15歳-3 ラバリアの改革
俺がラバリアでプレイを始めて、1カ月が経った。
この1カ月はまさに怒涛の日々だったが、昨日、今年度の年棒の6万ユーロ、日本円で約1000万円が振り込まれていた。
スペインでは無名の選手のはずなので、もう少し安いかと考えていたので思いのほか貰えていて驚いた。
プロ選手としての初給料、さすがに感慨深いものがある。
ひとまず300万円を施設と院長に振り込んでおいた。もう少し振り込みたいのだが、税金等が怖いので(勉強中)。
院長からはお礼のメールが届いていたが、長文すぎてまだ読んでいない。院長は感謝の気持ちと自分語りと施設での様子等を全てミックスして文章に織り交ぜてくるタイプだから、あとでじっくり読もう。
ラバリアは俺が加入後、2勝2敗の成績を残している。ルーカスと俺が主体となってインサイドを攻める戦法が効果を発揮しているので、セットオフェンスを軸にしたチームには勝てる。派手なダンクシーンも多いので、ファンも大盛り上がりだ。
しかし一方、速い攻めを得意とするチームやガード陣の能力が高いチームには負けている。このままではプレイオフに進出できそうにないので、何とかしなければならない。
今の成績は7勝16敗で、残り11試合。8位までがプレイオフ進出なので、残りの試合を全勝する必要がある。どうにかせねば。
さて、そんな中、ルーカスから練習の誘いがあった。
『おい、ダイ!今日の午後、練習しないか?』
『おいおい、今日は休息日じゃないのか?』
『そうだけど、君と一緒に練習したいんだ。今のうちにもっと連携を強化しよう。』
『ほう…オーケー、行こう!』
ルーカスはこんなに練習熱心なやつだったか?と若干の疑問を抱きつつ、さっそくチームの練習施設へと向かった。
ここは設備が充実していて、トレーナーやスポーツドクターが常駐している。バスケットボールのトレーニングには最適な環境だ。
まずは3Pのシューティング練習からスタートした。
ルーカスと交互にシュートを打っていく。ボールはサポートスタッフが回収してパスを返してくれるので、シュートに集中することが出来る。
『ダイ、ここからの試合は何としてでも全勝しないといけない。(ガンッ)』
『分かってる。だが、今のままのシステムでは難しくないか?(シュパッ)』
『ああ、やはり気づいてたか…セバスチャンがビッグマンに固執するのは、現役時代に決勝で3度も敗れたチームがビッグマン主体のチームだったからなんだ。自分の背が低いのもあるしな(ガンッ)。』
『だからって、今のBIG5システムは明らかにおかしいけどな。まぁ、彼の考えを変えるのは難しいよな、フロントとも仲がいいし。(シュパッ)』
『そうだ。そこで君を誘ったんだ!セバスチャンが欲しがる高身長選手でありながら、外でもプレイできる。もう言いたいことは分かるな?(ガンッ)』
『俺がSFのポジションでプレイしろってことか?(シュパッ)』
『いや、PGだ。今はSGのアントニオが無理やりゲームメイクをしているが、彼の本質はシューター、その辺りは不得意だ。アルフレードの穴を埋めてくれ。(ガンッ)』
『流石にやったことがないんだが…。(シュパッ)』
『大丈夫だ、問題ない。君のスピードと視野なら、すぐにできるようになるさ。(ガンッ)』
『・・・まぁ、今のシステムでは戦うよりは良い気がするな。わかった、やってみるよ(シュパッ)』
俺はルーカスの提案を受けることにした。
このままのスタイルで戦い続けても、速さのあるチームには負けてしまう。
それなら、PGとして俺がゲームメイクにチャレンジしたほうが、まだ勝率が上がりそうだ。いずれは外でプレイしたいと思ってたしな。
『ところで、ダイ。3Pシュート入りすぎじゃないか?』
『ルーカスが外しすぎだ。フリーなのに全部外しただろ、今。』
『いや、俺はセンターだからいいんだ。外には出ないし。』
『いやいや、近いうちにセンターも3Pを打たなきゃ勝てない時代が来るぞ。』
