16歳-6 新シーズン

今シーズンの試合が始まって2か月が経った。

ラバリアの戦績は7戦全勝、破竹の勢いで勝ち続けている。

連日の勝利にパルマの街は大盛り上がりで、毎試合チケットが即完売しているようだ。


噂では、チケットが取れなかった人は映画館で実施されているパブリックビューイングに押しかけているらしい。

ワールドカップかよ、と思わずツッコミを入れたくなるほどの盛り上がりだ。

放映権を買ったテレビ局と地元のバーが手を組んで運営してるらしいが、そんなことが可能なのかね?

まぁ、なんにせよ凄い熱量である。

これだけ熱烈なファンがいるというのは嬉しいね。



さて、このラバリアの快進撃。

要因としては、ルーカスが復帰したことに加えてパブロとエンソの活躍がある。

パブロは控えのPG、エンソはCとして、どちらも20歳そこそこのルーキーとは思えないほどの素晴らしい動きを見せてくれている。


流石にルーカスや俺、アントニオの完全な代わりが務まるわけではないが、彼らが出るときは俺たち旧BIG5の面子が休むことが出来るからな。

怪我もしにくくなるし、体力をセーブすることで後半も高強度なプレイが出来る。

さらに加えて、ベンチで作戦の練り直しもできてしまう。

まさにいいことづくめだ。

控え選手がいるのがこんなに素晴らしいとはな。


旧BIG5の面子のスタッツを見ても、昨シーズンより明らかに成績が良くなっている。

アントニオの3P成功率は60 %を超えているし、ルーカスも一試合平均10リバウンドを記録している。

俺もこの7試合の平均スタッツとして、32.2得点、5.1リバウンド、13.3アシストを記録した。

ラバリアは最高のチームになったと言っていいだろう。


とは言え、実はリーグの首位はラバリアではなくレアロだ。

今の順位表はこんな感じだ。


1位 レアロ  8勝0敗

2位 ラバリア 7勝0敗

3位 バロサ  6勝1敗


上位三チームがほぼ負けなしの団子状態という、あまり見たことがない結果になっている。

こんなことになった理由としては、レアロとバロサが行った大型補強にあるだろう。


まずレアロだが、その絶大な人気と豊富な資金力をバックにNBA選手2人をチームに迎え入れた。

2人の年棒は合わせて1500万ユーロに達するという。


まさに金に物を言わせた補強。

流石は昨シーズンのチャンピオンである。

引退が近づいた往年の選手とは言え、NBAから補強するのはズルい。ズル過ぎる。


そして、バロサも大きな補強をしている。

バロサは昨シーズン準優勝に終わってしまったこともあり、今年こそはチャンピオンをという思いがあるようだ。

NBAから1人、フランスのリーグからトップ選手を2人獲得している。

この3人は全員身長2mを超える大型の選手で、これによりバロサのスタメンの平均身長は2mを超えたらしい。

・・・いや、パクリでは?

完全に俺たちラバリアのBIG5システムの後追いをしている気がする。




さて、そんなバロサが本日の対戦相手である。

チーム作りを真似されたのが気に食わなかったのか、セバスチャン監督がいつになくやる気になっている。


たしかに、後追いのチームに負けるわけにはいかねぇよな。

俺も気合を入れて、バロサに快勝してやりますか!





【ディエゴ(レアロ監督)視点】


私はラバリアとバロサの試合を偵察するため、アリーナに足を運んでいた。

我々と並んでリーグのトップを走っている2チームの衝突、見逃せない試合になりそうだ。


今日は監督として、次の対戦相手であるラバリアの戦術や選手の動きを細かく分析するつもりだ。

相談相手としてエースガードであるジェイコフも連れてきている。

レアロの司令塔として、彼にもラバリアのガード陣の動きや攻めのパターンを学び取ってほしいところだ。


私は静かにアリーナの一角に座り、ノートパソコンを広げた。

隣にはジェイコフがリラックスした様子で座っている。


「アリーナ全席埋まってますね。それにホームコートとは言え、ラバリアの赤いユニフォームばっかりだ」


ジェイコフが周りを見渡しながら、そんな感想を漏らした。


「ラバリアも人気チームになったからな。来週には我々もこのコートで戦うことになる。今のうちに雰囲気に慣れておけよ」


私は観光気分でいるジェイコフにそう釘を刺すと、手元のノートパソコンに目を落とした。

モニタには今シーズンのラバリアのスタッツが表示されていた。

彼らは開幕からの7戦、全ての試合で30点以上の大差をつけて勝利している。

ところどころルーキーや控えの選手を入れて尚、この結果だ。

昨シーズンのプレイオフでも手を焼いたが、今年もラバリアが一番の強敵だと言えるだろう。


「両チームともデカいっすね~。ラバリアの大きさは昨シーズンで見慣れたけど、バロサも真似したみたいっすね。」


ジェイコフの言葉に反応してコートに目を戻すと、両チームが試合前の練習を始めていた。

コートでは赤いユニフォームを着た7人の巨人と、白のユニフォームを着た5人の巨人が動き回っていた。

セバスチャンのBIG7システムは有名だが、まさかバロサもマネをするとはな。

そうそう上手くいくとは思えんが…


「ま、バロサの新システムがラバリアに通用するのか、期待しながら見させてもらおう。ラバリアのシステム、特にPGのダイ・シノノメにはアンサーが無い状態だからな。バロサが対抗できるようなら、うちもビッグマン獲得に動いた方がいいかもしれん」


