15歳-6 プレイオフ
ラバリアでプレイし始めて4カ月が経った。
この4カ月間はまるで嵐のように過ぎていったが、俺がPGにポジションチェンジして以降、破竹の勢いで11連勝し、結果的に全体8位でプレイオフに進出することができた。
設立以来初の快挙に、ラバリアの街は大盛り上がりだ。
プレイオフ進出が決まった夜には、街全体が祝福ムードに包まれていた。
そのおかげか、俺も街で声をかけられることが多くなった。
ファンは老若男女問わずいるが、特に子供人気が高いな。年齢が近いから話しかけやすいのかもしれん。
写真や肩車をお願いされたら、笑顔で了承している。プロとして、ファンサは大事だ。
まぁ、前世でこんな人気者になったことが無かったので、純粋に楽しいのもあるが。
あと、イケメンである事も人気を後押ししている気がする。
スペインでは日本と違い、超高身長でも普通にモテるらしく、ティーンの女の子達からファンレターやラブレターが結構な量届いている。
今は恋愛する余裕などないので、『応援ありがとう』と言う感じで返しているが。。
というか、精神年齢的には独身のアラサーおねぇさんからの連絡来てほしいのだが、そちらは全く来ない。
法律的にアウトだからしかたないか…時が熟すのを待とう。
最近では、スポンサーやCMのオファーも来ているらしい。
てっきりチームスタッフが対応してくれるものだと思っていたが、代理人を雇う必要があるらしい。
まだ人を雇う余裕はないので、一先ずルーカスの代理人に兼務という形で入ってもらった。
ルーカス様様である。
さて、そんな私生活全般から試合中までフォローしてくれているルーカスに不幸なニュースがあった。
右足首を怪我したのだ。
正確にいうと、古傷があって騙し騙しやっていたところが、先日限界を迎えたらしい…。
こういった怪我は、一戦くらいならテーピングをがちがちにまけば何とかなる。(いいからテーピングだ!)
だが、プレイオフトーナメントでは最低でも4試合戦う必要がある…流石にそこまで無理はできない。
という訳で、来週からのプレイオフをルーカス抜きで戦わなければならなくなった。
しかも、相手はリーグトップのレアロである。率直に言って厳しすぎる。
しかし、そんな俺たちにとっていいニュースもある。アルフレードが復帰したのだ。
PGが戻ってきたので、俺がセンターに入ればいいわけだ。
つまり、俺が加入する前のシステムに戻る。
『…それは大丈夫なのか?』
不安を吐露していたちょうどその時、電話が鳴った。
ディスプレイには『ルーカス』の文字が表示されていた。
ルーカスの要件は例によって練習の誘いだった。
とは言ってもルーカスは練習できないので、彼は俺のシューティング練習を見守る感じだ。
最近はディープスリーを磨いているので、遠くからシュートを打つ。こぼれた球はチームスタッフが球を拾ってくれるし、椅子に座っているルーカスもたまにボールを投げてくれる。
『そんな離れたところから打っても意味ないぞ。線ギリギリで打たないと』
ルーカスが言う。
『この距離からもスリーが打てればディフェンスは守り辛いだろ?いずれシューターはこの距離から撃つのが常識になる時代が来るよ』
『ダイの場合、線ギリギリからでも十分守り辛いけどな。高すぎて……まぁそれは良いんだ。今のラバリアのチームの状況についてだ。』
ルーカスはまじめな表情に切り替えると、ため息をついて続けた。
『ラバリアについては色々疑問があると思うけど、実はセバスチャンがBIG4を揃えるためにチームのサラリーをほとんど使っちまったんだ。』
『なるほど…つまり、他の選手は最低サラリーってことか』
『ああ』
どおりで選手層が薄いと思ったぜ。
最低サラリーで来てくれる人なんて、ルーキーか能力不足の選手だけだもんなぁ。
『その中でも、アルフレードは唯一センスがあって、プロでも戦えるレベルの選手だ。ただし、まだ18歳のルーキーだからな。まだまだ粗削りだ、レアロ相手に戦うのは厳しいだろう』
『そうか…まぁ、高卒一年目だから仕方あるまい。むしろよくやってるよ彼は。』
『中卒一年目が何言ってんだ。』
『そこは気にするな』
ついつい自分の年齢を忘れてしまうぜ。
これ転生者あるあるだと思うんだが、どうでしょう?
