第122話 作戦会議
組合長の爆弾発言と、その後の不自然な殺気(ストーカー)によって、空気が緩んでいたところで、組合長が話をつづける。
「まあ、その件はいったん置いておいて。剛志君、君の今後について話をさせてくれ。我々としても、三雲の脱獄を許した件もあるので、君の今後の身の振り方なども含めて今一度話をさせてほしいというのがお願いになる。もちろん今までのように過ごしてもらうというのが望みなら全力を注ぐが、正直すでに君の存在はこの緊急時に無視できないのだ。今までの優秀な探索者というくくりから、対A.B.Y.S.S.の戦時中の今、君の存在はとても重要なのだ。組合としてもさすがにほっておくわけにもいかなくなった。少し窮屈になるかもしれないが我々も一緒に今後のことを考えさせてくれないか?」
そういう組合長の表情は真剣そのものだった。このダンジョン組合という組織は、始まりは政府関係者による探索者の監視、統治が目的で作られていたのだが、その体制に不満を抱いて実力と実績によってそういった連中を追い出し、探索者の権利を守っているのが今ここにいる町田龍之介本人なのだ。
そういった背景もあり、現在の日本ダンジョン組合は探索者の自主性を重視する傾向にある。それによって多くの探索者の支持を得ている一方、何か問題が起きた際の対処がしづらいというデメリットも内包していたのだ。
そんな組合長自ら、剛志という一人の優秀な探索者に対し、その行動を制限するようなことをほのめかしていることは、分かる人から見るとかなり重要な判断なのだ。
そこまで詳しいことを知っているわけではない剛志だが、真剣な様子の組合長と本人の性格も相まって、その提案に対し特に悩むことなく受け入れた。
「ええ、そうですね。お願いします。さすがに今のままというわけにはいかなくなってきたことは理解しているので。」
そう返事を出した剛志に対し、組合長はほっとした様子だ。
そこに臼杵も話しに入ってきた。
「組合長。剛志のことは本人がこういっているわけですし、わかりました。そうすると俺たちはどうします?もともとは剛志の護衛として雇われていたわけですが…」
「え、そうか。確かに元々というか今も護衛だよね。正直普通のパーティーメンバーだと思ってたから、忘れてたよ。」
そういって今気が付いたような反応をする剛志。それに対し臼井はあきれたように続ける。
「お前な。逆にパーティーメンバーだと思っていたなら、そういう判断はメンバーの意見も聞けって。どこか抜けてるんだよな…」
そんな二人のやり取りを見ていた組合長は、その疑問に対し答える。
「ああ、ここまでの関係性がすでにできているのにわざわざ分けることはないな。君たちさえよければこの後も続けてくれないか?あと、もし護衛という関係を解消して普通のパーティーになるということでも同じ期間分の費用は出すから気にしないでくれ」
そういってこの件は継続するということで決着がついた。今までやり取りを見ているだけだった万葉も、納得しているということだったので、三人は晴れて正式にパーティーとして活動をすることにした。
万葉は妹の百花の件もあるし、臼杵はそもそも活動地域が離れた場所だったため、基本的には各々が自由に動くが、仲間という関係性がしっくりくるようなパーティーになりそうだ。
それについてはこれから詰めていくとして、今は剛志の今後に関して決めていかなくてはならない。そこで町田所長が剛志に提案を始める。
「剛志くん、私の方から今後の計画がある。一度それを聞いてみてくれないか?まず、前提として剛志君には今後もダンジョンでレベルを上げてほしい。これは今後より敵の攻撃が激しくなっていった際に、レベルがないとそもそも話しにならないというのが私たちの考えだ。安全圏に隠れるというのも選択肢としてはあるが、組合側としても強力な戦力になってほしいというのが正直なところだ。あと、もう一つだが、以前から話に上がっていた君のゴーレムへの人工知能搭載の件、これだが有名な教授とコンタクトをとることができたからその人に相談してみてくれないか?向こうもかなり乗り気の様で返事をせっつかれている状態なんだ。」
そういいながら、タブレットに表示した教授のプロフィールを見せてくる町田所長。レベルアップの件はそもそもするつもりだった剛志はそのままプロフィールをのぞき込むのだが、そこに一旦待ったをかけたのは臼杵だ。
「おいおい、ちょっと待てよ。剛志、お前さんレベル上げできるのか?あれだけの攻撃を食らったらトラウマになっててもおかしくないぞ。今は平気だと思っても実際にダンジョンを潜ってみると恐怖を感じるとかもあり得る話だ。その部分はしっかりと考えてから答えるべきだと俺は思うぜ。」
そういう臼杵の表情は真剣そのものだった。剛志はそういわれて確かにとも思い、改めて自分がどう思っているのかを考えてみる。正直闇の大精霊に何度も致命傷を与えられ、どんどんと身代わりの数が減っていくのは、本当に命の危機を感じかなりの恐怖が自分を支配していたと思う。
その時のことを考えると今でも恐怖で体がこわばるのを感じる。これがトラウマになっているということなんだろう。
でもだからと言って、自分がダンジョンに潜るのが嫌かというとそうではない、むしろどんな相手でも圧倒できるほどの力をつけたいとさえ思う。そっちの方が恐怖が和らぐ気がするのだ。
「う~ん、考えてみたけど、今時点だとダンジョンに潜ってレベルを上げたいとは思ってる。闇の大精霊との戦闘を思い出してみたけど、体がこわばってくるしトラウマみたいになっているのも確かだ。でもそれを解消するのも自分が強くなるしかないと思っているのも確かなんだ。だからやってみないとわからないけど、これからもダンジョンに潜ってレベルを上げるつもりだよ。だからそこはその方針で良いと思う。」
そう答えた。それに対し臼杵は「お前がそういうなら、これ以上は言わねぇよ」と言って納得してくれた。
しかし、その横で組合長の方からも剛志への忠告があった。
「剛志君。トラウマというのは案外自分では気づきにくい時もある。しかし命の取り合いをするような戦闘では一瞬のスキが命取りになるのはわかっていると思うが、その隙をトラウマが生んでしまうことは往々にしてあることだ。今は平気だと思っているなら強くは言わないが、臼杵君の心配していることは大事なことだ。我々もそこを無理強いはしないのでもし辛かったら相談してくれ。」
ここにいる臼杵、万葉、町田所長、組合長の四人のうち、剛志の戦闘をその目で見た二人がここまで心配するということに、剛志の戦闘がどれだけ過酷なものだったのかが伺えるだろう。
勿論町田所長も甘く見ていたわけではなかったのだが、どこか理解しきれていなかった部分もあったのかもしれない。
そんな風に少しピリッとした空気感の中、剛志の今後の動き方に対する作戦会議は続いていくのだった。
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