『そんな時代は来ない!!俺の役割はゴール下で支配することさ。』
『・・・あまりに力強い断言だから、説得されそうになるな』
数年後には、3P全盛期が来ることは確定してるんだが。
『明日のレアロは首位を独走しているチームだ。ここで勝てれば勢いをつけることができる。ダイのゲームメイクに期待してるぞ!』
『おう、何としても勝つぞ!』
その日の練習は、これまでにないくらい集中できた。
PGとしてプレイすることを決めたからな。
サポートスタッフやルーカスに手伝って貰い、中1の時に少しやっていたボール運びやゴール下へのパスを繰り返し練習し、ゲームメイクの感覚を思い出していった。
『明日はバックコートを支配してやるぜ!センターも3P打つ時代が来たら、ルーカスにも外パスを出してやるからな。』
『それは勘弁してくれ!』
『じゃあ、俺がPGをやる間はルーカスが全てのリバウンドを取るってことで。』
『それなら了解だ、ダイ。明日は全員で勝ちに行こう!』
練習施設には笑い声が響き渡り、俺たちの士気は最高潮に達した。明日の試合が楽しみだ。
さて、いよいよレアロとの試合の日がやってきた。
今日はホームコートでの試合だが、半分近くがレアロのファンで埋め尽くされている。さすが人気チームだな。サッカーでもレアロと言えば一番人気なイメージがあるし。
だが、ルーカス曰く、これでもファンが戻ってきた方らしい。俺が来る前は3割もいなかったとか。
・試合前のミーティング
『監督、今日の試合は俺がPGをやりたいんだ。』
俺はセバスチャンの説得を始めた。
『何を言ってるんだ、ダイ!君はチーム一番のビッグマンなんだぞ!』
怒る監督。
『いやいや、監督。これからはビッグマン全盛の時代です。PGもビッグマンが支配する日が来たのです。今日の試合だけ試してみませんか?』
ルーカスがセバスチャンの考えに合わせた説得をしてくれた。
できる男である。
『うむ…そうだな今日だけなら…分かった。やってみるんだ、ダイ。』
ヨシッ!監督のゴーサインが出たな。
後はこのシステムを成功させるだけだ。
・前半戦
相手は211cmのマルティンと209cmのダニエルのツインタワーを軸とするチームだ。ラバリアと違うのは、ガード陣をスピードがある選手できちんと固めているところだ。まさにバランスの取れた良いチームだと言える。
試合開始早々、相手の3Pが決まる。さすがに手強い。
しかし、こちらも負けてはいられない。俺がドリブルでボール運びをすると、場内にどよめきが走った。
まぁ、219cmのガードはこの時代珍しいからな。ラバリアのファンも首をかしげている。
だが、一番困惑しているのは、俺のマークマンのマルティンだ。彼はパワータイプの典型的なセンターだからな。
彼のディフェンスは重厚そのもので、ゴール下では非常に手ごわい相手である。しかし、俺のスピードにはついてこれないはず。左右に揺さぶってクロスオーバーステップで簡単に彼を抜き去ると、観客席からは驚きの声が上がった。
ダニエルがヘルプに来たが、すかさずルーカスへアリウープパスを送る。ルーカスがこれをゴールへ叩き込み、場内に割れんばかりの歓声が響き渡った。
その後も、俺は1on1でマルティンを抜き続けた。彼も外でのディフェンスを頑張っていたが、俺のスピードにはついてこれないようだ。
ヘルプが来たら、ルーカスやアントニオにパスを出し、彼らがダンクや3Pを決める。特に、慣れないPGから解放されたアントニオが絶好調だ。まるで水を得た魚のように、自由自在にコートを駆け回っている。
『おい、ダイ。あのアントニオの笑顔見たか?俺たちがやってること、間違ってないぞ。』
『もちろんだ、ルーカス。このシステム、いけるぞ!』
そのままの勢いで、ラバリアの攻めは続いた。
2Qからはマルティンが下がって守るようになったので、3Pを打って点を量産した。俺のシュートが次々とネットを揺らし、レアロのディフェンスは混乱している。
