしとったし。まあ、たまにしか食事を共にすることも無かったんじゃが……。」
クーデターとか、権力争いとか、他国からの侵略とか、大変だっただろうからなぁ。
全部に関わってる俺も大変だったもん。
「とりあえずこれで姫様は、俺の正式な婚約者ってことでいいのかな?」
「そうじゃのう。後はまぁ、妻同士の序列の調整とか、その辺りは必要かもしれんが、あくまで対外的なものじゃろうし。」
「あーそうか。流石にお姫様を第3夫人とかは不味いのか。」
「そもそも、ダロスとしては、一番最初に女として見たのはサロメなんじゃろ?妾もイレーヌも、それを分かった上でおぬしの妻になりたいと言っとるんじゃ。気にせんで良い。」
「いや、まあ……こっちの世界に来て一番心細い時に2人で過ごしたからさ……。」
「妾、他人の恋の話も嫌いじゃないんじゃが、今度じっくり聞かせてもらえんかのう?」
「緊張が解けたからって早速ニヤニヤしだしたなアンタ。」
正直、俺も姫様も結構緊張していた。
色々交渉の手段も用意して臨んでもいた。
意外とすんなり解決してビックリもしているけれど、それよりなによりホッとしているんだろう。
そのせいか、腕を組んでくる姫様。
「婚約者なんじゃし、このくらい良いじゃろ?」
「いいよ?顔真っ赤にしながらも俺相手に優位に立とうとする所も可愛くていいし。」
「……おぬしだってそこそこ赤いじゃろ。」
そりゃおめぇ、人前で腕組んでイチャイチャするのは流石に恥ずかしいだろうよ。
「お話の途中申し訳ないっスけど、お客さんみたいっスよ?」
「え?……うわぁ。」
今までメイドらしく陰に徹していてくれたナナセが教えてくれた通り、昨日の嫌な顔が近づいてきた。
でもなんかその顔が痣だらけだけど、何かあったか?
「これはこれはマジノ男爵。こんな所で会うなんて奇遇ですね。」
「……ごきげんよう、ピュグマリオン男爵。今日は、改めて貴殿をアクタイ王子殿下との食事会に誘いに来たのだ。」
「今、陛下といいだけ食べて飲んできたんですけど……。」
「どうせ、出されたものを食べるつもりも無かろう?殿下も気になさらん。ご本人も他派閥との食事会では一切何も摂らないそうだからな。」
「はぁ、そうですか。」
いやだなぁ……。
面倒だなぁ……。
でも、姫様が正式に俺と結婚して、王家から出ていくって言ったら関わらないでくれるかなぁ?
「どうする姫様?」
「昨日ダロスが言った通り、立ち話で終わらせてくれると楽でいいんじゃがのう……。」
「そういえば、立ち食いそばとか立ち飲み居酒屋ってのがあってさぁ。」
「現実逃避は、今はやめておいた方が良いのう。」
案外真面目だよね姫様。
「ところで、マジノ男爵のその顔はどうかしたんですか?」
「……なんでもない。転んだだけだ。」
DV夫を持つ嫁みたいな事言ってんな。
あ、でもDV被害って割と夫の方も多いらしいよ。
女にDVされてるって事実が恥ずかしいから内緒にするせいで発覚し辛いだけで。
姫様が王家を出ていくことを宣言しに、しぶしぶ第1王子に会いに行ってやると、そこはかなり大きい部屋だった。
軍事の会議が行われる部屋だとか。
食事会だっていうんだから、せめて食事に相応しい場所にしろよ。
しかも、可愛い女の子がお酌してくれるような食う気じゃなくて、ムッキムキで目つきの鋭いおっさんたちがずらっと席に並ぶ円卓。
まさか、このテーブルの上に料理を乗せて、中華料理屋よろしく回しながら仲良く料理とって食べるというわけでもないんだろう?
「貴様がダロス・ピュグマリオンか。」
「そうですけど、アンタは?」
「……ふざけた奴だ。この国の王子の顔も知らないのか?」
「知りませんね。この前まで引きこもりだったので。」
ダロス君の記憶にすらコイツの顔はねーな。
「俺がアクタイ・オリュンポス!この国の次の王になる男だ!」
第1王子は、上半身裸の上に皮のジャケットを羽織ってる変なマッチョマンでした。
端的に言って、関わりたくない見た目。
「自己紹介が終わったようなので、もう帰ってもいいですか?」
「この俺に対してその舐めた態度……良いぞ!気に入った!」
なんだ?見た目のわりにMなのか?
「ダロス!俺の下につけ!」
「嫌ですけど……。」
何言いだすんだコイツ。
マジでこのまま帰ってやろうか。
「まあ待て。お前の戦闘力は、ここ数か月集めた情報だけでも十分に規格外と呼べるものだ。俺の下につけば、この国で好きなように振舞えるようになるぞ?金も女も好きなだけ手に入れられる!」
「金はありますし、この国で最も美しいと評判の女性と婚約したばかりですので。」
隣に立つ姫様の肩を抱く。
姫様がビクっとして顔を赤くするけど、ここは多少強引に行こう。
ちょっと、席に着いて威嚇してきている若い奴らの何人かの目が鋭くなった気がする。
羨ましいだろう?
「まあ、一筋縄では行かないと思っていた。だがなぁ、本当にそれでいいのか?」
ニタァと笑う第1王子。
悪人面が更に悪人面になって、上半身裸と相まってキモイ。
せめて乳首を隠せ。
「どういう意味ですか?」
「こうなるかもしれないと予測してなぁ、お前の家に刺客を」
人形生成。
人形強化。
人形操作。
直後、この無駄にデカい部屋の中は、阿鼻叫喚の世界となった。
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