『それでまあ、アルフレードは経験不足だからな。ゲームメイクもワンパターンになりがちだ。セバスチャンが指示できればいいんだけど、彼も戦術指示が苦手だから期待できない。』
『…なんで彼は監督やってんだ?』
選手採用から作戦までいいとこなしだぞ、セバスチャン。
『だから、ダイ、お前に頼みたいんだ。ポストプレイをやりつつ、積極的にスクリーンに行ったり、たまに外に出たりしてゲームメイクを手伝ってほしい。』
『なかなか大変な注文だな…まぁ当面はそれでやるしかないか』
それよりも問題は、
『いつ復帰できる?』
ルーカスは一瞬、目を深くつむり考えた。そして、
『2週間はかかる。レアロに勝てれば次の相手との試合には出れるはずだ。』
と、悔しそうな表情でそう答えた。
そうなると、レアロとの試合はルーカス抜きか。
厳しいなぁー。
『足首の怪我はビッグマンの宿命だ。ゆっくり直してくれ。』
『ああ…というか、ダイは全然怪我しないよな。俺と同じくらい体重があって、倍くらい飛んでるのに。』
『俺は健康だからな。』
『いや、それですましていいのか?何か怪我しないコツとかあるんじゃないのか?』
『健康スキルを取得することだな。』
『…俺の英語力の問題か、何を言っているのか全然分からんぜ。まぁいいや、とにかくダイまで怪我したら終わりだからな。慎重にプレイしろよ。』
『ああ、健康に関しては俺の右に出るものはいないぜ。任せてくれ。』
ということで、俺はルーカスの代わりにセンターをやりつつ、アルフレードのフォローをすることになった。
『…仕事が多い!!』
だがやるしかない。
俺はチームスタッフやルーカスに協力してもらいながら、ポストプレイの練習やガードとしての動き、スクリーンを使ったシステムの練習をしていった。
【プレイオフ開幕戦】
さて、いよいよプレイオフ初戦。レアロとの試合の日がやってきた。
今日はホームコートでの試合ということもあって、9割近くがラバリアのファンで埋め尽くされている。
レアロ戦でこんな光景が見えるとは。俺たちも人気チームになったなぁ。
ファンの前で情けないところは見せられない。勝つぞ。
・前半戦
レアロはマルティンとダニエルのツインタワーを軸として、スピードのあるガード陣もいる熟達したチームだ。
特にPGのジェイコフはリーグNo.1の呼び声高い選手で、攻守ともに隙が無い。
試合開始早々、ジェイコフの3Pが決まる。
こちらのオフェンスに移った。
アルフレードがボール運びをすると、ラバリアファンの熱い声援が届く。
俺はポストに入ってマルティンと競り合いを行う。身長が220cmを超えて筋肉もついてきた俺だ、ゴール下の競り合いで負けることはまずない。
アルフレードからバウンドパスでボールが入る。
フェイントを入れてロールでライン際からゴール下へ向かうと、ダニエルがヘルプに来た。すかさずPFのフランクにパスを出そうとするが、なぜかトップの方に居るのでパスが出せない。
『何してんだ!?』
しょうがないので、フェイダウェイでかわして打つ。
入った。
ルーカスみたいにうまく連係が出来ないな。
ゴール下にいてくれればアリウープできたんだが…
まぁ最近俺がPGのシステムばかりで、フランクとのポストでの連携は練習してこなかったしな。
しょうがないか。
その後も、オフェンスではポストプレイで得点を狙うが、アルフレードへのディフェンスが厳しく、中々パスが供給されない。
パスカットやドリブルスティールからのターンオーバーも多い。
アルフレードがマークマンのジェイコフに完全に競り負けている。
『もっとしっかりボールキープするんだ!』
監督から檄が飛ぶ。
流石に高卒一年目のルーキーにジェイコフのディフェンスは荷が重いようだ。
ディフェンスでも、アルフレードとアントニオのガード陣が狙われている。
1on1で抜かれたり、ピック&ロールでダニエルにボールが入り簡単にゴール下のシュートを打たれている。
しかし、アントニオの3Pシュートが良く決まっていることと、リバウンドは攻守ともに俺が取れていることがあり、点差はそこまで広がっていない。
だが、戦術的にはずっと負けている感覚がある。
『アントニオ、ナイスシュート!』
『ありがとう、ダイ。でも、もっとインサイドで点を取らないと安定しないよな…』
そのままレアロ優勢で試合は進み、徐々に点差が離されていった。
最終的に、前半は48-59でレアロリードのままハーフタイムに入った。
・ハーフタイム
俺たちはセバスチャン監督のもとに集まり、作戦会議を始めた。
『さて、どうするか?』
難しそうな顔をしたセバスチャンが言った。
『え、そっちが作戦考えるんじゃないの?』と心の中で突っ込みつつ、俺たちは黙って聞いていた。
アルフレードは困惑した表情で、助けを求めるように俺を見ている。
そのまま謎の時間が過ぎる。
監督からの指示がない…
アントニオから謎のアイコンタクトが来る。
アルフレードは困惑したままだ。(かわいそう)
さすがにこれはまずいと思い、俺が口を開く。
『監督、俺がPGをやります。』