前半は62-48でこちらがリード。観客席のレアロファンは次第に静かになり、ラバリアのファンは声を張り上げて応援している。
このシステムはダンクも多いから見栄えするし、3Pもあって点が量産されているからな。ファンも俺たちのプレーを受け入れてくれたのだろう。
・ハーフタイム
『ダイ、素晴らしいプレーだったな。これで後半もこの調子でいけるぞ!』
『ありがとう、アントニオ。君たちが本来のポジションに戻ってくれたおかげさ。』
監督は満面の笑みで『このまま行こう!』と言っている。
現地のファンの声援やチアのダンスパフォーマンスが盛り上がりすぎて他の言葉は聞き取れなかったが、その一言だけで十分だ。
『ダイ、君の動きは見事だったよ。』
ハーフタイムが終わる直前、フランクが肩を叩きながら褒めてくれた。
『君も良い仕事だったぜ、フランク。後半も俺の代わりにリバウンドを頼んだぞ。』
こうして、俺たちは後半戦に向けて気合を入れ直した。
レアロに勝つために、そしてファンの期待に応えるために、全力で挑むつもりだ。
・後半戦
相手は俺のマークマンをSGの小柄な選手(195cm)に変えてきた。流石に素早く、更にディフェンスが上手いので抜きづらくなった。
『こいつ、ちょこまかと動きやがる…』
しかし、上パスが簡単に通せるので、ゴール下にいるルーカスやフランクにパスを入れて攻め続けた。
彼らの連携も見事で、高確率でシュートを決めてくれた。
シュートを外しても俺がすぐに相手コートへすぐに戻れるので、速攻やターンオーバーで点を取られることがほぼない。ブロックも量産しているので、相手の攻撃もなかなか決まらない。
前半ほど連続では点が入らなくなったが、相手の点もそれほど入らないので点差がキープされたまま試合が流れていく。
観客の声援も一段と大きくなり、スタジアムの熱気がさらに高まっていった。
終盤に入ると、隙を見て3Pを打つようにした。
相手SGがシュートチェックに来るが、身長差がありすぎてほぼプレッシャーがない。
一度、相手SGが思い切りジャンプして腕を伸ばしてきたので、クロスステップで抜き去り、フリースローラインから思い切り飛んでダンクを決めた。
場内がどよめき、今日一番の歓声が響き渡った。
『うおおお!ダイのダンクが炸裂だ!』
『今とんでもない飛距離じゃなかったか!?』
『マイケルジョーダンかよ!?』
そのままの勢いで試合を進め、最終的には115-97でラバリア圧勝となった。
チーム全員が喜びを爆発させ、ファンも大歓声を上げている。
試合後、アナウンサーの女性が近づいてきた。
『ダイ選手、レアロからの初勝利、おめでとうございます!PGの役割を担うことになったことに戸惑いはなかったですか?』
『もともと外でプレイしたかったので、喜んでやりました。上手くチームにはまって良かったです。』
『今日の試合が上手くいった要因は何だと思いますか?』
『みんなが元のポジションに戻って、実力を発揮できたことが大きいですね。あとは…俺がサイズの割に速かったからかな。』
『ファンに向けて一言お願いします。』
『声援が励みになっています。今シーズンの残り10試合は全勝するから、応援よろしく!』
スタジアムの歓声が一段と大きくなった。
負けこんでいる状況でも応援に駆けつけてくれた熱心なファンたちだ。
熱が入った良い声援を送ってくれている。
垂れ幕や旗に書いてある名前は殆どがルーカスやアントニオだが、なかには“DAI”と書いたユニフォームを着たファンもいる。
シンプルに嬉しい。
『ありがとうございました。次の試合も応援しております』
こうして、俺たちは首位のレアロから大きな勝利を手にすることができた。
この勢いで残りの試合も全勝するぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます