第44話 初めて俺に付く外務省の担当者
翌日は事務所開きだ。
朝の朝食はゆっくり取れたが、これからはわりと忙しい。
殿下たちを羽田に迎えに行かないといけない。
食事をみんなで取ったあと、全員で地下駐車場にある車寄せまで降りていった。
ここには既にチャーターしたデラックス観光バスが1台停車してあった。
「このバスでいいんだよね」
「はいこれです。
あ、扉に案内が書いてあります」 とそこには『NCファンドコーポレーション様』って書いてあった。
大手バス会社の観光バスだ。
これなら安全面でも問題なさそうだ。
尤もハリー殿下やエニス王子はこれには乗らずに、外務省の中里さんが手配してあるリムジンでここまで来ることになっており、そのリムジンとも羽田で落ち合うことになっている。
「さ~乗って。
飛行機が付くまでそんなに時間がありませんよ」
イレーヌさんがみんなを促しバスに乗り込んだ。
そのままバスは羽田に向かった。
羽田には既に中里さんの用意したリムジンが駐車場に止まっていた。
ここは一般の方がはいれないエリアなので、いつ来ても駐車場には余裕があるが、それにしてもデラックスバスとあまりに豪華なリムジンとの組み合わせは悪目立ちが過ぎる。
羽田のような大都市であるからいらぬ注目を浴びずに済んでいるが、毎週のようにやってくる自家用機との組み合わせはどうなのかと、俺は今更ながら心配になってきた。
俺の心配をよそに空港職員に連れら送迎者用の待合室に案内された。
そこには中里さんが同僚の女性と一緒に待っていた。
「おはようございます、中里さん」
「や~、直人くん。
おはよう、今朝も元気だな」
「ところで、そちらの方は初めてですよね」
「お、早速、美人に目をつけたか。
そんなに美人を囲っていても、まだ足りないと見えるな。
それも若いということかな」
「課長、それってセクハラになります。
よしてください」
「悪い悪い、藤村君。
ちょうど良かった、ここで紹介しておくよ」
俺は先ほど感じた悪目立ちを警戒していたために、初顔に反応しただけだったのに、好色と取られたのがちょっと驚きだったのだが、当の藤村さんと言われた女性の方がかなりのご立腹だ。
確かにセクハラとも取られない会話だったと認めるが、男同士なら割と当たり前のような冗談だと思えるのに、女性が入ると会話の内容にも注意が必要だな。
ここは詫びておいてもいい場面だ。
大体、中里さんが連れてきたのだから、外務省関連の職員だろう。
お上には逆らわないというのが一般的小市民の正しい対応なのだ。
どこが一般的だとか小市民だとかはこの際置いておいて、とにかく自己紹介だけでもしておこう。
「おはようございます。
私は本郷直人といいます。
今回ボルネオから殿下たちを招待した責任者?です。
先ほどの私の会話から、不愉快な思いをさせたようでここでお詫びしします」
「あ、え、あ、おはようございます。
先ほどの件は本郷様には責任はありません。
あまりに無神経な課長が悪かったのですからお気になさらないでください」
「おい、それよりも直人くんが先に名乗っているのに、まず名乗らないと相手に失礼だぞ。」
「あ、あ、すみませんでした。
私は先日課長の部署に配属されました藤村と申します。
藤村明日香です。
これから、本郷様の担当となりますのでよろしくお願いします」
「え、俺の担当?
担当って何ですか」
「まずは、コイツのことから紹介するが、先日俺の部署に来た藤村だ。
直人くんの先輩になり、俺の後輩でもある東都大学の出身だ。
例の件でゴタゴタしていた時の配属で、色々と状況を説明しきれていないが、今度直人くんの担当に専属であたってもらうことになっている。
今までどおり俺を頼ってくれてもいいが、一応、今後外務省の窓口となる藤村に、これからは声をかけてくれ」
「え?
だから、何ですか。
その専用窓口とか、担当とか言うの。
里中さんたちって、外務省のお役人でしょ。
そんな人が専属で担当って、これって小市民に対するいじめですか」
「小市民って、お前、自分の置かれている立場を理解してないな。
スレイマンも、ボルネオも日本の大切な資源輸入先だ。
その両国のトップに簡単にアクセスできる人間が小市民って、ありえないだろう。
それに、直人くんはスレイマンの貴族であり、まだ裏付けは取れていないがボルネオでも貴族待遇だと聞くぞ。
そんな日本人がいれば政府は絶対に抱え込みにかかるだろう。
それに、先の件もあるし、直人君たちのグループは大明共和国からも、下手をすると高麗民国からも命を狙われるおそれもあるし、そんな人間が政府の保護なしであるはず無いだろう。
外務省としても、最優先事項となっているしな。
幸い俺が直人くんと個人的に繋がりがあったために俺主導で政府の対応をすることになっているので、直人くんと年の近い明日香くんを担当に付けたという訳だ」
「そ、そういうことなら。
でも、これ以上大事にはしないでくださいね。
俺、今月から大学生なので、普通に大学生活をしたいので、その邪魔になるようなことだけは避けて欲しいかな。
里中さん、そのあたりの塩梅をよろしくお願いしますね」
「わかっているよ。
だから、そのための担当だ。
間違ってもSPなんざ付けたくないだろう。
政府のお偉方はSPを付けたがっていたけど、相手が諜報機関だとあまり意味がないしな。
なので、居所だけは常に分かるようにしておいてくれ」
「そういうことなら、イレーヌさんを紹介しておきます。
なにせ、彼女が日本における代表者になるから。
それに、飛行機が着いたらアリアさんも紹介しておきましょう。
現在、アリアさんが彼女たちの代表を努めておりますし、イレーヌさんとかおりさんの3人で全体を見てもらっておりますから。
イレーヌさん、それにかおりさん。
ちょっといいですか、紹介したい人がいますので」 と言って、直人はイレーヌさんとかおりさんを呼んで里中さんの部下の藤村さんを紹介しておいた。
そんなやりとりが続く中ボルネオからの専用機が羽田に着いた。
お忍びとは言え、VIPである皇太子殿下の一行だ。
入国もほとんど待つことなく待合室に全員が入ってきた。
その場で殿下と王子の紹介だけを済ませてそれぞれの車に乗り込んでいった。
ハリー殿下とエニス王子、それに大喬さんと皇太子府付き侍従の方の一人が里中さんが用意したリムジンに乗り込んでいった。
で、残りは俺がというよりイレーヌさんが準備していたバスに乗り込んで一緒に羽根木インペリアルヒルズに向かった。
2台の車列は問題無く羽根木インペリアルヒルズの地下駐車場の中に入って行き、車寄せの前で止まった。
イレーヌさんが殿下たち一行を俺の住居となっているペントハウスまで連れて行き、かおりさんが女性たちを準備中の事務所の方に連れて行った。
俺は新たな担当となった藤村さんを連れてイレーヌさんの後に付いてペントハウスに向かった。
ペントハウスには来客用にとかなりラグジュアリーなリビングスペースがあり、そこに殿下たちをお連れして時間まで待ってもらうことになっている。
そこで、殿下たち一行に里中さんをはじめ新たに担当となった藤村さんを紹介しておいた。
先にイレーヌさんを紹介しておいたので、時間の許す限りイレーヌさんが藤村さんに俺の女性たちを紹介して回った。
なんだかあの二人も相性は良さそうだ。
ふと急に、海賊興産の残念なふたりの顔が浮かび、藤村さんの酒の席での醜態のないことを祈った。
着いてから一時間とかからずに事務所開きの時間となったので、俺たちはイレーヌさんに連れられて、事務所の方に向かった。
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