私はNBAやユーロリーグで活躍するビッグマン達を頭に思い描きながら、ジェイコフに返事をした。


そうこうしているうちに、ライトアップと選手紹介が始まった。

まもなく試合がスタートするようだ。


ラバリアのスタメンは旧BIG5の面子だ。

対するバロサもスタメンに巨人を揃えている。

特筆すべきは昨シーズンまでNBAで活躍していた、サウザーだろう。215cmでPFを務めるビッグマンだが、その巨体に似合わない俊敏な動きで注目を集めていた。

恐らく、この試合ではオフェンスではPFをやりつつ、ディフェンスではダイを守ることになるだろう。

スピードと高さの両方を有する彼なら、ダイへのアンサーになるかもしれない。



試合が始まった。

最初のジャンプボールをルーカスが上手くはじき、PGであるダイがボールを持った。

早速、ダイとサウザーの対決が見られそうだ。


ダイが3Pラインの1-2mほど後ろの位置でドリブルをしながら、全体に指示を出している。

対するサウザーは腰を落としてドライブを警戒しながら、少し距離を取ってディフェンスしているが・・・あ!いきなり3Pを打った。

ダイの放ったボールはくるくると綺麗な回転を見せながら、リングへと吸い込まれていった。


「うわー!あれが入っちゃうの?・・・あの位置でも距離詰めてディフェンスしなきゃダメってことかよ」


隣にいるジェイコフが頭を抱えながら、そんな感想を漏らした。

正直、私も頭を抱えたいくらいだ。


「ラバリアのダイとアントニオは3Pラインから離れた位置でも精度よく決めてくるからな。ハードなディフェンスが必要だ」


ジェイコフに厳しい注文をつけながらコートに目を戻すと、バロサのオフェンスが始まっていた。

しかし、ペイントエリア周辺で巨人たちがひしめき合っていて、上手く動けていないな。

PGのデュークを除いた4人がインサイド主体のプレイヤーだから、オフェンスの組み立てが難しそうだ…



結局良いパスコースが見当たらなかったのか、デュークが強引なドライブからフェイダウェイシュートを放った。

これがエアボールになり、バロサの攻撃が終わった。


「なんか・・バロサのオフェンスはあんまりっすね。全体的に動きが重いというか」


「ほとんどの選手がインサイドを得意とする選手だから、ペイントエリアが渋滞していたな。デュークがもう少し後ろの位置でゲームメイクすれば…いや、そうするとダイが離れて守るだけだな。デュークが深い位置で3Pを打てれば別だが」


そんな分析をしていると、ラバリアのオフェンスが始まった。

今度はサウザーがダイに接近してハードなディフェンスを見せているが・・・簡単にドライブで抜かれている。

SGの選手がヘルプに行ったが、空いたアントニオにダイのパスが向かう。

アントニオが構えた手元にちょうど収まる、緻密なパスだ。

これを当然のようにアントニオがシュートを決めて、0-6になる。


「サウザーはPFとしては素早いように見えたっすけど、やっぱダイに比べると遅いですね。出だしの一歩で簡単に抜かれてましたよ」


「サウザーでも止められないとなると、素早いビッグマンはダイのアンサーにはならないな‥」


ラバリアと対戦する上での一番の課題。

ダイをどう止めるかという難問に、二人して頭を抱えてしまった。


その後もラバリアが一方的に試合を支配する展開が続き、1Qは13-31で終わる。

ラバリアのオフェンスはダイを中心に展開され、彼の高さと視野の広さを活かしたパスが光っていた。

また、インサイドではルーカスが暴れており、1Qだけで6リバウンド2ブロックと大活躍だ。

アントニオも絶好調で4本の3Pシュートを全て決めている。


「インサイドとアウトサイド、共に仕上がっているな。起点となるダイを止めたいが、どうすればいいのか…」


「難しい問題っすね~。いっそ他4人のディフェンスを頑張って、ボールが回らないようにしますか?」


「それは一つの手だが、そうなるとダイがヤケクソ気味にドライブを仕掛けて、点が入ってしまうからな…」


実際、この1Qにもその展開でダイは2本のダンクシュートを決めている。

そもそも、ラバリアはスクリーンが上手いから他4人のディフェンスをするのも大変なのに、良いディフェンスをした上であんなに簡単に点を取られると心が折れてしまいそうだ。


2Qに入ってもラバリアの勢いは止まらなかった。

ルーカスのポストプレイやアントニオの3Pが決まり続けている。


「今日はアントニオもルーカスも調子いいっすね。あの二人は波があるから、シュートが入らないときは入らないんだけど」


「そうだな。来週は二人が絶不調なことを祈るか…とはいえダイは波が無く安定してるから、彼をどうにかしない事には勝てないんだが」


実際、アントニオが不調だった先週の試合では、ダイが積極的にアウトサイドで点を取っていた。

平均したシュート成功率はアントニオの方が良いのだが、ダイは安定感が凄すぎる・・・

普通は体調の良し悪しがあるから崩れる日もあるはずなんだが、どうなっているんだ?