『それだと、ゴール下が薄くなるが…?』
セバスチャンが心配そうに言った。
『パスカットやドリブルスティールからターンオーバーされるよりは、リバウンドを取られる方がまだいいです。一度試してみましょう』
セバスチャンは一瞬考え込んだが、やがて頷いた。
『わかった、ダイ。君に任せる。』
よし、何はともあれ作戦は決まった。
『後半は俺がボールを運ぶ。アルフレード、君はもっと自由に動いてくれ。』
『了解、ダイ!』
アルフレードがほっとしたように返事をする。
『アントニオ、お前の3Pシュートが鍵だ。しっかり決めてくれ。』
『任せろ、ダイ。』
『フランク、お前のリバウンドが重要だ。頼むぞ。』
『分かった、任せてくれ。』
『よし、後半戦も全力で行くぞ!』
『『『『おう!』』』』
こうして、俺たちは新たな作戦で後半戦に臨むことになった。
セバスチャンの不安げな顔が気になるが、俺たちの決意は固い。これで勝負をかける。
・後半戦
後半が始まり、俺がボールを運んでいった。
相手は俺のマークマンをPGのジェイコフに変えてきた。
流石に彼を1 on 1で抜くのは厳しそうだ。
その代わり、上パスが簡単に通せるのでゴール下にいるフランクにパスを入れて攻める。
だが、ダブルチームに捕まってボールを取られてしまう。
『フランク、しっかり!』
『すまん、ダイ。でも、ダブルチームはきつい…』
やはり、本来PFのフランクがCをやって、SFのネルソンがPFをしている状況では、ポストから攻めるのは厳しいようだ。
ディフェンスでは、俺がポストに戻って守る。ジェイコフにつくと、リバウンドが取れなくなるからな。
前半同様、ガード陣が1on1で抜かれてシュートを打たれるが、リバウンドが拾えるので連続での失点はあまりない。
そのまま膠着した状態が続く。
このままではまずいので、オフェンスは思い切って俺が3Pを打つようにした。
今日は調子が良く、2本続けて入った。
ジェイコフのディフェンスも身長差がありすぎて問題にならない。
アリーナからは今日一の大歓声があがった。
『よっしゃ!ダイの3Pが火を吹いてるぞ!』
『これで点差を縮められる!』
『頼むぞダイ!ラバリアに勝利を!』
徐々に点差が近づいてきた。
途中からSFの選手がヘルプでブロックしに来るようになったので、アントニオにパスを出す。
アントニオも絶好調、3Pを連続で決める。
ついに同点になると、ラバリアファンが湧く。
『やった、同点だ!』
『このまま!このままいけー!』
『アントニオ、ナイスシュート!!』
『アント!!』
残り50秒。
相手のオフェンスだ。
アリーナが緊張に包まれていた。
観客席では誰もが息を呑んで見守っている。
ボール運びをしたジェイコフが、そのまま1on1をしかけてきた!
アルフレードを抜き、ミドルシュートを打とうとする。
その瞬間、時間が止まったかのように感じられた。
『させるか!』
俺はゴール下からジャンプしてチェックに行く。
指先がかすった!シュートが落ちることを確信する。
そのまま再び後ろへジャンプして、リバウンドを取る。
ラバリアファンが再び大歓声を上げた。
『ダイ、ナイスリバウンド!』
『そのまま!そのまま!』
「東雲君、決めてくれー!!」
ラバリアファンが立ち上がり、大声で叫んでいる。
その歓声は耳をつんざくほどだ。
俺はそのままボールを運ぶが、相手はツインタワーのダブルチームで守ってきた。
流石にシュートは無理だ。
コーナーでフリーになっていたアントニオにパスを出す。
『アントニオ、頼む!!』
俺からのパスを受け取ったアントニオは、冷静にドリブルで一歩近づいてミドルシュートを打つ。
ボールがリングに向かうその瞬間、観客全員が息を飲んだ。
そして、ボールがリングに吸い込まれるように入った瞬間、ブザーが鳴り響いた。
観客席は大歓声に包まれ、スタジアム全体が揺れるほどの振動が起こった。
『やった、勝った!』
『アントニオ!!お前は最高だ!!』
『ラバリア!WIN!!ラバリア!WIN!!』
ファンたちは抱き合い、涙を流している人もいる。
観客全員が興奮と歓喜に満ち溢れている。
怒号のような大歓声がスタジアムに響き渡った。
アントニオは皆に祝福のボディタッチを受けている。
俺も興奮したまま近づいて背中をはたくと、アントニオが前につんのめった。
『力つえぇよ、ダイ!』
『すまん、アントニオ!』
俺たちは笑いあって、勝利の瞬間を噛みしめた。
最終的には、105-103でラバリアの勝利となった。
俺は24得点22リバウンド6アシスト。
アントニオは45得点2リバウンドの大活躍である。3Pは10/11で決めている。
ヒーローインタビューはアントニオだ。
美人アナウンサーの質問に、嬉しそうに答えている。
さて、どうにか勝つことが出来た。
アントニオがチームに居てくれてよかったぜ。
しかし、アントニオが好調だったから勝てただけで、戦術的には負けてた気がする…
次からどうしようか…?
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