怪我も全然しないし、彼の体には神様が宿ってるとでもいうのかね。


「お、交代のエンソとパブロが出てきましたね。ルーカスと・・PFのフランクがベンチに下がりました。てっきりダイが下がると思ったっすけど、PGは誰がやるんでしょう?」


ジェイコフの言う通り、不可解な交代だな。

パブロとダイのダブルガードでいくのだろうか?

もう22-53と30点以上の点差がついているから、新たな戦術を試す場として使うつもりなのかもしれない。

ルーカスやフランクとは違ってダイはフルで試合に出てもあまり強度が落ちないし、控えを出しつつ最大火力を維持する方法を色々と探っているのだろう。


ラバリアのオフェンスで試合が再開された。

PGはパブロが務めており、ダイはインサイドに入った。


「なるほど、ダイがセンターをやるみたいっすね。うわー、215cmのサウザーの上から簡単にダンク決めてる…」


「彼はもともとインサイドプレイヤーだからな。こんなシステムもあるのか」


スタメンのシステムもえげつない火力だったが、ダイがセンターに居るパターンも相当強いな。


彼はインサイドプレイが上手いのはもちろんだが、視野が広くパスも出せるからな。

フリーになったアントニオやパブロの手元に高精度なパスが供給され、3Pシュートが量産されている。

2Qはこのままのシステムで試合が進み、28-65で前半が終了した。


「ラバリアの強さは分かってましたけど、この点差は凄いっすね。もちろん、今日はアントニオとルーカスのシュートが好調なのが大きいとは思いますが」


「そうだな…前半の分析をするか」


私はノートを開き、前半のラバリアのオフェンスシステムを分析していった。


旧BIG5のメンバーでは、比較的シンプルな戦術が使われている。

ダイとアントニオが3Pを狙いつつ、中の3人がスクリーンを掛け合ってポストプレイで点を取っていくやり方だ。

シンプルな作戦とは言え、ダイとアントニオが離れた位置にいるので3人の巨人が広いスペースを使って好き放題暴れていて、ディフェンスするのは相当難しそうだ。


控えのエンソやパブロが出てくると、システムがガラッと変わってダイがインサイドプレイをしていた。

こちらも、インサイドのダイにボールが入るともう手の打ちようがない。

ポストプレイでイージーなダンクを決められるか、ヘルプディフェンスの穴を突かれて外にパスが出て3Pを決められるかの二択だ。

パスが入らないようにしたいが、起点のパブロはハンドリングも上手いし、3Pも打てる。

たまにダイがピック&ロールを仕掛けに行くから、パブロだけを見てプレッシャーをかけるわけにもいかないし。

難しいな…




後半になっても終始ラバリアのペースで試合が進んだ。

攻略の糸口が見えないまま、試合が終わってしまいそうだ…


「ジェイコフ、何かダイを止めるいいアイデアは無いか?」


「・・・トラッシュトークでもしてみますか?<この木偶の坊め、家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろ>みたいな」


「彼はスペイン語が得意ではないらしいし、スラングは聞き取れないだろう・・・綺麗なスペイン語じゃないと無視されそうだ」


「じゃあ、<そちらの背の非常に高い方、自宅へ帰られてお母様の乳房を吸入されてはいかがでしょうか?>とか」


「それトラッシュトークか?笑ってしまうだけだと思うが」


そんな現実逃避気味な会話をしていると、試合終了まで残り3分になってしまった。


しかしそのとき、少しだけ希望の光が見えた。

ダイの3Pシュートがエアボールになったのである。


「かなり深い位置からの3Pとは言え、ダイがエアボールになるのは珍しいっすね」


「疲労が蓄積されると、シュート効率が落ちるのかもしれん。これは狙い目だな」


その後もダイは1本の3Pシュートを放ったが、リングに弾かれて決まらなかった。

とは言え、ミドルシュートは全て決めていたし、パスミスやスティールからのターンオーバーは全くなかったので勘弁して欲しいところではあるのだが、前半に比べるとまだディフェンスできそうな気がする。


試合が終わり、私とジェイコフはアリーナを後にした。

アリーナはラバリアが59-123という圧倒的な勝利を収めたことでお祭り騒ぎになっていたが、私は既に次の戦略を練っていた。


「ラバリアの中心は間違いなくダイだ。前半で彼をいかに消耗させるかが鍵になる。ジェイコフ、お前のディフェンスが重要だぞ」


そう言ってジェイコフを見ると、彼は不敵な笑みを浮かべながら

「任せてください、コーチ。次の試合ではダイを封じてみせます」

と、力強い返事を返してくれた。


来週ラバリアに勝つことが出来れば、我がレアロはリーガABCで敵なしの状態になる。

そのままスペインのチャンピオンになって、今年こそはユーロリーグの覇者になるのだ。


私はそんな決意を胸に、ラバリアに勝つための戦術を頭の中で組み立てていった。

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